2020 Fiscal Year Research-status Report
癌で検出される多様な変異体ERαの分子機能異常性の網羅的解析と病的意義の解明
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19K07651
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Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
中太 智義 公益財団法人がん研究会, がん研究所 がんエピゲノムプロジェクト, 研究員 (10364770)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | エストロゲン受容体α / ERα / 点変異体 / FoxA1 / 乳がん / 転写制御異常 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は、ユニークな網羅的・体系的解析によりERα変異体の未知の機能異常性を発見することである。初年度、機能異常性のスクリーニング系の一つとして、ERα陰性乳がん細胞株MB453において誘導的にERαを発現する細胞株を樹立、NGS解析を行う系を立ち上げた(CS-ERα/MB453細胞解析系)。昨年度報告したように、既知の機能異常変異体Y537Sと、これまでNGS未解析の変異体“X”についてこの系に導入してATAC-seqを行ったところ、Xは野生型やY537Sとは異なるゲノム領域を活性化することを発見していた。本年度は、この活性化領域へのXの直接的関与を調べるためChIP-seqを行ったところ、Xにより転写因子FoxA1結合ゲノム領域へのERαの結合性が変化し、かつこの領域の活性化が促進されること、XによりFoxA1の発現が上昇することを明らかにした。 Xは原発性乳がんの悪性化との関連が報告されており、本研究によりXはFoxA1との相互作用の異常化を介して乳がんを悪性化している可能性が示唆された。また、昨年度CS-ERα/MB453細胞解析系のひとつとして1細胞RNA-seq系を樹立したが、本年度はそれをさらに発展させ、セルソーティングを組み合わせた効率的な変異体依存的トランスクリプトーム解析法を樹立、現在この系にXを導入して、X依存的標的遺伝子群の解析を行っている。さらに、その他の高頻度変異体や自身のルシフェラーゼアッセイにより発見した新規機能異常性変異体についてもCS-ERα/MB453解析系へ導入、ATAC-seq/ChIP-seqを実行し(2020年度先進ゲノム支援採択課題)、現在各変異体の機能異常性の解析を進めている。同時に、生化学的解析のためのこれらの組み換えERα変異体の精製を完了、世界初のERα依存的高純度再構成転写系による解析の準備は終えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年策定した本年度の予定として、(1)新たに同定された機能異常性変異体のCS-ERα/MB453解析系への導入と生化学的解析による解析、(2)薬剤耐性能を発揮する新規ERα変異体の同定と他のスクリーニング系への導入、(3)変異体“X”の解析推進と機能異常性の分子機構の解明と病的意義の理解、を策定していた。(1)に関しては順調に進捗、CS-ERα/MB453株の樹立と、NGSの施行を完了、現在変異体特異的な機能異常性の同定を行っている。また、これら変異体の生化学的解析のためのタンパク質精製も完了している。(2)に関しては(1)および(3)の順調な進捗に伴い、各リソース確保のため中断している。(3)に関しては大きく前進、Xの新規機能異常性として、FoxA1転写因子への会合とその領域の活性化状態の異常化という発見を達成した。また発展型1細胞RNA-seq系を樹立、Xのトランスクリプトーム解析も行っている。生化学的解析についても実行予定だったが、Xが直接的にDNAに結合せず、FoxA1を介してDNAに結合して作用する可能性が示唆されたことから、樹立済みであったERα依存的な生化学的解析系(例;ERα結合部位を持つ鋳型DNAにERαを結合させて転写を生じさせる再構成転写法等)を用いることができず、FoxA1依存的な生化学系樹立の必要性に迫られ、若干遅延している。しかしながら、これまで既に組み換えFoxA1タンパク質及びFoxA1結合鋳型DNAの調整を完了しており、今後は研究計画調書2年目の目標としてあげていた再構成転写法や固定DNA上相互作用解析法+LC-MS/MS法についてリカバリー可能であると考えている。以上、昨年度においては、コロナ禍による出勤の制限や私生活の混乱が大きく、WET実験の制約が研究進捗に影響を与えたことは否めないが、研究は概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
項目「7.現在までの進捗状況」において述べた(1)と(3)について更なる研究を推進する。(1)については、CS-ERα/MB453解析系へ未導入の変異体について株化細胞の樹立とNGSの実行、NGS実行済みのものの解析完了及び機能異常性機構の推測、それを裏付けるための生化学的解析(再構成転写系や固定DNA上相互作用解析法、固定DNA上相互作用解析法+LC-MS/MS法)を実行し、変異体ERαの新規機能異常性を発見する。(3)についてはFoxA1を介したXの機能異常性の分子機構のさらなる解明を行う。具体的には、既に得たNGSデータの解析を進めることと、組み換えFoxA1やFoxA1結合DNA鋳型を用いた生化学的解析を行うことにより、FoxA1結合部位へのX会合変化やその領域の活性化促進及びそれによる転写制御異常化の分子機構の解明を行う。また、発展型1細胞RNA-seqの解析を進めてX依存的標的遺伝子を同定し、その遺伝子産物による乳がん悪性化の可能性についても解析を行う。以上により本研究の目的である「ERαの新規機能異常性の同定と病的意義の解明」と「ERα依存的な新規転写制御機構の発見」を達成する。
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Causes of Carryover |
昨年度に計画していた実験を実行するに当たり、当該助成金が生じる前より既に研究室に所有していた試薬等で一部代用可能だったため、予定使用額を下回った。同時に、2020年度先進ゲノム支援の対象課題として採択されたため、NGS用の試薬として計上していた予算を使わなかったこともあり、予定使用額を下回った。 来年度以降については、当研究課題のさらなる目標達成を目指し、CS-ERα/MB453解析系や生化学的解析の網羅的実行で予算を必要とするため、及び一部人件費として使用予定のため、来年度分として助成金を繰り越した。
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