2020 Fiscal Year Research-status Report
トキソプラズマ再活性化と神経炎症の増悪サイクルに対するオトギリソウ属の薬草の効能
Project/Area Number |
19K07839
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
新庄 記子 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任研究員(常勤) (60794039)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野呂瀬 一美 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任准教授 (30156244)
彦坂 健児 千葉大学, 大学院医学研究院, 講師 (30456933)
吉田 裕樹 佐賀大学, 医学部, 教授 (40260715)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 西洋オトギリソウ / ハイパーフォリン / トキソプラズマ / 感染症 / 脳 / グリア細胞 / うつ病 |
Outline of Annual Research Achievements |
トキソプラズマは世界人口の約3分の1に感染する細胞内寄生原虫である。健常者においては無症状の場合が多いが、一度感染すると脳に生涯潜在し、うつ病など様々な脳神経疾患発症のリスク上昇に繋がると推測されている。また、妊娠中の初感染は胎児に重篤な障害を及ぼすことが知られ、安全な薬剤療法の開発が求められる。 古来より世界各地で利用されてきた伝統医薬は今日もその有効性と安全性から高く評価される。特に近年、薬用植物の効能と有効成分の探索は、伝統医学のEBMとしての確立、新規効能の探索、医薬品リードの探索など、様々な観点から注目されている。本研究では、有効かつ安全な抗トキソプラズマ薬の探索を目指し、抗うつ作用の知られる薬用植物「西洋オトギリソウ」の抗トキソプラズマ効果を検討する。また、様々な脳神経系疾患の要因としてグリア細胞の活性化による中枢神経系慢性炎症が注目されていること、グリア細胞が病原体の感染標的となり慢性炎症を誘導する可能性があることから、特に、トキソプラズマのグリア細胞感染に対する抗感染効果・抗炎症効果を検討する。 うつ病などの慢性精神神経疾患の要因と発症機序には未知の点が多く、治療法・予防法も限られている。慢性感染、特に脳に潜在する病原体が、様々な精神神経疾患の原因となり得ることは認識されているものの、感染症を考慮した精神神経疾患の治療がなされることは少ない。本研究は、伝統医学の経験的知識に注目し、「その新規メカニズムを明らかにするとともに今日の医療に反映させる」という課題に「感染症」という観点から取り組むものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
神経系疾患の発症メカニズムとして、近年、グリア細胞(ミクログリア・アストログリア)の活性化と炎症誘導による神経細胞障害が注目されている。これらグリア細胞は様々な病原体の宿主標的・慢性感染の病原巣となり得ることから、グリア細胞培養系におけるトキソプラズマ感染モデルを使用し、感染抑制効果を検討した。その結果、西洋オトギリソウ抽出物が近縁の同属植物と比較して顕著に高い抗トキソプラズマ作用を持つことがわかった。さらに、有効成分の探索を目標として、抽出物を極性分配により分画し薬効を比較したところ、ヘキサン画分、酢酸エチル画分、ブタノール画分のうち、ヘキサン画分が最も高い抗トキソプラズマ活性を持つことがわかった。また、液体クロマトグラフィー質量分析法による成分分析の結果、ヘキサン画分には西洋オトギリソウ特有の成分「ハイパーフォリン」が含まれることがわかった。実際、グリア細胞培養系においてハイパーフォリン成分の抗トキソプラズマ活性、およびミクログリア炎症応答抑制活性を検討したところ、ハイパーフォリンが当該薬用植物の抗トキソプラズマ・抗炎症作用における主要薬効成分であることが見出された。以上より、西洋オトギリソウおよびその含有成分ハイパーフォリンに、抗トキソプラズマ薬としての効果が期待されることがわかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後はトキソプラズマとグリア細胞の相互作用を、宿主免疫応答に着目し、in vivoおよびin vitroにおいて解析する予定である。in vivo解析ではマウスにおけるトキソプラズマ(Fukaya株)慢性感染モデルを、in vitro解析ではグリア細胞(ミクログリア・アストログリア)培養系における弱毒株(PTG株)感染モデルを使用し、分子生物学的手法・細胞生物学的手法を用いて感染応答を評価する予定である。
|
Research Products
(6 results)