2020 Fiscal Year Research-status Report
スーパーエンハンサー機能異常を介した悪性ラブドイド腫瘍の分子病態の解明
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19K08257
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
桑原 康通 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (30590327)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥田 司 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30291587)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | SWI/SNF複合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト腫瘍の発生には一般に複数のゲノム遺伝子変異の蓄積を必要とするが、悪性ラブドイド腫瘍(MRT)は、GWAS解析の浸透した現在においても、ゲノム上ただ一つの遺伝子変異(SNF5遺伝子変異)によって発症すると考えられているユニークな腫瘍である。このようにMRTはSNF5の単一遺伝子異常から発生するが、最近になってDNAメチレーションアレイの手法を用いた解析から、DNAのメチル化状況の相違によってTYR、SHH、MYCの3つのsubgroupに分類されることが報告された。中でもMYC subgroupは、有効な治療標的の候補も同定されておらず、MRT全体の予後改善のためにはMYC高発現のメカニズムの解明とその制御手法の確立が必要である。 一方で、SNF5はクロマチンリモデリングにおいてカギとなる役割を担うことから、その欠損によってMRT細胞ではさまざまな遺伝子の発現に影響が生じていることが知られ、ここに関わる遺伝子制御機構の解明が急務である。我々は、SNF5の欠損によって複数の構成因子が欠落するため不完全なSWI/SNF複合体(SWI/SNFΔ複合体)が形成されることを明らかにしたが、さらにSWI/SNFΔ複合体によって、スーパーエンハンサーを介した遺伝子発現制御の異常ももたらされることが知られてきた。しかしながら、SWI/SNFΔ複合体によるエンハンサー機能異常のメカニズムは解明されていない。 ここで、転写因子RUNX1はMYCのエンハンサー領域で結合しエンハンサー機能に影響し、またSWI/SNF複合体とも機能協調していることが報告されていることから、RUNX1着目し検討を進めている。RUNX1とSWI/SNF複合体の機能協調メカニズムの解明をてがかりに、クロマチンリモデリングとMRT発生との関わりを検討し、そのエピジェネティクス発がん機構の解明と、新規治療戦略の確立を目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
MRT細胞株である、A204、G401、TTC642、TTC549はいずれもMYC subgroupに分類され、MYCのmRNA発現とタンパクの発現は相関していた。また、これらのMRT細胞株ではRUNX1の発現が、mRNAレベルとタンパク発現の双方で認められない。そこで、A204、G401、TTC642、TTC549を用いて、MRT細胞株においてSNF5の発現やRUNX1の発現によってMYC遺伝子の発現に影響があるのかどうかを検討している。これらMRT細胞株に、SNF5とRUNX1の両方の遺伝子を導入した群で検討したが、わずかにMYC mRNAとタンパク発現量の低下傾向を認めたのみで、SNF5、RUNX1単独ではMYC遺伝子の発現に影響は認めなかった。このことは、遺伝子導入効率の影響によって、結果が影響を受けている可能性が考えられた。そこでTet-onシステムを導入し確実に目的の遺伝子が導入できる実験系の構築に取り掛かった。SNF5遺伝子をTet-Oneシステムのベクターへの導入は、制限酵素サイトを付与したプライマーによるPCR反応にひきつづいて、In-fusion反応を用いて導入した。シークエンス解析により塩基配列が正しいことを確認し、A204細胞へ導入し、ドキシサイクリンの添加によってSNF5が導入されるのかウエスタンブロット法で検討した。しかし、予想に反しSNF5の発現がみられない状況であった。また、ピューロマイシンによる選択を利用した安定的導入細胞の構築も試みたが、SNF5の発現を認める細胞は確認できない状況である。 そこで、当該研究では、当初計画では想定していなかった困難が出現したため、回避目的に、HeLa細胞株でSNF5をCRISPR-Cas9を用いてノックアウトし、SNF5の発現のない細胞を構築し、RUNX1とSWI/SNF複合体の機能協調メカニズムを、MYC遺伝子を標的に解明することを計画し着手している。以上のように当初予定よりもわずかに進行は遅れているものの、確実な前進をしているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
遺伝子導入法を一過性発現手法からTet-onシステムへと変更を試みたが、MRT細胞株では、想定したようには動かなかった。そこで、HeLa細胞株でSNF5をCRISPR-Cas9を用いてノックアウトし、SNF5の発現を欠損した細胞を構築することとした。以降は、このシステムによってSNF5の欠損したHeLa細胞株と野生型のHeLa細胞株に対して、RUNX1発現させ、MYC遺伝子の発現変化について確定する予定である。さらに、その遺伝子変化はエンハンサー機能が変化することによるのかどうか実験を進める予定である。具体的には、まず、RUNX1がMYC遺伝子のエンハンサーのどの領域に結合するのか、ChIP-seqによって同定する。また、SNF5の発現によって、RUNX1の結合が影響されるかどうか、活性化されているエンハンサー領域が変化するのかどうかといった解析を、ChIP-seqやChIP-QPCR法によって行う。また、補完的アプローチとしてMYCプロモーターへの影響の有無についても検討は必要であり、MYC遺伝子プロモーターをpGL3に入れルシフェラーゼアッセイを行って検討することも計画している。これらによって、RUNX1とSNF5によるMYC遺伝子制御のメカニズムが解明される。さらに、MRTにおけるMYC遺伝子の活性化されているスーパーエンハンサー領域を解明することを合わせて、MYC subgroupの形成のメカニズムに迫っていけると考えている。また、MYCのエンハンサー・スーパーエンハンサー機能を抑制する可能性が予測されるCDK7阻害剤やJQ1等の効果を検証し、新規治療薬の候補を探索して行きたいと考えている。
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[Journal Article] Novel Two MRT Cell Lines Established from Multiple Sites of a Synchronous MRT Patient2020
Author(s)
Yasumichi Kuwahara, Tomoko Iehara, Eisuke Ichise, Yoshiki Katsumi, Kazutaka Ouchi, Kunihiko Tsuchiya, Mitsuru Miyachi, Eiichi Konishi, Hiroyasu Sasajima, Satoaki Nakamura, Shigehisa Fumino, Tatsuro Tajiri, Pascal D Johann, Michael Fruhwald, Tsukasa Okuda, Hajime Hosoi
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Journal Title
Anticancer Research
Volume: 40
Pages: 6159-6170
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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