2020 Fiscal Year Research-status Report
新生児・早産児における免疫寛容及び免疫応答機構の統合的免疫細胞・分子学的解析
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19K08293
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 尚人 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (50197159)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 臍帯血 / 免疫寛容 / スーパー抗原 / 制御性T細胞 / naiveT細胞 / TSST-1 / 新生児 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は臍帯血を用い新生児免疫寛容の細胞分子学的機序を明らかにしようとするもので、我々が以前報告したスーパー抗原性外毒素TSST-1によるT細胞受容体TCRを介した刺激での免疫寛容誘導の実験系を用いる独特のものである。 初年度の研究結果から、臍帯血と成人末梢血のCD45RO-naiveT細胞を分離し、その機能比較を行なうこととした。初年度はスーパー抗原性外毒素TSST-1で単純に一次刺激し比較する実験を各6例で行なったが、2年目はそれぞれ20例に対象を増やすことができた。そして、さらに先行研究でTSST-1刺激後の芽球(Vbeta2+ CD4+ T cells)をIL-2でexpansionした後に、再度TCRへの刺激を加えると臍帯血由来の芽球にのみanergyが誘導されることを確認していたことから、今回も単刺激のみでなく、naiveT細胞を刺激芽球化し再度TSST-1で二次刺激する系も解析することとした。 その結果、以下の結果を得ている。1. 臍帯血のnaiveT細胞は、成人naiveT細胞と比較した場合でも、独特にanergyに誘導される。2 臍帯血由来のNaive CD4+ T cellsはFOXP3の発現が成人末梢血由来の細胞よりも高い傾向にある。3 このanergyに誘導された臍帯血T細胞はRNAseqによる解析でも、制御性T細胞特異的な反応経路の遺伝子発現が有意に高い。 以上から、正期産児の末梢血naiveT細胞は免疫寛容anergyに誘導されやすく、その免疫応答に制御性T細胞が関与していることを明らかにできたと考えている。また、これらのT細胞の刺激後のサイトカイン産生プロファイルの特殊性も現在確認中である。 当初の研究計画では、早産児の免疫応答についても解析することとしており、この研究手法の確立と解析結果から、3年目には早産児例でも同様の解析も行う予定としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
応募時の研究成果目標は1.新生児免疫寛容への制御性T細胞の関与と関連する遺伝子発現調節を明らかにすること、2。早産児の免疫制御異常となりうる免疫系遺伝子発現調節の弱点を明らかにすること、3.在胎週数別に免疫寛容・免疫制御機構がどのように変化するかを明らかにすることとしていた。この目標の中では、1が最も重要で、新生児の免疫寛容誘導の機序を明らかにするものであり、この確認ができた上で、2と3の研究が発展するものである。 この2年間、実際に臍帯血と成人末梢血のスーパー抗原刺激の比較実験を行う中で、種々の思いがけない事象も明らかになり、時間を要したが、当初の目的1については、本質的な重要な結果を得ることができた。新生児免疫寛容に制御性T細胞が役割を果たしている可能性が高く、新生児は免疫が必ずしも弱いわけではなく、必要に応じて免疫寛容の方向に調節していることを証明できそうである。 しかし当初の計画通り、正期産児のみならず、在胎週数別の早産児の免疫応答は大変興味深い。実際に臨床の現場では早産児の免疫応答は易感染性と炎症誘導傾向の両方が見られることから、その解析はとても重要である。 2年目にまだ早産児の免疫応答の解析ができなかったことは残念であるが、得られた上記の結果があればこそ、早産児の解析も可能となることから、その意味では概ね順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、当初案の目的1については比較的順調に進めることができ、ようやく2と3の目的に入ることができる段階まで来ている。一方で、目的1の解析結果のまとめの時間も必要であり、また研究予算も3年目は大きく減らしていて、論文報告に時間をさく予定であった。また一方で、早産児はいずれの児も生理的な出生ではなく、ある意味病的な出生であり、その免疫応答の解析には一定程度の症例数を集める必要がある。以上から、目的2と3については、論文報告ができる段階まで本研究で解析を進めることは容易でないと考えている。 そこで、最終年度の3年目はさらに次の段階の研究に進めるための必要な準備をする研究と考え、着実に次につなげたいと考えている。特に、早産児の炎症誘導傾向は重要であり、現在、診療の場で検体を収集し、サイトカインプロファイルを解析する研究を別途開始した。 以上、本研究の2年間で方法論は確立できたことから、最終年度は1例でも多く早産児のリクルートを進め、同様の方法を用いて解析を行う予定である。
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