2019 Fiscal Year Research-status Report
iNKT細胞消失マウスの発見に基づくiNKT細胞分化の新規分子機構の解析
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19K07624
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
石川 絵里 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (20546478)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | iNKT細胞分化 / セリンスレオニンキナーゼ / TCRシグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
インバリアントナチュラルキラーT (iNKT) 細胞はT細胞とNK細胞の特徴を併せ持つ亜集団で、抗原として糖脂質を認識して速やかに活性化し、病原体や腫瘍の排除に寄与する。分化には転写因子PLZFの発現が重要であるが、胸腺でのiNKT細胞分化を司るシグナルの全貌はまだ明らかになっていない。我々は以前、プロテインキナーゼD (PKD)がT細胞受容体刺激により活性化することを見出したことから、CD4-Cre Tgを用いてT細胞特異的にPKDを欠損するマウスを樹立した。このマウスでは、iNKT細胞のみが消失していた。そこで大規模リン酸化プロテオミクスにより、iNKT細胞におけるPKD基質を探索したところ、転写因子を含むいくつかの候補分子が挙がってきた。この独自の知見に基づき、細胞膜受容体から核に至るiNKT細胞分化誘導の分子機構を明らかにすることを本研究の目的とした。 今年度はまずPKDがiNKT細胞の分化成熟のどの段階に寄与しているかを明らかにするため、PKD欠損マウスを詳細に解析した。その結果、抗原提示細胞として働く胸腺細胞側ではなく、iNKT細胞側でTCR遺伝子再構成以降にPKDが欠損していることがiNKT細胞消失の原因と考えられた。また、PKDはiNKT細胞の生存よりむしろ分化に寄与していると考えられた。さらに、PKDはiNKT細胞の分化のみでなく成熟にも寄与し、とりわけNKT1、NKT2の分化に重要であることが強く示唆された。 樹立済みのPKD2/3欠損iNKT細胞株を用いて、TCR下流におけるPKDの役割を調べた。TCR刺激によるErkのリン酸化はPKD欠損細胞でも認められたが、野生型に比べ少し弱く、IL-2とIFNgの産生は欠損細胞で顕著に減弱していたことから、PKDは分化成熟のみでなく、末梢iNKT細胞の活性化にも重要な役割を果たすことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はPKDがiNKT細胞の分化成熟のどの段階に寄与しているかを明らかにするため、PKD欠損マウスの詳細な解析を行った。この解析から①分化の際に抗原提示細胞として働く胸腺CD4+CD8+ダブルポジティブ(DP)細胞側ではなく、iNKT細胞側でTCR遺伝子再構成以降にPKDが欠損していることがiNKT細胞消失の原因であること、②PKDはiNKTの生存よりむしろ分化に寄与していること、③PKDはiNKT細胞の分化のみでなく成熟段階にも寄与していること、④PKDはとりわけNKT1、NKT2への分化に重要であることが強く示唆された。今後PKDの上流や下流を推測して解析を行う上で重要な情報が得られた。 大規模リン酸化プロテオミクスにより挙がってきたiNKT細胞におけるPKDの基質候補分子のいくつかについては、in vitro kinase assayによりPKDの直接の基質となり得ることが明らかとなった。現在、これらの分子のPKDによりリン酸化されるセリンをアラニンに置換したリン酸化不能型変異体ノックインマウスを作製中であり、これまでのところ候補分子2分子についてキメラマウスが得られたところで、概ね順調に研究が進んでいる。 また、PKD2/3を欠損させたiNKT細胞株を用いた解析から、PKDは末梢のiNKT細胞の活性化にも重要な役割を果たすことが強く示唆された。今後、現在作製中の末梢T細胞でのみPKDを欠損するマウスにおけるiNKT 細胞の機能解析を行うにあたり重要な知見が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
PKD2/3を欠損させたiNKT細胞株を用いた解析から、PKDは我々が以前報告した通常のab T細胞だけでなくiNKT細胞においてもTCR下流で働くことが明らかとなった。実際にマウスから採取したiNKT細胞でもTCR刺激によりPKDの活性化が認められるか否か確認を行う予定である。また、iNKT 細胞への胸腺選択を受ける直前の胸腺細胞をTCRおよびSALM抗体で刺激した際の遺伝子発現の変動を野生型とPKD欠損マウスで比較することで、PKDが寄与し、iNKT細胞分化に至るシグナル経路を探索する。 大規模リン酸化プロテオミクスにより挙がってきたPKD基質候補分子のいくつかはPKDにより直接リン酸化され、基質となり得ることが明らかとなった。現在これらの分子のリン酸化不能型変異体ノックインマウスの作製を進めており、樹立できれば、PKD欠損マウスと同様の表現型が見られるか否か検証する予定である。また、多数挙がってきた他の基質候補分子についても解析を進めており、今後も新たな基質が見つかる可能性がある。 本研究室で樹立した末梢T細胞特異的Cre発現マウスを用いたPKD欠損マウスの作製も進めている。このマウスではPKD欠損による分化障害を受けずにiNKT細胞は正常に分化すると考えられる。まずiNKT 細胞が存在するか否かを解析し、iNKT細胞の末梢での維持にPKDが必要であるかを検証する。もしiNKT細胞が存在する場合には、末梢における成熟や分布、機能が正常かを調べ、iNKT細胞の胸腺分化と末梢での維持・活性化におけるTCRシグナル経路が異なるか否かを明らかにしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
(理由) 当該年度は基質の同定、マウスの樹立が順調に進み、マウス樹立の委託経費として「その他」の経費が高くなる一方で、分子生物学実験試薬や細胞培養試薬の経費が予定より低くなり、差額が生じた。 (使用計画) 差額分は、次年度以降、樹立したマウスの細胞解析や、細胞を用いた分子生物学的解析、遺伝子発現解析に使用する予定である。
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