2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K08421
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
大井 充 神戸大学, 医学研究科, 助教 (70448174)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
星 奈美子 神戸大学, 医学部附属病院, 講師 (40645214)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 腸内環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸癌は日本女性癌死亡率1位、男性3位と上位を占めており、対策は急務である。日本における大腸癌発症率の上昇は、食の欧米化などの環境因子の関与が疑われ、特に、肉類摂取増加が大腸癌リスクを上昇させる等の疫学的データ等があることから、本課題では、腸内環境におけるアミノ酸量の変化や、アミノ酸トランスポーターの発現変化と腸管腫瘍の発生や病態進行のかかわりを解明し、大腸癌予防法開発につなげる基盤研究を遂行している。本年度は予定通り、食餌に含まれるアミノ酸含有量をコントロールした特殊食を、腫瘍モデルマウスであるApcMin/+マウスに与え、コントロール食AIN93Gと比較して腫瘍の成長に変化が認められるか実験を行った。結果、特定のアミノ酸種の含有量の減量によって、腫瘍成長が抑制されるものと、全く抑制されないものがあることが明らかとなり、非常に重要な知見を得ることができたと考えている。更に、制限するアミノ酸によっては、食餌量の摂取が明らかに変化することから、アミノ酸種によって、摂食行動が制御させる副次的な発見が得られている。腫瘍抑制の機序としては、1)アミノ酸制限による腸管上皮における栄養学的な腫瘍細胞の成長抑制、2)アミノ酸制限による腫瘍細胞内の細胞増殖シグナルの抑制、3)アミノ酸制限による免疫細胞の機能変化による腫瘍抑制などが考えられる。3)については腸管内免疫細胞の分布変化をフローサイトメトリーで確認したが、大きな変化が認められなかったことから機序としては弱いと推測され、1)や2)の可能性を検討する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ApcMin/+マウスを4週齢で離乳し、15週齢まで自由摂食させ、15週齢で、小腸、大腸を摘出し、腫瘍数、腫瘍径を記録し、腫瘍の成長抑制や、腫瘍発生の抑制が可能か解析する計画を基本とし、実験を開始した。コントロールAIN93G食と、各種アミノ酸制限食(特殊食①②③)を準備した。特殊食①では、腫瘍形成はコントロール食と全く同等であったが、特殊食②では、腫瘍数が激減することが観察された。特殊食③については、マウスの摂食行動が極度に抑制されることが判明した。対応として、制限したアミノ酸を腹腔内、または、皮下投与にて補充すると、摂食行動が改善することが分かり、特殊食③については、特殊食の投与期間を短縮し、かつ、注射による補充を行いながら実験をすすめ、食餌摂取量についてコントロール食と同等になるように調整することが可能となった。結果、特殊食③についても、明らかな腫瘍抑制効果は現時点まで観察されていない。血球系の細胞がサイトカイン分泌などを介して、ApcMin/+の腫瘍形成に影響を及ぼす事が知られているため、特殊食②のマウスの腸管組織内の免疫細胞分布を解析したが、コントロール食群と大差を認めなかった。組織内の炎症性サイトカインも検討範囲内で差はなく、観察している形質は、腸管上皮内の細胞増殖シグナルの変化などが関わっている可能性を示唆すると考えている。また、癌腫の上皮細胞で発現が誘導されるとされるアミノ酸トランスポーター L-type amino acid transporter 1 (LAT1)が腸管上皮のみで欠損するコンディショナルノックアウトマウスを作成するための、LAT1folx/floxマウスを入手することができた。現在これを、Villin-Creマウス、更にApcMin/+と交配を進めており、交配状況は順調である
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Strategy for Future Research Activity |
特殊食②における腫瘍抑制効果については、単純な栄養素学的なアミノ酸の不足によるものと考えると、特殊食①で腫瘍抑制効果が全くないことから、機序としての可能性としては低いのではないかと考えている。機序の検討方策としては、細胞内のアミノ酸センサーである、mTOR経路 は、アルギニンやロイシンなどアミノ酸種により活性化機能が異なることが知られているため、この経路の活性化が特殊食①②で異なる可能性を考え、ApcMin/+マウスの腸管腫瘍を回収し、タンパク質を抽出してリン酸化S6Kをウェスタンブロッティングにより確認し、mTOR経路の活性化抑制があるか解析する予定で、大腸癌細胞癌株での確認も予定している。また、アミノ酸トランスポーターは腸管上皮の管腔側に存在するものと(apical side)、基底側に存在するものがあるため(basolateral side)、腸内環境としてのアミノ酸濃度が重要なのか、血中濃度としてのアミノ酸濃度が重要なのかを判別することは重要である。そこで、特殊食③と同様に、特殊食②を与えながら、注射によるアミノ酸の補充で腫瘍抑制効果が消失するか検討を行う(消失する場合は、腸内環境としてのアミノ酸よりも、血中アミノ酸濃度が重要であることを示唆する)。更に、可能であれば、ヒト体内で使用されているアミノ酸が20種類あることを鑑み、特殊食の種類を増やして腫瘍抑制効果が②以外にも存在するか検討したいと考えている。 現在推進中のLAT1folx/floxマウス、Villin-Creマウスの交配では、既にLAT1folx/flox;Villin-Creマウスは複数生まれてきており、胚性致死でないことが確認できている。本年度中には、十分数のLAT1folx/flox;Villin-Cre;ApcMin/+を確保し、解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
情報収集のための旅費が予定より抑えられ、また、使用動物の導入が、購入でなく譲渡にて入手することができたため、予定費用よりコストを抑えることができ、次年度使用額が生じた。解析する動物数を十分確保するため、動物施設使用料として使用する計画である。
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