2019 Fiscal Year Research-status Report
ナノポアシークエンサーを用いた遺伝性神経疾患の解明
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19K07977
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
三橋 里美 横浜市立大学, 医学部, 助教 (40466222)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
Frith Martin 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40462832)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | リピート病 / ゲノム構造異常 / ロングリードシークエンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
ナノポアシークエンサーは1万塩基以上の長いDNA(ロングリード)の塩基配列を読むことのできるシークエンサーである。本研究では、ナノポアシークエンサーを用いて、遺伝性疾患の原因となりうる単純反復配列やゲノム構造異常を検出する解析システムを構築することを目的としている。従来のショートリードと呼ばれる大量並列型のシークエンサーは、長い反復配列の検出に弱いため、ヒトゲノムに100万以上存在すると言われる単純反復配列を網羅的に解析することが難しいと考えられる。そこで、ロングリードシークエンサーを用いた解析に期待が高まっている。今年度は、単純反復配列の変化をゲノム網羅的に解析するツールtandem-genotypesと、新しく開発したゲノム構造異常を検出するツールdnarrangeを使い、従来の手法で原因が不明だった神経疾患などの遺伝性疾患の全ゲノムシークエンスデータの解析を行った。これらのツールには、患者で特に伸長している反復配列に優先順位をつけることや、他のコントロールにはみられない患者特異的な構造多型を絞り込むなどの機能があるため、遺伝性疾患の原因となりうる変化を効率的に検出することが可能である。この方法により、これまで原因や詳細なゲノム構造が明らかでなかった複数の患者において、疾患原因となる単純反復配列の伸長やゲノム構造異常を明らかにすることができた。さらに、tandem-genotypesの結果を用いた二次解析により、単純反復配列の多型を網羅的に比較することで、疾患原因となりうる反復配列は他の反復配列に比べて多型性に富むことを示した。これらの結果は、ロングリードシークエンサーが実際に臨床遺伝学にも応用できることを示しており意義深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
単純反復配列については、神経核内封入体病の原因がNOTCH2NLCの5’UTRにあるGGCリピートの伸長であることを見出し、その後も複数の患者を同定した。また、これまで原因不明であった小脳性運動失調-ニューロパチー-前庭反射消失症候群(CANVAS)の一例に、疾患原因となるRFC1のイントロン領域に両アリルのリピート伸長を見出した。さらに、過去にショートリードシークエンサーやマイクロアレイでは詳細が同定できなかった5例の染色体異常患者について、ナノポアシークエンサーで全ゲノムシークエンスを行い、dnarrange解析によりゲノム構造を明らかにした。そのうち2例では多数の複雑なゲノム構造異常を見出し、染色体破砕現象が示唆された。同時に開発したdnarrange-linkを用いて、複雑なゲノム構造を組み立て、リファレンスゲノムと比較し、ゲノム構造の変化を再構築することにより、染色体破砕現象を可視化することに成功した。また、dnarrangeでは、同じ構造異常を持たないロングリードシークエンス データをコントロールにすることにより、数千あった構造多型から、患者特有の構造多型を100以下に絞り込むことができ、疾患原因となるまれな多型を効率的に見出すことが重要であることがわかった。このような絞り込みはロングリードの構造多型データでは行われたことがなく新規性が高い。 さらに、今年度並列して共同研究開発を行ったlamassembleというロングリードを多重アライメントする手法により、ロングリードのコンセンサス配列を作り単純反復配列内部の構造や構造多型を明らかにすることができることが可能となった。これは、リピート内の構造が表現系と関わることや、精度高く染色体の切断点を同定できることから、疾患メカニズムを考える上でも非常に有用であった。
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Strategy for Future Research Activity |
遺伝性疾患の原因は、従来のショートリードシークエンサーで明らかになっていないものが半数以上存在する。ロングリードシークエンサーの実用化によって、これまでの技術では困難であった領域の解析が期待されているが、臨床遺伝学的に実用的なツールがほとんどない。本研究では、新しく開発したtandem-genotypesとdnarrangeという二つのアプローチを用いることで、遺伝性疾患のロングリード全ゲノム解析結果から、疾患原因を見出すことが可能になることを示しており、さらなる実用化へむけてこれらのツール開発を行っていきたいと考えている。 また、今年度、データの二次解析で、疾患原因となるリピートは健常においても多型性があるという結果が得られており、多型性のあるリピートに注目して新たな疾患原因を見出すことができるかもしれないということを示唆している。今後は、過去にゲノムワイド関連解析や疾患家系の連鎖解析などで見つかっている疾患関連ローカスの近くにある多型性のあるリピートが原因となっている可能性について、神経疾患をターゲットに新たなリピートの原因を見つけていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
今年度はデータ解析により結果が多く得られており、ツール開発と論文作成等に時間がかかったため、予定していた物品の使用額まで至らなかった。また、代表研究者の所属の移動があったため、予定していた新しい実験を延期し、次年度使用とした。
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Research Products
(8 results)
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[Journal Article] Long-read Sequencing Identifies the Pathogenic Nucleotide Repeat Expansion in RFC1 in a Japanese Case of CANVAS2020
Author(s)
Haruko Nakamura, Hiroshi Doi, Satomi Mitsuhashi, Satoko Miyatake, Kazutaka Katoh, Martin C Frith, Tetsuya Asano, Yosuke Kudo, Takuya Ikeda, Shun Kubota, Misako Kunii, Yu Kitazawa, Mikiko Tada, Mitsuo Okamoto, Hideto Joki, Hideyuki Takeuchi, Naomichi Matsumoto, Fumiaki Tanaka
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Journal Title
Journal of Human Genetics
Volume: 65
Pages: 475-480
DOI
Peer Reviewed
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