2021 Fiscal Year Research-status Report
軽度知的障害が見られるR3HDM1欠損症の脳病態の解明
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19K08337
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Research Institution | Institute for Developmental Research Aichi Developmental Disability Center |
Principal Investigator |
福士 大輔 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 遺伝子医療研究部, 主任研究員 (90397159)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 君子 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 遺伝子医療研究部, 研究員 (30598602)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 染色体逆位 / 軽度知的障害 / 自閉症様行動 / 神経突起 / RNA結合タンパク質 / miR-128 |
Outline of Annual Research Achievements |
世界初のR3HDM1欠損症として投稿した学術論文が、2021年5月にAm J Med Genet A誌に正式に掲載された。 その一方、本症例の軽度知的障害の発症機序は不明であるため、今年度は以下の研究を行った。①マウス胎仔の大脳皮質由来の初代培養神経細胞を用いてR3HDM1の局在を詳細に解析した結果、細胞体では特に核に多く局在することが判明した。②シナプスとR3HDM1の関連を明らかにするために、前シナプスのマーカータンパク質であるSynapsin 1、あるいは後シナプスのマーカータンパク質であるPSD95とR3HDM1が共局在するのかを免疫染色で解析した結果、R3HDM1はシナプス近傍には到達しているが、シナプス内部には局在しない可能性が高いことが明らかになった。③神経突起におけるR3HDM1の移動がどのように行われているのかを明らかにするために、初代培養神経細胞に対して、アクチン重合阻害剤であるサイトカラシンBを加えた結果、R3HDM1の局在に変化は認められなかった。一方、チューブリン重合阻害剤であるノコダゾールを加えた結果、R3HDM1の神経突起上での局在量が減少した。さらに、ノコダゾール処理後にノコダゾールを含む培養液を除去するリリース実験を行った結果、リリース後2時間で神経突起におけるR3HDM1の局在量が回復することが示唆された。これについては、引き続き詳細な解析を継続中である。④i-GONAD法によるモデルマウスの作製については、R3HDM1のホモ欠失、ヘテロ欠失それぞれのマウスの作出に成功し、現在系統維持を行っている。一方、本症例の発症にR3HDM1と共に関与すると考えられ、R3HDM1遺伝子内に局在するマイクロRNA(miR-128-1)についても、同遺伝子の欠損モデルマウスの作出に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、世界初のR3HDM1欠損症の論文がAm J Med Genet A誌に掲載された。さらに、マウス胎仔の大脳皮質由来の神経細胞を用いた実験により、R3HDM1は細胞体では核に多く局在するほか、シナプス近傍を含めた神経突起に分布するが、シナプス内部には局在しない可能性が示唆された。さらに神経突起におけるR3HDM1の局在は、チューブリン依存的である可能性が高いことが判明した。これは、細胞体から神経突起を経てシナプス近傍までR3HDM1が移動するためには、キネシンなどのモータータンパク質が関与する可能性を示唆する。 しかし、当初予定していたR3HDM1がシナプスまで運搬するmRNAの同定については、培養神経細胞から神経突起のみを回収する段階には至っていない。本実験でR3HDM1がシナプス近傍まで運搬するmRNAを同定することで、神経突起の伸長とR3HDM1の関係が明らかになり、本症例の知的障害の病因解明の糸口が得られる可能性が高いことから、引き続き研究を継続する必要がある。 一方、i-GONAD法を用いた疾患モデルマウスの作出は、順調であった。具体的には、R3HDM1のホモ、ヘテロ欠失マウスの作出に成功したため、現在ホモ欠失の個体を増やしており、今後の細胞学的、組織学的解析や行動解析に向けて準備中である。 我々は、本疾患はR3HDM1とmiR-128のアンバランスな遺伝子発現が病因であるという仮説を立てている。この仮説を証明するにあたり、神経突起の伸長においてR3HDM1と競合関係にあると考えられるmiR-128-1についても、同遺伝子の欠損マウスの作出に成功したため、今後の解析に向けた準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の解析結果で、R3HDM1が神経突起を経由してシナプス近傍までmRNAを運搬する可能性が示唆されたことを受けて、今後は以下を明らかにする。1) R3HDM1がシナプスまで運搬するmRNAを同定する。具体的には、マウス胎仔の大脳皮質由来の初代培養神経細胞をメルク社のセルカルチャーインサートを用いて培養し、神経突起のみを回収後にRNAを抽出し、R3HDM1がシナプスへ運搬する標的mRNAをRIP-Chip解析で網羅的に検索する。2) R3HDM1の欠損モデルマウスの作出、および神経突起の伸長においてR3HDM1と競合関係にあると考えられるmiR-128-1についても、同遺伝子の欠損マウスの作出に成功したため、以下について正常なマウスとの比較解析を行う。①それぞれの胎仔由来の初代培養神経細胞を用いた神経突起形成の差異の解析。②シナプスまで運搬するmRNAの差異の解析。③脳におけるR3HDM1の分布や発現の差異についての脳薄切切片を用いた免疫染色による解析。④R3HDM1のノックアウトマウスに特異的な行動様式(活動性、学習・記憶、不安・うつ、注意機能、運動機能など)の解析。以上より、R3HDM1欠損の脳病態を明らかにし、本症例の軽度知的障害や自閉症様行動の病因を解明する。
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Causes of Carryover |
当初予定していた神経突起からRNAを回収する実験、およびR3HDM1の神経突起における分布の解析に時間がかかっている。これに伴い、追加実験に必要な費用が生じたため。
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Research Products
(2 results)
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[Presentation] 染色体腕間逆位から同定した知的障害の新規原因遺伝子R3HDM1.2021
Author(s)
福士大輔, 稲葉美枝, 加藤君子, 鈴木康予, 榎戸 靖, 野村紀子, 時田義人, 水野誠司, 山田憲一郎, 若松延昭, 林 深
Organizer
日本人類遺伝学会第66回大会・第28回日本遺伝子診療学会大会