2020 Fiscal Year Research-status Report
Application of a new biomarker LRG to real-world clinical practice of inflammatory bowel disease
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19K08371
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
藤本 穣 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 准教授 (00379190)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | バイオマーカー / 炎症性腸疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
既存の炎症マーカーCRPは、発現誘導にサイトカインIL-6と肝細胞の関与が不可欠であるため、炎症性腸疾患(IBD)等の一部免疫疾患の病勢を反映できない。研究代表者らのシーズであるマーカーLRGは、IBDの活動性評価においてCRPよりも感度に優れ、内視鏡スコアとの相関性が高く、IBD初の血清活動性マーカーとして2018年に製造販売承認を取得した。しかし、IBDの活動性をLRGがどういう機序で反映するのか、CRPの機序と何が異なるのか、医学生理学的には解明されていない。そこで本研究は、病態に関わる炎症性サイトカインの刺激にLRG産生細胞がいかに応答するかを調べてLRGの発現制御機構を解明し、IBD病態とLRGの関係をより明確にすることを目指す。 IBDモデルマウス(DSS腸炎)の大腸を免疫組織化学染色で評価した結果を元に、炎症部位でLRGを産生する細胞として、腸上皮細胞、単球系細胞、好中球について着目し、それぞれの細胞株を用意した。さらに急性期応答を担う肝細胞の細胞株を用意し、LRG産生の機序について細胞株間の比較検討を行った。特に本年度においては、各細胞へのトランスフェクション手法を確立し、siRNAによるノックダウン実験やデュアルルシフェラーゼアッセイによるプロモーター解析によって検証を進めた。この結果、STAT3やNFκBといった炎症病態に極めて重要な転写因子がLRG産生の鍵となっていること、また、細胞の種類によって、主となるLRG産生シグナル伝達経路が異なることが示唆された。その成果の一部について、英文雑誌に公表した(PLoS One. 2020 Nov 19;15(11):e0242076.)。 ヒトIBDを対象とする臨床研究においては、高知大学にて承認された臨床研究プロトコールに従い、IBD患者検体(血清、腸粘膜生検)の集積を前向きに行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
肝細胞系、腸上皮系、単球系、好中球系の各細胞株に対し、転写因子STAT3やNFκBをノックダウンした上で、炎症性サイトカインであるIL-1β、IL-6、TNF-αで刺激を行い、LRGの発現誘導を調べた。STAT3ノックダウンでは、JAK-STAT系を下流に持つIL-6によるLRG遺伝子発現誘導が減少し、NFκBのノックダウンでは、IL-1βやTNF-αによるLRG発現が著明に低下した。ルシフェラーゼアッセイによるLRGプロモーター解析のため、レポータープラスミド(ルシフェラーゼ遺伝子上流にLRGプロモーターを挿入)を各細胞株にトランスフェクトし、炎症性サイトカイン刺激を行うと、多くの細胞株でルシフェラーゼ活性が上昇した。プラスミド内のLRGプロモーター配列のうち、STAT分子の結合が予測される配列2箇所を除去したところIL-6への応答はほぼ消失し、NFκB分子の結合予測配列1箇所を除去するとIL-1βやTNF-αへの応答が失われ、上記3箇所すべてを除去すると炎症性サイトカインによるルシフェラーゼ活性上昇がほぼ失われた。つまりLRGの発現上昇においては、STAT3やNFκBがLRGプロモーターに直接結合して転写調節を行うことが示唆された。また、本研究から、STAT3に強く依存する細胞株と、NFκBに依存する細胞株があることが判明した。さらに、好中球系細胞株では、サイトカイン刺激に対する挙動が他の細胞株と全く異なるとの結果も得られた。 臨床研究では、高知大学および協力施設にてバイオ製剤等で治療開始予定のIBD患者から、内視鏡時の腸粘膜生検サンプルと治療開始前後の血清を収集した。組織検体からはmRNAを抽出したが、研究代表者の研究室移動のため、遺伝子発現解析は次年度に持ち越しとした。この点では計画に若干の遅れがあるが、他は概ね想定範囲内で進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に実施したルシフェラーゼアッセイによるLRGプロモーター解析の結果、肝細胞系細胞株、腸上皮系細胞株、単球系細胞株におけるLRG発現上昇には、STAT3やNFκB といった炎症関連の転写因子が重要であることが明らかになった。一方、好中球系細胞株では上記の細胞株とは違った応答を示していた。そこで2021年度においては、好中球系におけるLRG発現誘導機序について、ルシフェラーゼアッセイによる追加検討を行う。好中球細胞は、分化課程においてLRG発現が誘導されると報告されているため、サイトカイン以外の刺激によるLRG発現についても検討すべきと考える。 臨床研究については、これまでに収集したIBD患者検体の解析を行う。大腸内視鏡実施の折には、炎症部位と非炎症部位の腸粘膜組織を採取している。遺伝子発現解析の際には両者を比較し、LRGの発現レベルのほか、サイトカインや炎症関連分子の違いを明らかにする。治療後に組織検体を採取できたケースでは治療前後で比較を行う。血清サンプルでも、LRGやサイトカインの濃度を測定し、組織検体の解析結果と対比させる。近年、病変部位におけるオンコスタチンM(OSM)の発現が、難治性病態に関与すると報告されている。OSM受容体を持つ細胞では、刺激によりLRGの発現上昇が認められるため、OSMは特に注目して検討したい。なお、研究代表者の岩手医科大学への移動に関連してIBD研究の枠組みを見直し、さらに多くの検体を収集する研究体制構築を目指している。これまでに採取した検体の解析と並行して新たな体制づくりも進める。本研究によってIBDの病変部位におけるサイトカイン環境や免疫細胞の集積状態がLRGに反映されるのかを理解し、IBDのエンドタイプ分類、重症度判定や治療効果予測等にLRGが応用できるか否かを検証し、治療選択肢が大きく広がってきているIBDの診療に役立てたい。
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Causes of Carryover |
炎症性腸疾患の病変部位における網羅的遺伝子発現解析を行う計画で、これまでに炎症部位と非炎症部位の生検検体の収集および各々のmRNA抽出を行った。しかしながら、研究代表者の所属研究室が移転することになり、研究が一時的に中断する状況になったため、遺伝子発現解析は移転後(新年度以降)にまとめて実施する方針とした。このため次年度使用額が発生したが、遺伝子発現解析には相応の費用が必要であるため、新年度にmRNA検体を解析する際に、この費用をあてる必要がある。
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Research Products
(2 results)