2021 Fiscal Year Research-status Report
IBSのストレス性増悪因子としての直腸粘膜下血管機能異常
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19K08426
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
三井 烈 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 講師 (90434092)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 微小血管 / 細動脈 / 毛細血管 / 直腸 / 消化管 / NO神経 / プロスタグランジン |
Outline of Annual Research Achievements |
過敏性腸症候群(IBS)は、ストレスにより増悪することが知られている。IBS患者では物理的・心理的ストレス負荷時の直腸粘膜血流の減少反応が、健常者と比べて長引くという直腸血管制御異常も示されている。本課題では、はじめに直腸粘膜下細動脈や直腸毛細血管の制御機構について検討する。これらの知見をもとにして、IBS様の病態を呈するとされるストレスモデルラットにおける、直腸血管制御の変容について検討する予定である。 本年度は、ラット直腸粘膜下細動脈の一酸化窒素(NO)含有神経(以下NO神経と記す)による制御を明らかにした。直腸粘膜下層標本に経壁神経刺激(EFS)を負荷すると、細動脈で交感神経性収縮が生じるが、細動脈に投射するNO神経がこの交感神経性収縮を抑制していることが、薬理学的および免疫組織化学的検討により明らかとなった。NO神経は過度の細動脈収縮を抑え、直腸粘膜血流を維持するのに重要なはたらきをしていると考えられた。 直腸毛細血管に関しては、周皮細胞(ぺリサイト)の細胞内カルシウムイメージングが可能であるNG2-GCaMPマウスを用いた。直腸粘膜の毛細血管ペリサイトでは、周期的で自発的な細胞内Ca2+上昇がみられた。このペリサイトの機能維持にプロスタグランジンの内因性放出が寄与していることも、徐々に明らかとなってきており、今後重点的に検討する。また、毛細血管ペリサイトの自発Ca2+上昇が、直前の細動脈へ伝わる様子も観察された。このことから、直腸毛細血管ペリサイトはペースメーカーとして機能し、毛細血管前細動脈の周期的な自発収縮を惹起することで粘膜虚血を防ぐはたらきを持つと推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
直腸細動脈および毛細血管の制御機構は明らかになりつつあるが、ストレスモデル動物の作製が進んでいないため、「研究はやや遅れている」と自己評価した。具体的な実験方法および実験結果を以下に示す。 【方法】ラット直腸粘膜下層標本を作製し、標本内の細動脈をビデオカメラで撮影した。血管壁追跡ソフトを用いて血管径の変化を経時的に記録した。また、NG2-GCaMPマウス直腸粘膜・粘膜下層標本を作製し、細胞内Ca2+イメージングを行った。 【結果】以下の実験結果より、NO神経が、経壁神経刺激(EFS)により惹起される交感神経性細動脈収縮を抑制していることが、明らかとなった。1)EFS収縮は、神経性NOS(nNOS)特異的阻害剤L-NPAで増強された。2)EFS収縮は、PDE5阻害剤tadalafilでcGMP分解を抑制すると減弱した。3)nNOS免疫陽性神経線維が直腸細動脈周辺にみとめられた。 直腸細動脈におけるNO神経性制御の変容を企図して、ストレスモデルラットの作製を試みた。箱の中に水を浸して真ん中にラットが座れる広さの島を設置し、1日あたり1時間、連続5日間のストレス負荷(行動制限)をかけたが、現時点では排便量などにばらつきが多く、安定した系の確立に至っていない。 NG2-GCaMPマウス直腸粘膜において、毛細血管ペリサイトの、同期的で自発的な細胞内Ca2+上昇が周期的にみられた。プロスタグランジン合成阻害剤(indomethacinやdiclofenac)でペリサイトの細胞内Ca2+レベルが上昇し、周期的な細胞内Ca2+上昇が消失したことから、内因性プロスタグランジン放出がペリサイトの自発活動の維持に重要であるといえる。また、ペリサイトの自発Ca2+上昇が、直前の細動脈へ伝わるため、毛細血管ペリサイトはペースメーカーとして毛細血管前細動脈の周期的な自発収縮を惹起すると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
Water avoidance stressによるストレスモデルラットの作製を試みているが、ストレス負荷ラットとコントロールラットの行動観察時の排便量のばらつきが大きい。ストレス負荷環境で他の実験者も実験を行っているために何らかの問題が生じている可能性も考えられる。今後は、他の実験者がいない静穏な環境でストレス負荷ラットの作製を試みる。そのうえで、今年度に見出したNO神経性の直腸細動脈制御機構に重点をおき、ストレスモデルにおけるその変容について検討する。
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Causes of Carryover |
これまでに直腸細動脈の神経性制御機構についての知見を得てきた。これに加えて直腸毛細血管の周皮細胞(ペリサイト)における自発的細胞内カルシウム上昇が観察されたため、毛細血管が動脈系の自発収縮を指揮するペースメーカーである可能性も示唆される。また、ストレスモデル動物の検討については、いまだ安定したモデルが確立できていない。このことから、次年度は、直腸毛細血管の機能解析および、ストレスモデル動物における直腸細動脈の神経性制御機構の変容についての検討を試みる。
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