2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of clinical assay for LSDs using LC-MS/MS
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19K07952
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Research Institution | National Center for Child Health and Development |
Principal Investigator |
真嶋 隆一 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 臨床検査部, 上級専門職 (00401365)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | LC-MS / スフィンゴ脂質 / バイオマーカー / 先天代謝異常症 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、先天代謝異常領域におけるバイオマーカー測定の有用性が注目され、高感度質量分析法を用いた定量法の開発が進んでいる。定量法を確立するためには、分析化学的な定量範囲や定量下限の確認臨床や、化学的な病態生理学的および正常時のバイオマーカーの濃度範囲の把握といった定量的なデータが必要であるのは言うまでもないが、それ以前にバイオマーカーの物質としての同定と疾患特異的に変動する予備的な知見を得ることも同様に重要である。本研究は分析化学の観点から、対象とするバイオマーカーの分析バリデーションを実施するとともに、バイオマーカーの生合成経路の解明を目指している。 本年度(令和2年度)は、グロボトリアオシルスフィンゴシン(LysoGb3)の定量系の確立とその類縁化合物の網羅的解析系への応用および検出されるバイオマーカーの病型亜型依存性の検討を行った。LysoGb3はファブリー病のバイオマーカーである。本疾患には小児型と遅発型3病型(腎型、心筋型、神経型)の3つの病型亜型が知られている。臨床的な点からはこれらの病型亜型を区別するバイオマーカーが希求されており、本研究を含めて同様の試みが全世界でなされている。これまでの質量分析の結果から、LysoGb3由来のいくつかのバイオマーカーはその長鎖塩基(Long chain base)に起因している可能性が示唆されている。本年度は多重反応モニタリング(MRM)法を用いて分子種分析を試みた。分析の手法については単鎖の脂肪酸であることからC18カラムを使用した。また脂肪族であることからアセトニトリル系の溶媒組成とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、MRM法を駆使してファブリー病のバイオマーカーであるLysoGb3の分子種分析を行った。これまでの細胞生物学的知見から、哺乳動物の資質合成経路はかなり解明されており、脂肪酸はエロンゲースの作用によりメチレン(CH2CH2)単位で伸長反応することが知られている。また哺乳動物と異なり、植物や微生物ではこれに加えて奇数鎖長の脂肪酸が存在し、かつ哺乳動物では認められない水酸化反応やメチル化反応が起こる。これらの先行研究による知見を踏まえて本研究では網羅的なMRM法による解析手法を作成した。次に種々の検体を分析し、その有用性を検証した。最後に少数例の臨床検体を分析し、これらが目的のバイオマーカーとなるか検討した。 ファブリー病の病型亜型として心型、腎臓型、神経型の3種が知られている。手持ちの臨床検体は限られており、かつ病型亜型の区別がなされていない検体であったが、すべてLysoGb3(d18:0)がコントロール群に比べて高値であった。これまで報告されている新規バイオマーカーのMRM条件を含めて本研究で独自に作成した網羅的MRM条件でこれらの臨床検体中の該当するバイオマーカーの定量を行ったところ、二重結合数が多いもの、奇数のもの、および水酸基が追加されている分子種の存在が確認された。しかし、これらのバイオマーカーは臨床検体で必ず上昇するというものではなかった。換言すると、これらのバイオマーカーは疾患原因遺伝子由来に変動したものではなく、何らかの外的要因で変動していたものと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
過去2年間の研究を実施したことにより、当初の計画はここまで順調に進んできた。令和3年度は最終年度であり、本研究の残りの実験を行うとともにまとめを行う。 1)まず、ニーマンピック病C型のバイオマーカーとして同定したPPCSについてであるが、すでに国内の他の研究者が安定同位体標識された標準物質を合成しており、これをもとに臨床検査法の構築が可能である。したがって申請者の立場からは新規性の点から切り口を変えた研究が必要となる。LC-MSを用いた研究としてはほぼ必要なことは実施したため、本項目は研究終了とする予定である。 2)次に、LysoGb3のLCB解析であるが、こちらもデータを取って解析したところ、有用なバイオマーカーにはならない印象を受けている。今後の研究の推進方針としては、引き続き臨床検体や生物検体に含まれる長鎖塩基を解析する。予備的な知見として、草食動物由来の血清を分析したところ、確かに植物由来と思われるLCB分子種が高濃度で検出されている。したがって今後は測定対象とする検体をもう少し増やし、生体内におけるこれらのバイオマーカーの動態解析を進めてゆきたい。今後の研究の方針としては、種々の臨床検体への応用を検討する。また、臨床検査学的な立場からは、関連疾患を含めた複数疾患同時測定系の開発が疾患スクリーニングには有用であり、現在、分析バリデーションの実施を検討している。 3)次年度は最終年度であり、引き続き学会発表等を行う。取得を予定していた実験データはおよそ取り切ったので、今後は、依頼検体や共同研究を通じて構築したアッセイ系の活用を検討する。特に動物モデルや培養細胞には初年度および次年度では全く応用する機会がなかったため、今後、最終年度において検討を進める。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナウイルス感染症のため、学会参加を目的とした旅費の支出が当初予定より大幅に少なかった。また、2020年4-6月頃には在宅勤務を行っており、データ解析等の作業は進んだものの、実験計画は遅れが生じることを見越して必要なことのみを行うように計画を変更した。その結果、消耗品費にあまりが生じた。次年度使用額の使用計画としてはこれまでに立ち上げた測定系を利用して、動物モデルや培養細胞レベルの解析を行うための試薬等の消耗品を購入し、解析データを取得する。具体的には高額であるが測定精度を上げるために欠かすことのできない安定同位体標識化合物などの購入を予定している。また、次年度は最終年度であるため、論文印刷に関する諸経費(英文校正費用やオンラインジャーナル掲載料)の支出を予定している。特に、オンラインジャーナールの掲載料は、近年高騰しており、1件20-30万円程度、もしくはこれを超えるものも少なくない。原著論文は予定していたものは受理されたので、本年度は当該研究を含めた総説の執筆等、引き続き本研究計画に沿った研究費の支出を予定している。
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Research Products
(4 results)