2020 Fiscal Year Research-status Report
骨髄増殖性腫瘍におけるCALR変異に特異的な分子病態の解明と新規治療への応用
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19K07880
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
北中 明 川崎医科大学, 医学部, 教授 (70343308)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
通山 薫 川崎医科大学, 医学部, 教授 (80227561)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 骨髄増殖性腫瘍 / calreticulin / チロシンキナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
骨髄増殖性腫瘍(MPN)は造血幹細胞の異常によって1系統以上の骨髄系細胞(顆粒球系、赤芽球系、巨核球系)が腫瘍性に増殖する疾患の総称である。MPNのうち、真性赤血球増加症(PV)、本態性血小板血症(ET)、原発性骨髄線維症(PMF)の3疾患は、1951年に米国のダムシェックによって提唱され、古典的MPNとして扱われてきた。古典的MPN発症の分子メカニズムは長らく不明であったが、2005年にPVの大多数、ETおよびPMFの約半数例でJAK2遺伝子の変異が見いだされ、続いてMPLの遺伝子変異が報告された。これらの変異は、サイトカインの刺激なしにサイトカイン受容体以降のシグナル伝達を恒常的に活性化し、細胞の自律増殖を引き起こすと考えられている。JAK2やMPLなどの変異がないET、PMF症例における遺伝子異常は、その後も不明であったが、2013年、大多数の症数でcalreticulin(CALR)遺伝子の変異が同定され、フレームシフトに由来する新規のC末端を有する変異タンパクが産生されることがあきらかとなった。CALR変異は、JAK2やMPLの変異と相互に排他的であることからMPNの発症に深く関与すると想像されたが、正常なサイトカインのシグナル伝達経路に野生型CALRは関与しておらず、CALR変異がMPNを発症させる機序は不明であった。これまでに我々および他のグループは、CALR変異がサイトカインシグナル伝達系を活性化するためには、トロンボポエチン(TPO)受容体MPLの存在が必須であることをあきらかにしている。本研究では、変異CALRがMPLシグナルを活性化するメカニズムについて、遺伝子編集技術を用いて作成したMPNのin vitroモデルであるCALR変異導入F-36P-MPL細胞株を用いて、各種の阻害剤の効果を検証することで、細胞内情報伝達分子の機能を解析し、重要な分子の同定を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CALR変異は、JAK2やMPLの変異と相互に排他的であることからMPNの発症に深く関与すると想像されたが、疾患発症の機序は不明であった。MPN発症機序の解析に使用可能なCALR変異を有する細胞株は存在せず、CALR変異を導入したマウスモデルは、MPNの発症までと、病勢の改善が期待される薬剤の効果確認に長期間を要することから、スクリーニングに適したin vitroモデルの開発が望まれていた。IL-3やGM-CSFに依存性の増殖を示すヒト細胞株F-36Pは、MPLを導入することによって、TPO依存性の増殖、巨核球系分化の観察が可能となる。われわれはCRISPR-Cas9システムによる遺伝子編集技術を用いて、MPNの疾患モデとしてCALR変異導入F-36P-MPL細胞株を作成した。CALR変異導入F-36P-MPL細胞株を用いて変異CALR依存性の細胞増殖を阻害する化合物のスクリーニングを実施したところ、Srcファミリーチロシンキナーゼ(TKI)の選択的阻害剤PP2および、Bcr-AblおよびSrcファミリーTKIに対する選択性が高い阻害剤ボスチニブによって変異CALR依存性の細胞増殖が抑制されることが判明した。2つの阻害剤に共通した標的分子はSrcファミリーTKIである。複数存在するSrcファミリーTKIのうち、主として造血細胞に発現するLynを標的とした2種類のshRNAをCALR変異導入F-36P-MPL細胞株に導入したところ、いずれのshRNAも変異CALR依存性細胞増殖を阻害した。このことから、Lynが変異CALR依存性細胞増殖に重要な分子である可能性が見出された。現在、変異CALRによるLyn TKIの活性化メカニズム、細胞増殖を誘導するシグナル伝達経路におけるLynの位置付けについて解析を実施している。
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Strategy for Future Research Activity |
CALR変異はMPN発症のドライバー変異として機能するが、本研究によって、SrcファミリーTKIであるLynの活性が変異CALR依存性の細胞増殖に重要な分子であることが示されている。われわれは、これまでにエリスロポエチン(EPO)受容体の下流において、SrcファミリーTKIがJAK2と共同してSTAT5の活性化に寄与することを報告しているが、MPLの下流においてもEPO受容体と同様のメカニズムが存在するのか否かについては不明である。CALR変異導入F-36P-MPL細胞株を用いた解析で得られたデータは細胞増殖におけるLynの重要性を示しているが、変異CALRによるLynの活性化機序、およびLynがいかなるメカニズムで細胞増殖をもたらすのかについては、さらに詳細な解析が必要である。 また、変異CALR依存性の細胞増殖を阻害する新たな化合物の探索について、これまでのCALR変異導入F-36P-MPL細胞株の生存を指標とした実験系に加え、われわれが報告したヒトCALR、ヒトMPL、STAT5-LUC plasmidを導入した293T細胞を用いたレポーターアッセイ系を用いた解析を追加することによって、薬剤スクリーニングの効率向上を図る。 これまでの検討で抽出された薬剤の一つであるボスチニブは、慢性骨髄性白血病(CML)の治療薬として臨床の場で広く用いられている。ボスチニブはヒトの体内で到達可能な血中濃度でSrcファミリーTKIを有効に阻害することから、今回の知見を基盤とした臨床応用へのハードルは比較的低い。また、類似した作用機序を有する薬剤のうち、すでに複数が日常診療で使用されている。in vitroシステムで有望な結果が得られた薬剤については、臨床応用を見据え、変異CALRトランスジェニックマウスを用いたin vivoモデルの解析に移行する予定である。
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Causes of Carryover |
購入を予定していたヒト細胞の培養に用いるサイトカン(IL-3、GM-CSF)の購入費が少なく済んだため、また、コロナウイルス感染の蔓延を原因とした出張の抑制によって2020年度末の旅費が不要となったため、次年度使用が発生した。 次年度は、変異CALR機能の制御に伴う網羅的遺伝子発現解析への支出を予定している。感染状況によって国内外の学会参加費も支出する予定である。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Association between microRNA-527 and glypican-3 in hepatocellular carcinoma2021
Author(s)
Nomura K, Kitanaka A, Iwama H, Tani J, Nomura T, Nakahara M, Ohura K, Tadokoro T, Fujita K, Mimura S, Yoneyama H, Kobara H, Morishita A, Okano K, Suzuki Y, Tsutsi K, Himoto T, Masaki T
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Journal Title
Oncology Letters
Volume: 21
Pages: 229
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Higher average chemotherapy dose intensity improves prognosis in patients with aggressive adult T‐cell leukemia/lymphoma2020
Author(s)
Sekine M, Kameda T, Shide K, Maeda K, Toyama T, Kawano N, Takeuchi M, Kawano H, Sato S, Ishizaki J, Kukita T, Kamiunten A, Akizuki K, Tahira Y, Shimoda H, Hidaka T, Yamashita K, Matsuoka H, Kitanaka A, Kubuki Y, Shimoda K
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Journal Title
European Journal of Haematology
Volume: 106
Pages: 398~407
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Clinical significance of soluble CADM1 as a novel marker for adult T-cell leukemia/lymphoma2020
Author(s)
Nakahata S, Syahrul C, Nakatake A, Sakamoto K, Yoshihama M, Nishikata I, Ukai Y, Matsuura T, Kameda T, Shide K, Kubuki Y, Hidaka T, Kitanaka A, Ito A, Takemoto S, Nakano N, Saito M, Iwanaga M, Sagara Y, Mochida K, Amano M, Maeda K, Sueoka E, Okayama A, Utsunomiya A, Shimoda K, Watanabe T, Morishita K
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Journal Title
Haematologica
Volume: 106
Pages: 532~542
Peer Reviewed
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