2020 Fiscal Year Research-status Report
インフルエンザウイルスタンパク質NS1の二本鎖RNAマスキング機構の解析
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19K07575
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中野 雅博 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (90456997)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | インフルエンザウイルス / 高速原子間力顕微鏡 / リボヌクレオタンパク質複合体 / 二本鎖RNA / 自然免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまでにインフルエンザウイルスのリボヌクレオタンパク質(vRNP)を用いたin vitro RNA合成実験により、vRNPがループ状の二本鎖RNAを合成することを発見した。しかし、インフルエンザウイルス感染細胞においては二本鎖RNAがほぼ検出されないことから、インフルエンザウイルスは二本鎖RNAをマスクする機構を備えており、それにより自然免疫応答から逃れていると考えられる。本研究では、二本鎖RNA結合能を持つインフルエンザウイルスタンパク質NS1に着目し、その二本鎖RNAのマスキング機構を解明することを目的とする。 昨年度の結果から、NS1欠損ウイルス感染細胞では二本鎖RNAは核だけではなく細胞質でも検出されたことから、二本鎖RNAが細胞質に存在するRNAセンサーにより認識され、自然免疫を誘導する可能性が示唆された。そこで本年度は、この二本鎖RNAが自然免疫を誘導できるかを転写因子IRF3の核移行により評価した。その結果、細胞質で二本鎖RNAが検出された細胞においてはほぼ全ての細胞でIRF3の核移行が見られた。この結果はインフルエンザウイルスによって作られる二本鎖RNAが、感染細胞内で自然免疫を誘導できる可能性を強く示唆している。 さらに組み換えNS1を作製し、二本鎖RNAのマスキング機構を解析した。vRNPにより合成された二本鎖RNAおよびウイルス配列を有する人工合成二本鎖RNAに対するNS1の結合を高速原子間力顕微鏡により解析した結果、vRNPに結合した状態の二本鎖RNAに対してはNS1がRNA全体を覆うように結合していたのに対し、人工合成二本鎖RNAに対しては。まばらにしか結合していなかった。この結果から、NS1の二本鎖RNAのマスキングには二本鎖RNAの配列ではなく、vRNPの構成成分(ポリメラーゼまたはウイルス核タンパク質)の存在が重要であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
インフルエンザウイルスの場合、ゲノムの転写および複製は核内で行われることから、たとえ核内でvRNPによる二本鎖RNAの形成が起きたとしても、細胞質に存在するRNAセンサーによっては認識されないことから自然免疫も引き起こさないと予想された。しかし、昨年度の研究成果から核内で形成された二本鎖RNAは細胞質へと放出されること、さらに今年度の成果から細胞質に存在する二本鎖RNAが自然免疫を誘導していることが明らかとなり、この二本鎖RNAがインフルエンザウイルスによる自然免疫誘導に深く関わっている可能性を示した。さらに、NS1の二本鎖RNAのマスキング機構に関しても、二本鎖RNAの配列は重要でないことを新たに明らかとした。以上のことから、当初の目標である二本鎖RNAのマスキング機構の解明に加えて、インフルエンザウイルスによる自然免疫誘導に関してもこれまでにない新しい知見が次々と得られており、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
以前同定した二本鎖RNAのマスキングに重要なNS1のアミノ酸について、その変異ウイルスをリバースジェネティクス法により作出する。次に、得られた変異ウイルスを感染させた細胞において二本鎖RNAが検出されるかどうかを免疫蛍光染色法により解析し、NS1欠損ウイルスとの比較検討を行う。また、NS1の二本鎖RNAに対する結合様式の解析を高速原子間力顕微鏡を用いて引き続き進めて行く。今年度の成果から、NS1の二本鎖RNAのマスキングにはvRNPの存在が重要であることが明らかとなったため、その構成成分であるウイルス核タンパク質とRNAポリメラーゼのどちらが重要な役割を果たしているのかを。高速原子間力顕微鏡観察により解明したい。さらに、NS1のウイルス二本鎖RNAへの結合を高速原子間力顕微鏡を用いたリアルタイムイメージングにより解析する。マスキングの過程を追うことにより、NS1の二本鎖RNAへの結合がランダムなものかあるいは規則的なNS1間相互作用によるものかを解明したいと考えている。
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Causes of Carryover |
研究計画が予定していたよりも円滑に進行したため次年度使用額が生じた。次年度に消耗品の購入に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)