2019 Fiscal Year Research-status Report
AIと質量分析を用いた内視鏡検査時のリアルタイム診断支援システム
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19K07728
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
吉村 健太郎 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (70516921)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メタボロミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
内視鏡検査でリアルタイムに取得可能な情報は主に光学画像であり、検査中に疾患が疑われる部位が認められた場合には生検が行われる。しかし結果が得られるまでには時間を要し、かつ採取部位が瘢痕化するなどの問題が生じるため、臨床現場からは新規法の開発が望まれている。そこで本研究では、内視鏡検査時にスコープを患者消化管内に挿入したままの状態で検体を低侵襲に採取、分析し、結果を人工知能 (AI) の一つである機械学習で判別して、がん病変の有無をリアルタイムで提示することが可能な「AI型質量分析内視鏡がん診断支援システム」を構築することを目的としている。 AI型質量分析内視鏡がん診断支援システムでは検体を糸状の素材 (ライン) を用いて採取、移送するためのライン式検体採取・移送装置および組織とラインを接触させて生体成分を採取する検体プローブと、採取された検体の分子組成を質量分析するための抽出イオン化・質量分析装置が必要である。加えて、取得された分子組成情報 (マススペクトル) から疾患の有無を判別するために、機械学習を基盤とした診断アルゴリズムの構築が必須である。 2019年度においては上記のうち機械部分の仕様決定と、各構成要素の試作品構築およびそれらを組み合わせたプロトタイプ機を完成させ、性能試験を行った。性能試験で明らかとなった問題点をベースに各構成要素の改良を重ね、市販内視鏡と組み合わせて実際に生きた動物からの検体採取と分析までが可能であることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ライン式検体採取・移送装置の構築:内視鏡鉗子孔を介してラインを往復させるためのラインガイドチューブと、ラインの駆動および制御を行う部分からなる。ガイドチューブは鉗子孔に従来鉗子と同じ様式で挿入することが可能なサイズに小型化することを達成し、また本来の内視鏡操作に影響が出ないことを確認した。ラインを駆動させるためのモーターも実装し、ラインを任意のスピードで送ることが可能な制御部を含めて構築が完了した。 検体採取プローブ:内視鏡先端の鉗子孔出口でラインを露出させ、生体組織と直接させる部分である。ライン駆動時にも脱落することなく、一定の接触度合い (侵襲性) での組織採取が可能な形状を検討し、生体親和性を有する医療認可されている素材で成形した。検体採取プローブはライン式検体採取・移送装置のラインガイドチューブと特殊接着して一体化済であり、実仕様が可能な状態となっている。 抽出イオン化部:ラインに付着した生体成分をイオン化し、質量分析装置に導入する部分である。イオン源としては大気圧化学イオン化 (APCI) およびエレクトロスプレーイオン化法 (ESI) を検討した結果、後者を採用した。ラインを金属チューブ側面に開けた孔より導入し、その内腔でエレクトロスプレーと接触させることで、ラインに付着した生体成分が効率的かつ安定的にイオン化される機構を構築した。 性能試験:上記の各種要素を統合し、市販内視鏡の実仕様による性能試験を行った。麻酔下のマウス胃内腔を露出させ、胃粘膜の採取および成分分析を行った結果、良好なマススペクトルが得られることを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
ライン式検体採取・移送装置および検体採取プローブの改良:現在の構成では大腸内視鏡での使用が可能なサイズとなっているが、より小型化して経口内視鏡、経鼻腔内視鏡での適応も目指す。これにはライン径を小さくする必要があるが強度が低下の低下を伴うため、高速移動時にラインが切断する恐れがある。これを避けるためにラインガイドチューブに摩擦抵抗が少ない素材を採用することを検討する。現在ライン素材としては絹糸を用いているが、カーボンナノファイバーなどのより強度の高い素材を用いることも検討する。上記の要素に関しては構造、製法に関して知財権の獲得準備を進める。 質量分析データクオリティの向上:より少ない検体量で良好なマススペクトルを得るために、イオン化部、質量分析装置とラインのアライメントや、エレクトロスプレー電圧、ガス流量などを最適化し、イオン強度を可能な限り向上させる。また分析結果の再現性を向上させるために、生体成分が付着したラインを正確かつ迅速にイオン化部に停止させることが可能な、ライン駆動制御機構を追加する。これにはステップインモーターの導入などを検討する。 ヒト検体を用いた性能検証:摘出されたヒト大腸粘膜組織を対象に、検体採取および成分分析を行う。再現性の良いデータが取得可能であることが確認できれば、大腸がんの成分分析も行いがん特異的な変化を探索して、診断における実使用に向けたデータ構築を進める。
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Causes of Carryover |
研究立ち上げのために初年度に消耗品費の予算配分比率を高くしていたが、各種装置開発における試作品の構築回数が想定よりも少なかったために生じた。装置の改良および小型化に向けた次年度の計画において流用する。
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Research Products
(10 results)