2019 Fiscal Year Research-status Report
シナプス分子に対する新規自己抗体による難治性精神症状の病態解明
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19K08011
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
塩飽 裕紀 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (90747502)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 統合失調症 / 自己抗体 / GABA受容体 / シナプス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「シナプス分子に対する未知の新規自己抗体が難治性精神症状を形成する」という新しい仮説の検証を目的としている。そのために、精神疾患患者および、健常者の血清サンプルを収集する必要がある。2019年度には統合失調症患者の血清を約110名、健常者血清を約60名収集した。また、新規自己抗体をスクリーニングするcell based assayの実験系を確立した。現在までにシナプス分子を多量にクローニングし、スクリーニングを行い、複数の統合失調症の病態に関わり得る自己抗体を4つ発見した。特に、本研究は未知の自己抗体を発見することを目的の一つにしており、実際に新規の自己抗体を発見できている。同時に、脳炎患者ですでに報告されているものの、統合失調症患者で解析がされていない自己抗体で、特に脳炎の症状として幻聴や妄想を呈するものも解析した。例えば、GABAA受容体への自己抗体はそのうちの一つであるが、これは117名の統合失調症患者のうち、5名に検出された。60名の健常者には陽性者はいなかった。これらの5名の中には抗体価が10000倍~100000倍の強陽性の患者もいた。これまでに統合失調症患者で報告されたNMDA受容体への抗体価は50-300倍程度であることを考えると、著しく強陽性であることがわかる。これらの中には軽度の脳波異常が検出できるものもいたが、抗体価が10000倍であった患者は脳波上正常であったりと、5名に一致した脳波の所見はなく、また、腫瘍など共通した既往歴も見られなかった。また、髄液中にもGABAA受容体への自己抗体が検出されたことは特筆すべきである。これらの統合失調症における抗GABAA受容体抗体について論文に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
患者血清の収集が順調で、計画した自己抗体のスクリーニングシステムを完成させ、予定通りシナプス分子のスクリーニングも順調にすすみ、さらに未知の自己抗体も発見できている。また、統合失調症で解析されていないGABAA受容体への自己抗体に関しても、同様のスクリ―ニングシステムで解析し、臨床症状の解析等も含めて論文発表も行った。すでに発見している自己抗体や、GABAA受容体への自己抗体の抗原分子への影響など、次年度への研究計画の発展にもつながる成果があり、すでにそれらの解析も進めている。これらから、研究計画は順調に進展しているか、または未知の自己抗体の発見個数を考えれば、想定以上に進展していると考えても良い成果と思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに発見した新規の自己抗体4つとGABAA受容体への自己抗体の解析を進める。すなわち、抗原分子のエピトープ部位を同定する。その上で、分子間結合の阻害作用があるかをpull down assayやビアコアを用いて解析する。また、細胞レベルでは初代培養細胞や脳スライス標本を用いて解析する。すなわち、初代培養神経細胞や脳スライス標本に自己抗体を投与することで、標的分子の局在の変化、下流分子シグナルの変化、スパインの形態変化、神経電気生理学的の変化などを、分子生物学的・形態学的・電気生理学的アプローチにより解析する。また、マウスに自己抗体を投与した病態モデルマウスを作製し、行動実験を行うことで、自己抗体が精神症状の病態の原因になり得ることを示す。本モデル動物は、細胞モデルと同様に、分子病態を明らかにすることにも使用し、さらには免疫反応の抑制・血液脳関門の脆弱性の回復・自己抗体標的分子のシグナル異常回復など、治療法開発に利用できる。これら解析を順次行い、新規の自己抗体と統合失調症の病態との関係を明らかにし、論文・学会発表を行う。また、現在のスクリーニングシステムは有効に働いていると考えられるため、さらに統合失調症以外のサンプル収集も行い、またターゲットの分子のさらに増やして、解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
すでに購入してあった消耗品などを用いながら節約をして研究を行ったため、少ない経費で結果が出ているが、今後マウスの実験などで比較的多くの研究費が必要になるため、次年度以降に有効に活用したい。
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Research Products
(3 results)