2019 Fiscal Year Research-status Report
ヒト大脳オルガノイドを用いたダウン症の早期アルツハイマー型認知症の治療薬開発
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19K08344
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
粟屋 智就 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (20589593)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ダウン症候群 / iPS細胞 / 中枢神経病理 / オルガノイド培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画通り、研究代表者が今までに取得したダウン症者由来iPS細胞(DS-iPSC)を用いて、中枢神経系分化誘導および大脳オルガノイドの作成を行った。DS-iPSCは21番染色体数以外のゲノム背景の均質な細胞株 1対(欧米人細胞バンク由来株 1株、および当該株の染色体数の自然修復株 1株)、および日本人ダウン症者末梢血由来iPSC 3株、対照株(CTR-iPSC)として欧米人由来健常対照iPSC 201B7株、409B2株、日本人由来健常対照iPSC を用いた。未分化状態のiPSCを常法により維持・拡大培養し、染色体検査および競合的ゲノムハイブリダイゼーション法(aCGH)により染色体を評価した後、従来型の分化誘導法(平面培養法、2D法)、およびオルガノイド法(立体培養法、3D法)で中枢神経系への分化誘導を行った。
2D法においては、既に初期の神経発生過程において21番染色体上のDYRK1A遺伝子の過剰がDS-iPSC由来の神経前駆細胞(PAX6+/NESTIN+)の増殖異常を呈することを示してきたが、CTR-iPSC群、DS-iPSC群いずれにおいても神経細胞(TUBB3+/MAP2+/SYP+)、星状膠細胞(GFAP+)を分化誘導することが可能であった。2D法における中枢神経系細胞でのDYRK1A遺伝子およびAPP遺伝子発現レベルについての検討では、CTR群とDS群との比較より細胞株間での発現の差異の方が顕著である傾向がみられたが、中枢神経系細胞における神経細胞-星状膠細胞の割合や分化成熟度にもばらつきがみられるため、戦略を検討中である。オルガノイド法においてはマウスで得られた知見と同様、初期の細胞増殖とオルガノイドの大きさに差が見られた。3D法がin vivoでの神経発生をある程度反映していることが期待出来、長期培養を行い病理組織解析の準備を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
比較検討を行う細胞株を選択するための多数の細胞株の性状評価と中枢神経系への分化誘導の予備実験の段階で、未分化iPSCの標準的分化誘導条件への誘導効率が大きく変わらなかったにも関わらず、中枢神経系分化誘導後の神経細胞や星状膠細胞への分化効率や分化成熟度には差が見られた。そのためオルガノイド培養の開始までに時間を要した。その後の緊急事態宣言による研究の遅延は想定外であったが、実験再開許可があれば、直ぐにでも未分化細胞の起眠からオルガノイド培養を再開する予定で準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
前述の通り、実験再開許可がおり次第、未分化細胞の起眠からオルガノイド培養を再開する予定で準備を進めている。また、2D法による神経細胞の一部をバックアップのため凍結保存してあるため、2D法による細胞の性状比較を並行して行うことで、遅延している3D法での検証の一部を代替する。当初はHHV感染等の外因による急速退行症の病態促進を念頭に置いていたが、次第にHHV感染のアルツハイマー病様病態への関与に対する疑義もみられてきた。COVID-19による緊急事態宣言下での研究再開がいつから許可されるかも考え合わせ、2D法/3D法によるDYRK1A遺伝子、APP遺伝子発現、ストレスマーカー解析等、内因性の病態の検討を着実に進めながら、その適否を判断する。また、当初の代替計画において呈示した通り、中枢神経系の免疫担当細胞であるミクログリア様細胞との相互作用など、長期培養を必要としない分化系での検証を並行して進める等の戦略についても検討する。
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Causes of Carryover |
2019年度は前半に主に使用するiPS細胞の拡大培養と予備実験を行い、後半に費用の集中するオルガノイド長期培養と中枢神経系細胞のRNA-seq解析等を本研究費から支出する予定であった。予備実験は本研究計画以外の研究計画とも共通しており、当該実験を所属施設の運営費および奨学寄附金等により予備実験の費用を賄ったため、本助成金額からは支出されていない。オルガノイド作成が遅れて高額の費用を要するRNA-seq解析等の費用が執行できなかったが、基金分である本研究費は次年度繰越が可能なため、2020年度早期に実施することとしている。
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