2020 Fiscal Year Research-status Report
ゲノム編集をヒトとサルのiPS細胞に用いたがんに対するT細胞製剤の新規作製法開発
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19K07712
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Research Institution | Shiga University of Medical Science |
Principal Investigator |
寺田 晃士 滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (70342722)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | T細胞 / がん / T細胞受容体 / TIL / カニクイザル |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、がん抗原に特異的なT細胞受容体(TCR)を発現させた細胞傷害性T細胞(T細胞)が、がん治療に有効であることが、試験的にではあるが確認されつつある。一方、がん抗原を認識するT細胞からiPS細胞技術を用いてT細胞を再生するという新たな技術も開発されている。しかし、T細胞を用いた免疫療法はヒトのがん治療に用いるには、安全性など、まだ克服すべき点が存在する。本研究計画では、がん抗原特異的なTCRを導入したiPS細胞からT細胞を再生し、そのT細胞をカニクイザルに移植して安全性と腫瘍治療効果の前臨床試 験を行うことを目的とする。そのために、ここまで、以下の研究を推進してきた。腫瘍治療効果を検討するためのモデルとしてカニクイザルを用いるために、カニクイザルからがんに浸潤するT細胞(Tumor infiltrating lymphocyte:TIL)を単離し、TILからがん特異的なTCRが同定できないか試みた。そのために、腫瘍モデルとして、滋賀医科大学で樹立されたカニクイザル由来の腫瘍細胞であるPTY細胞を用いた。PTY細胞をサルの皮下に移植して腫瘍形成後に摘出し、腫瘍に浸潤していたT細胞からTCR遺伝子を単離した。次に、ヒトiPS細胞より再生したT細胞にTCRをセットで発現させ、PTY細胞と共培養すると、インターフェロンの発現が認められ、さらに、PTY細胞を殺傷することも確認された。次に、PTY細胞を免疫不全マウスの皮下に移植して腫瘍形成させ、そのマウスに再生T細胞を静脈注射により注入した。その結果、in vitroの実験でPTY細胞を殺傷することが確認できたTCRを発現させたT細胞を移植すると、マウスの腫瘍の増殖が抑制された。このことから、TILより単離したTCRには、実際に生体内で腫瘍を抑制する効果をもつものが存在することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究計画の目的のひとつは、カニクイザルの系を用いて、がん特異的なTCRを導入したiPS細胞由来の再生T細胞を生体内に移植した場合の安全性と腫瘍治療効 果を検討することにある。それを行うためには、サルの腫瘍モデル系と、その腫瘍を認識・攻撃できるTCRが必要である。カニクイザルの腫瘍モデル系はすでに本研究機関に存在する。その腫瘍モデル系におけるがん特異的なTCRを、TCRのalpha鎖、beta鎖のセットで、複数セット同定した。さらに、それらTCR 遺伝子のセットが、腫瘍モデル系におけるがん細胞であるPTY細胞を認識すること(インターフェロンの発現)および、PTY細胞を殺傷することが確認された。カニクイザルは貴重なので、まずマウスでin vivo実験を行う必要があった。マウスの実験系でもTILから単離したTCRが効果をもつことが実証されたため、サルのin vivo実験の下地は整いつつある。しかし、一方で、目標の一つであるカニクイザルのiPS細胞よりT細胞を分化誘導する系を構築してTIL由来のTCRを発現させる、という計画が遅延している
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、カニクイザルのiPS細胞よりT細胞を分化誘導する系の構築と、そのT細胞(カイクイザルの再生T細胞)にTIL由来のTCRを発現させることを試みる。一方で、TILのTCRの効果自体を確かめる目的では、カニクイザルのT細胞を取り出して、そこにTILのTCRを発現させ、カニクイザルにPTY腫瘍を移植してから再びTILのTCRを発現するT細胞を戻す方法も原理的には可能なので、その方向性も探る。また、TILのTCRを発現するT細胞を動物個体に移植し、生体内で副作用を示さないかを検討し、抗腫瘍効果を示すかということも検討する。iPS細胞由来T細胞の安全性と腫瘍治療効果の検討には、カニクイザルを用いた実験の前に、マウスにカニクイザル再生T細胞を移植するという予備検討を行う。そのために、PTY細胞を移植・腫瘍化させた免疫不全マウスにTIL由来TCRを発現させたカニクイザルの再生T細胞を移植し、抗腫瘍効果を示すか検討していく
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Causes of Carryover |
本研究計画の目的のひとつは、カニクイザルのiPS細胞由来の再生T細胞にがん特異的TCRを導入して、それを生体内に移植し、安全性および腫瘍治療効果を検討することにある。そのために、カニクイザルの腫瘍モデル系が必要で、かつ、腫瘍を認識・攻撃できるT細胞受容体(TCR)遺伝子と、iPS細胞由来のカニクイザルT細胞が必要である。ここまで、腫瘍モデル系において、腫瘍に浸潤したT細胞よりTCRの遺伝子を単離し、それらのうちにがん特異的なTCRが含まれることを確認した。一方、カニクイザルのiPS細胞よりT細胞を分化誘導する系を構築して腫瘍を攻撃できるTCRを発現させる、という計画が遅延している。iPS細胞の培養や分化誘導の実験には高額な試薬を必要とするため計画ではその経費を計上したが、カニクイザルの腫瘍モデル系から単離したTCR遺伝子がin vivo(マウス)でも腫瘍攻撃能をもつことを示すために予定以上に時間を要し、T細胞の分化誘導実験を実際上行うに至らなかった。最終年度では、カニクイザルのiPS細胞からT細胞を作製し、まずマウス中でそのT細胞の生存能を確認し、さらにカニクイザルに注入し、その安全性および抗腫瘍効果を確認する。
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