2019 Fiscal Year Research-status Report
放射線抵抗性浸潤細胞における特異的パスウェイの解明と抑制方法の提案
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19K08111
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
藤田 真由美 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部, 主任研究員(定常) (80580331)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 浸潤 / 放射線 / 放射線抵抗性浸潤細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者らはこれまでの研究で、PANC-1細胞株では放射線照射後に浸潤細胞の数が増加することを明らかにした。その後の研究で、PANC-1では細胞全体の中に一部、浸潤能を有する細胞集団が存在し、その集団はPANC-1全体の集団と比べ、炭素イオン線に抵抗性である、すなわち、細胞全体の中に「放射線抵抗性浸潤細胞」の集団が存在し、照射後にそれらが選択的に生き残ったために、全体として浸潤細胞の数が上昇していたことが示唆された。では、「放射線抵抗性浸潤細胞」とはどのような細胞なのか。どの細胞株にもある割合で存在するのか。存在するならば、「放射線抵抗性浸潤細胞」で共通する重要因子を見出せないだろうか。これらを明らかにするため、本課題では、① 浸潤細胞の集団が存在する細胞株をスクリーニング・同定し、②それら細胞株全体の中に存在する浸潤細胞の集団を単離する。③単離した浸潤細胞は細胞株全体の集団と比較し、放射線抵抗性か評価する、④抵抗性だった場合、放射線抵抗性浸潤細胞で特徴的に発現が上昇又は低下する遺伝子を見出す、ことを目的とし研究を進めている。初年度(2019年度)は①を遂行すべく、7種類のヒト乳がん由来細胞株(BT474, HCC1937, MCF-7, MDA-MB-231, MDA-MB-468, SK-BR-3, SUM149)を用い、浸潤細胞の集団が存在する細胞株をスクリーニングした。トランスウェル浸潤アッセイ、及び、スフェロイド浸潤アッセイの結果より、7種のうち2種類の細胞株(MDA-MB-468とSUM149)では、細胞株全体の中に浸潤細胞の集団が存在することが明らかとなった。次年度は、これら細胞株から浸潤細胞を単離し、浸潤細胞は細胞株全体の集団と比較して放射線抵抗性か、研究を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では、「放射線抵抗性浸潤細胞」で共通する重要因子を見出すことを目的とし、研究を進めている。2019年度(初年度)は、①浸潤細胞の集団が存在する細胞株をスクリーニングし同定することを目的とし、研究を進めた。まず、7種類のヒト乳がん細胞株を用い、浸潤細胞の集団が存在する細胞株をスクリーニングした。トランスウェル浸潤アッセイの結果より、7種のうち4種類の細胞株(HCC1937, MDA-MB-231, MDA-MB-468, SUM149)で、浸潤する細胞の存在が確認された。しかし、トランスウェル浸潤アッセイでは、全体の集団のうち、どのような細胞が浸潤しているのか、細胞全体が動き出しているのか、もしくは、全体のうち一部の集団のみが浸潤能を有しており動いているのか可視化することができない。そのため、加えてスフェロイド浸潤アッセイを行い、全体の中に特定の浸潤細胞集団が存在するのか確認したところ、HCC1937, MDA-MB-231は、スフェロイドを構成する細胞全体がコラーゲンゲルに広がり浸潤する様子が観察された。すなわち、HCC1937とMDA-MB-231は、どの細胞も浸潤能を有することが明らかとなった。一方で、MDA-MB-468とSUM149では、スフェロイドを構成する細胞集団のうち一部の細胞のみが浸潤する様子が見出された。これらの結果から、MDA-MB-468とSUM149は、細胞株全体の中に浸潤細胞の集団が存在することが明らかとなった。現在は②及び③を遂行すべく、この2種の細胞株から浸潤細胞を単離し、放射線に対し抵抗性か調べている。 2019年度の研究により、目的であった、浸潤細胞の集団が存在する細胞株を2種類(MDA-MB-468とSUM149)を同定することができた。よって、「研究は概ね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度(2年目)は、今年度に同定された細胞株2種(MDA-MB-468とSUM149)を用い、②それら細胞株全体の中に存在する浸潤細胞の集団を単離すること、また、③単離した浸潤細胞は細胞株全体の集団と比較し、放射線抵抗性か評価することを進める予定である。SUM149に関しては、すでに浸潤細胞を単離し、現在、放射線抵抗性を示すか調べているところである。また、2020年度は乳がんに加え、脳腫瘍由来細胞株も用いて、浸潤細胞の集団が存在する細胞株をさらにスクリーニング・同定する予定である。脳腫瘍は、放射線に抵抗性な細胞株が多い。また、浸潤能も高い細胞株が多いため、放射線抵抗性浸潤細胞の存在が確認される可能性が考えられる。そのため、乳がん細胞以外に、脳腫瘍の細胞株についても解析を進めたいと考えている。すでに、脳腫瘍細胞株5種を用い、トランスウェル浸潤アッセイを進めており、今後はそれらの結果を踏まえ、スフェロイド浸潤アッセイも行い、浸潤細胞の集団が存在する細胞株をさらにスクリーニング・同定する予定である。
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Causes of Carryover |
当初、今年度の研究成果を米国の癌学会で発表する予定であった。しかし、新型コロナウイルスの関係で、学会の日程が後日に変更となったため、予定していた旅費交通費は次年度に使用することとなった。そのため、次年度使用額が生じた。
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