2020 Fiscal Year Research-status Report
軽度知的障害が見られるR3HDM1欠損症の脳病態の解明
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19K08337
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Research Institution | Institute for Developmental Research Aichi Developmental Disability Center |
Principal Investigator |
福士 大輔 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 遺伝子医療研究部, 主任研究員 (90397159)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 君子 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 遺伝子医療研究部, 研究員 (30598602)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | R3HDM1 / 染色体逆位 / 軽度知的障害 / 自閉症様行動 / 神経突起 / RNA結合タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、これまでの研究成果を世界初のR3HDM1欠損症として論文化し、Am J Med Genet A誌に受理された。 一方、本症例の軽度知的障害の発症機序は不明である。一般に、RNA結合タンパク質(RBP)は核内で転写されたmRNAがリボソームで翻訳される間の品質管理や翻訳制御を行うが、RBPの一つであるR3HDM1の具体的な機能は不明である。今年度は、本症例が軽度知的障害を発症する機構の解明を目標に、以下の研究を行った。①マウス胎仔の海馬由来の初代培養細胞やヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を用いた免疫染色の結果、R3HDM1は細胞質に加え、神経突起にも局在した。②mRNAとの結合に重要なR3HやSUZドメインなどを欠損させたR3HDM1の変異体を作製し、SH-SY5Y細胞の神経突起での局在を免疫染色で解析した結果、いずれもコントロールのR3HDM1との分布の差は認められなかった。③亜ヒ酸ナトリウム処理によりストレスを与えたHeLa細胞では、R3HDM1はストレス顆粒を形成するRBPと共局在したことから、R3HDM1はストレス下において、mRNAを保護する可能性が高いと考えられた。④一方、mRNAの分解を行うprocessing bodyを形成するRBPとは共局在しなかった。⑤SH-SY5Y細胞の神経突起では、R3HDM1は重度知的障害に関与するFMRPなどのRBPとは共局在しないことから、神経突起を移動するRBPにはいくつかの種類があり、その機能不全が知的障害の重症度に関与する可能性が示唆された。⑥当初、外部受託する予定だったモデルマウス作製について、当研究部門でCRISPR/Cas9を用いたi-GONAD法によるモデルマウスの作製法が確立したため、R3HDM1のノックアウトマウスの作製を開始した。その結果、機能喪失型変異をヘテロで持つマウスの作出に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、R3HDM1欠損症を世界初の症例として学術誌に論文投稿し、受理された。さらに、マウス胎仔の海馬培養細胞やヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を用いた実験により、R3HDM1は神経突起に分布し、他のRNA結合タンパク質とは個別にmRNAをシナプスまで運搬する可能性が示唆された。また、ストレスにさらされた細胞では、R3HDM1がストレス顆粒を形成することでmRNAを保護する可能性が示唆された。R3HDM1は機能が不明であるが、昨年度明らかにした神経突起伸長への関与と併せて、R3HDM1はシナプス形成に必要なタンパクのmRNAを運搬する可能性を示すことができた。一方、昨年度着手できなかったR3HDM1のノックアウトマウス作製については、当研究部門で作製可能となったことから、機能喪失型変異をヘテロで持つマウスの作出に成功し、これまでの遅れを取り戻した。
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Strategy for Future Research Activity |
シナプスの形成不全は、自閉症をはじめとする神経発達障害に関与することが数多く報告されており、軽度知的障害と自閉症様行動を示す本症例でも、R3HDM1のハプロ不全がシナプスの形成不全に何らかの関与をする可能性が高い。 R3HDM1が神経突起を経由してシナプスまでmRNAを運搬する可能性が示唆されたことを受けて、今後は以下を明らかにする。1) R3HDM1が情報を出力するシナプス前末端、入力される側のシナプス後細胞の樹状突起のどちらに局在するのかを、マウス胎仔の初代培養神経細胞に対し、それぞれのシナプスに特異的なタンパク質の抗体を用いた免疫染色で解析する。2) R3HDM1がシナプスまで運搬するmRNAを同定する。具体的には、マウス胎仔cortex由来の初代培養細胞をメルク社のセルカルチャーインサートなどを用いて培養し、神経突起のみを回収後にRNAを抽出し、R3HDM1がシナプスへ運搬する標的mRNAをRIP-Chip解析で網羅的に検索する。3) R3HDM1のノックアウトマウスを作製後、以下について正常なマウスとの比較解析を行う。①それぞれの胎仔由来の初代培養神経細胞を用いた神経突起形成の差異の解析。②シナプスまで運搬するmRNAの差異の解析。③脳におけるR3HDM1の分布や発現の差異についての脳薄切切片を用いた免疫染色による解析。④R3HDM1のノックアウトマウスに特異的な行動様式(活動性、学習・記憶、不安・うつ、注意機能、運動機能など)の解析。以上より、R3HDM1異常症の脳病態を明らかにし、R3HDM1の異常が本症例の軽度知的障害や自閉症様行動の原因であることを解明する。
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Causes of Carryover |
R3HDM1疾患モデルマウスの作製について、当初計画では外部受託を予定していたが、当研究部門でモデルマウスの作製が可能となったため、外部受託費が不要となり、次年度使用額が生じた。これについては、今後外部受託でのRNA解析を予定しているため、その費用に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)