2019 Fiscal Year Research-status Report
細胞壁ターンオーバーを介した黄色ブドウ球菌の薬剤耐性と抵抗性の包括的制御
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19K07546
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
奥田 賢一 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (70624245)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 / 薬剤耐性 / 細胞壁 / バイオフィルム / 抗菌薬 / β-ラクタム / mecA / トランスグリコシラーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
黄色ブドウ球菌は院内感染の主要な原因菌であり、敗血症や創部感染などの感染症を引き起こす。本菌による感染症の難治化要因として、耐性遺伝子の獲得・発現による薬剤耐性化とバイオフィルムと呼ばれる薬剤抵抗性の菌-マトリックス集合体の形成による薬剤抵抗性の獲得が挙げられる。これまでの研究において、黄色ブドウ球菌の薬剤耐性と薬剤抵抗性に細胞壁ターンオーバー因子が関与することが示唆されている。本研究では、細胞壁ターンオーバーと薬剤耐性・抵抗性がどのような分子機構によって結びついているかを理解し、黄色ブドウ球菌による難治性感染を効果的に制御するための基盤構築を目指す。 本年度は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の細胞壁ターンオーバー因子がバイオフィルム形成と薬剤感受性に及ぼす影響について検討を行った。MRSAが保有する細胞壁ターンオーバー因子IsaAとSceDに着目し、遺伝子欠損が表現型に与える影響を解析した。3つのMRSA臨床分離株についてisaAとsceDの遺伝子欠損株を作製し、各株のバイオフィルム形成量を調べたところ、全ての株においてisaAの遺伝子欠損はバイオフィルム形成量を有意に低下させた。一方で、sceD欠損株と野生株のバイオフィルム形成量には差が見られなかった。次に各株の抗菌薬感受性を調べたところ、isaA欠損株ではβ-ラクタムに対する耐性が野生株と比較して著しく低下しており、isaA欠損株に対するオキサシリンの最小発育阻止濃度は野生株の1/256~1/64であった。isaA欠損株において低下したβ-ラクタム耐性は、isaAのプラスミド発現によって相補されたが、MRSAにおける主要な耐性因子であるmecAのプラスミド発現によって相補されなかったことから、isaA欠損株においてはmecAの発現レベルに依存せずβ-ラクタム感性化が誘導されることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における主要なテーマである「細胞壁ターンオーバー因子と薬剤耐性・バイオフィルム形成の結びつきにおける分子機構」について、その一端を明らかにすることができた(Antimicrob. Agents. Chemother., 63, e01277-19, 2019)。これは、MRSAの薬剤耐性における細胞壁ターンオーバー因子IsaAの重要性を明らかにした初めての報告である。当初の予想に反し、細胞壁ターンオーバー因子の遺伝子欠損株におけるβ-ラクタム耐性の低下とMRSAのβ-ラクタム耐性における主要な因子であるmecAの発現レベルに相関は見られなかったことから、MRSAの薬剤感性化を誘導する新規メカニズムの存在が示唆された。よって、細胞壁ターンオーバー因子はMRSA感染症の難治化要因である薬剤耐性を制御する上での新たな標的分子となる可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞壁ターンオーバー因子の欠損によってMRSAがβ-ラクタム感性化となる分子機構を、より詳細に明らかにする予定である。これまでは、特にペプチドグリカン糖鎖を分解するトランスグリコシラーゼに着目して解析を行ってきたが、他のタイプの細胞壁分解酵素についても遺伝子欠損株を作製して表現型に与える影響を評価する。また、電子顕微鏡観察により細胞壁構造に与える影響を解析する。加えて、MRSAのβ-ラクタム薬に対する感受性を向上させる化合物のスクリーニングにも着手する予定である。得られた化合物については、細胞壁ターンオーバーに作用する可能性も含めてその作用機序を解析する。
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Causes of Carryover |
研究計画が順調に進捗し、消耗品費や委託費の使用額が当初の計画より低額となったために次年度使用額が生じた。 使用計画については、翌年度分として請求した助成金と合わせ、主として物品費および解析の外部委託費として使用する予定である。関連分野における最新の研究動向の調査や研究成果を広く発信する目的で、国際・国内学会旅費や論文投稿料としても使用する計画である。
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