2019 Fiscal Year Research-status Report
軽度知的障害が見られるR3HDM1欠損症の脳病態の解明
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19K08337
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Research Institution | Institute for Developmental Research Aichi Developmental Disability Center |
Principal Investigator |
福士 大輔 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 遺伝子医療研究部, 主任研究員 (90397159)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 君子 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 遺伝子医療研究部, 研究員 (30598602)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | R3HDM1 / 染色体逆位 / 軽度知的障害 / 自閉症 / 神経突起 |
Outline of Annual Research Achievements |
本症例は染色体解析により、逆位による切断でR3HDM1が機能不全となるR3HDM1欠損症と同定しており、今年度は以下の解析を行った。①患者と健常者4名のリンパ芽球培養細胞のR3HDM1の発現量をウエスタンブロット法で解析した結果、患者のR3HDM1の発現量は健常者の49%であった。同様に、両者のR3HDM1のmRNAの発現量を定量PCR法で解析した結果、患者の発現量は健常者の68%であった。以上より、患者ではR3HDM1の発現量が低下していることが明らかになった。②R3HDM1のイントロン18にはマイクロRNAであるmiR-128-1が局在する。そこで、逆位(断点はR3HDM1のイントロン19)がmiR-128-1の発現に影響するのかを定量PCRで解析した結果、健常者3名の発現量との差は認められず、本逆位はmiR-128-1の発現に影響しないことが判明した。③患者と両親(計3名)でエクソーム解析とCNV解析を行ったが、疾患の候補遺伝子は認められなかった。以上より、本症例はR3HDM1単独の欠損症であることが確定した。④マウス初代海馬培養細胞のR3HDM1をノックダウンした結果、ノックダウンをしていないコントロールに比べ、神経突起の長さと分枝の数が共に60%程度低下することが明らかになった。⑤miR-128は、知的障害の病因遺伝子PHF6の3'UTRに作用してマウス脳の神経突起の伸長を抑制し、R3HDM1と同族のARPP21(R3HDM3)は、miR-128の神経突起に対する作用を阻害し、突起伸長を促進する(Rehfeld et al., 2018)。そこで、R3HDM1もPHF6の3'UTRにおけるmiR-128の神経突起伸長作用を阻害するのかをluciferase reporterアッセイで検討した。その結果、R3HDM1も神経突起伸長作用を促進する可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウス初代海馬培養神経細胞のR3HDM1をノックダウンして神経突起の様子を解析する研究は、順調に進展した。この解析により、R3HDM1はマウス脳の神経細胞の突起形成、すなわちネットワーク形成に重要な役割を果たすことが明らかになり、本症例の患者で見られる軽度知的障害がR3HDM1のハプロ不全で起こる可能性を示唆した。加えて、患者のリンパ芽球細胞で実際にR3HDM1の発現量が低下していること、miR-128-1は染色体逆位の影響を受けていないこと、R3HDM1以外に本症例の疾患候補遺伝子が存在しないことを明らかにした。R3HDM1欠損症は、これまで報告の無い新しい知的障害の疾患であるので、これまでの研究成果を論文にまとめ、学術誌への投稿準備を開始した。論文投稿を優先したため、当初予定していたR3HDM1のノックアウトマウスを用いた研究は次年度以降に行うことになった。
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Strategy for Future Research Activity |
①RNA結合タンパクであるR3HDM1は、細胞に何らかのストレスがかかった際に形成されるstress granules(SGs)の構成タンパク質であり(Rehfeld et al., 2018)、mRNAを細胞ストレスから保護すると考えられている。しかし、神経突起上あるいはシナプスでのR3HDM1の分布は明らかになっていない。また、mRNAの分解を行うprocessing body(P-body)との関連も不明である。そこで、①亜ヒ酸ナトリウム処理でSGsを形成したHeLa細胞を用い、SGsやP-bodyを構成するタンパク質とR3HDM1の関連について、これらの細胞小体を構成するタンパク質の抗体を用いた免疫染色により明らかにする。②ヒト神経芽細胞腫由来のSH-SY5Y細胞を用い、神経突起やシナプスでのR3HDM1の分布、さらにSGsやP-bodyタンパク質との分布の相違を明らかにする。③R3HDM1は、mRNAとの結合に関係するR3HやSUZドメインをN末端側に持つ。これらを欠損させた変異体、さらにC末端側を欠損した変異体を作製し、②で明らかにする神経突起やシナプス上での分布に差が見られるのかを明らかにする。以上より、神経突起伸長とR3HDM1の関連を明らかにする。 ④脳におけるR3HDM1の発現部位を解析するため、正常マウス脳の発生段階でのR3HDM1の発現部位を経時的に明らかにする。具体的には、R3HDM1の抗体を用いたウエスタンブロット法により、胎生期(E15、E18)と出生後(P1、P30)脳での同タンパク質の発現量を解析する。また、同抗体で脳薄切切片を蛍光免疫染色することで、高発現部位の特定を行う。⑤R3HDM1のノックアウトマウスの作製に着手する。
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Causes of Carryover |
今年度予定していたノックアウトマウスの作製が次年度以降にずれ込んだため、当初配分額を下回る使用額となった。この余剰額と次年度の配分額を合算して、ノックアウトマウス作製の費用とする計画である。
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