2019 Fiscal Year Research-status Report
癌で検出される多様な変異体ERαの分子機能異常性の網羅的解析と病的意義の解明
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19K07651
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Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
中太 智義 公益財団法人がん研究会, がん研究所 がんエピゲノムプロジェクト, 研究員 (10364770)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | エストロゲン受容体α / ミスセンス変異体 / 乳がん / 内分泌療法 / 再構成転写系 / NGS / 1細胞RNA-seq / ATAC-seq |
Outline of Annual Research Achievements |
癌関連の変異体ERαのうち高頻度の79種類について、当初計画していた2つの系により網羅的・体系的に機能異常性のスクリーニングを行った。第1の系はルシフェラーゼアッセイであり全解析を完了した。その結果、内分泌療法後の転移性乳がんで高頻度に検出されるホットスポット変異体に加え、その他の様々な変異体も多様な転写機能異常性を有することを発見した。例えば、機能未知のN末端部位の変異体では転写活性化能の減弱が、非乳がん種で検出されるDNA結合部位の変異体では転写活性化能の亢進が見られた。第2の系は、乳がん細胞株MCF7に変異体ERα群を強制発現、特殊培養条件下での耐性能獲得細胞のNGS解析による変異体の同定である。この結果、内分泌療法に使用されるERα阻害剤への耐性獲得には、ホットスポット変異体に加えその他複数の変異体も寄与する可能性を発見した。また新たな第3の系として、変異体のトランスクリプトーム及びエピゲノムに対する影響を解析する為、ERα陰性乳がん細胞株MB453に誘導的にERαを発現、ERαの発現量に対して相関して変動する遺伝子群およびオープンクロマチン領域を同定する1細胞RNA-seq及びATAC-seqを樹立した。その結果、これまでNGS未解析であるホットスポット変異体“X”特異的な標的遺伝子群及びクロマチン構造の変化を発見し、その異常分子機構は変異体ERαのDNA結合性の変化である可能性を発見した。 生化学的解析のための再構成転写系については、様々なERα関連転写因子群を組み換えタンパク質として精製し、クロマチン鋳型からの野生型ERα依存的な転写が生じる条件の最適化を進め、その結果PGC-1βとp300が当転写系における至適コファクター群であることを発見した。同時に、RT-qPCRにより再構成転写物を効率的・高感度に検出する系も樹立した。以上、世界に類を見ないERα依存的な高純度再構成転写系を構築でき、今後の変異体の異常分子機構の解明が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画書においては(1)エストロゲンの有無や内分泌療法に使用するERα阻害薬剤存在下でのルシフェラーゼアッセイ、及び(2)エストロゲン非存在下やERα阻害薬剤存在下等の選択培養条件への耐性細胞における変異体の検出、の2つの機能異常変異体検出のスクリーニング系と、(3)組み換え変異体ERαの精製を一年目の目標としていた。 結果(1)と(2)については解析を完了、これまでに報告例のない変異体ERαにおいて機能異常性を同定できた。また(2)の系に関しては、上記ERα阻害薬剤だけではなく、乳がん治療に承認済みまたは臨床試験中のその他の分子標的薬剤を用いた同様の解析を現在実行しており、ERαと薬剤標的分子との潜在的な機能関連性と、変異体によるこれら薬剤への耐性能獲得の可能性について解析しており、当初計画した以上の結果をもたらす可能性がある。 また、計画にはなかったがスクリーニング及び機能解析強化の為、新たにERα発現量に対して相関して変動する遺伝子群およびオープンクロマチン領域を精密に同定可能なscRNA-seq/ATAC-seqの系を樹立した。この結果、高頻度変異体間で標的遺伝子群やクロマチン構造に大きな変化があることを検出できた。現在、系の最適化と高頻度変異体13種類についての解析を進めている。この系は、本課題だけに留まらず、他の転写関連因子やその変異体群によるトランスクリプトーム・エピゲノム無秩序化の網羅的解析にも応用可能であり、発展性が期待できる。 計画(3)についても順調に進展しており、変異体39種類について組み換えタンパク質発現用のバキュロウイルスを作成完了している。また、クロマチン鋳型からの野生型ERα依存的再構成転写系の最適化やRT-qPCRによる検出系の構築等も実行し、世界に類を見ないERα解析系を開発することができた。今後の変異体解析にも期待が持てる。
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Strategy for Future Research Activity |
一年目のスクリーニング系2つ(ルシフェラーゼアッセイ及び薬剤耐性細胞)の解析により機能異常性が検出された変異体ERαについて、新たに樹立した第3のスクリーニング系のscRNA-seq/ATAC-seqに導入し、機能異常性について細胞レベルでの解析を更に行う。同時に、これらの変異体を組み換えタンパク質として精製し、以下の生化学的解析も行う。最適化済の再構成転写系に導入することで変異の転写段階への直接的影響を解析する。更に固定DNA上相互作用解析法に導入し、DNA結合変異体ERαと細胞核抽出液を混合、精製した複合体をLC-MS/MS解析することにより、変異により結合が変化する転写コファクター群を同定する。以上により、転写機能異常性の分子機構の解明を行う。 また、2つ目のスクリーニング系に関しては、内分泌療法以外の乳がん治療に承認済みまたは臨床試験中の分子標的薬剤を用いた同様の解析を引き続き行い、一見ERαと関連性の無い分子標的薬に対し、変異体ERαの発現により薬剤耐性能を獲得する可能性について検証する。実際耐性能が獲得された際は、変異体を薬剤と共に他の2つのスクリーニング系(ルシフェラーゼアッセイとscRNA-seq/ATAC-seq)に導入し、その変異体ERαと薬剤標的分子の機能的関連性について解析する。 第3のスクリーニング系のscRNA-seq/ATAC-seqにおいては、既に開始している高頻度変異体ERα13種の解析についても継続し、高頻度変異体間の差異をデータ解析することにより、各変異体の機能異常性の分子機構を類推する。なかでも、NGS未解析の変異体“X”は、歴史的によく解析されている変異体(例:Y537S)とは大きく異なる機能異常性=DNA結合性の変化、を有することが既に示唆されたので、生化学的解析等も併用して解析を進め、機能異常性の分子機構を明らかにし、“X”を有する乳がんの理解と治療への貢献を目指す。
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Causes of Carryover |
昨年度に計画していた実験を実行するに当たり、当該助成金が生じる前より既に研究室に所有していた試薬等で一部代用可能だったため、予定使用額を下回った。 翌年以降については、当研究課題のさらなる目標達成を目指し、内分泌療法薬剤以外の乳がん治療分子標的薬を用いた第2のスクリーニング系(選択的培養条件下での耐性細胞のNGS解析)の継続、そして新たに樹立した第3のスクリーニング系(scRNA-seq/ATAC-seq)の最適化及び継続、に対する使用を計画しているため、翌年分として助成金を請求した。
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