2019 Fiscal Year Research-status Report
IL-6阻害による重症肺高血圧症の新規治療法開発に向けた基盤的研究
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19K08506
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
稲垣 薫克 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 上級研究員 (20638366)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石橋 知彦 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 上級研究員 (30722285)
中岡 良和 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (90393214)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 肺動脈性肺高血圧症 / 肺血管リモデリング / 炎症 / Interleukin-6 / ヘルパーT細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、肺血管の異常なリモデリングの進行過程におけるIL-6シグナルが関与する時期および細胞や組織を明らかにし、PAH発症機構の解明を目指すことを目的としている。また、PAHサブタイプ別のIL-6シグナル活性化プロファイルを血清サイトカイン解析により明らかにすることにより、PAH に対する新規治療法の開発に繋げることを目標としている。 重症肺高血圧症モデル(SuHxラットモデル)をIL-6欠損ラットに適用し、SuHxラットモデルで観察される重症肺高血圧症患者にみられるような叢状病変や内膜閉塞病変などの肺血管病変が、IL-6ラットでは観察されず、PAH病態の有意な抑制がみとめられた。また、SuHxモデル作成後5週後における右心室圧は両KOラットではWTラットとの差は見られないが、作成後8週ではIL-6KOラットで有意に低下したことから、IL-6シグナルは、肺高血圧症における肺血管病変の重症化に関与していることが示唆された。 次に、IL-6シグナルが機能する細胞をより詳細なレベルで特定するには、ラット実験系では限界があることから、Cre-loxpシステムによる細胞特異的IL-6シグナル欠損マウスに低酸素誘発性肺高血圧症(HPH)のマウスモデルを適用し検討した。IL-6受容体の一つであるgp130のfloxマウスとVE-Cadherin-CreERT2マウス、SMMHC-CreERT2マウス、およびCD4-Creマウスをそれぞれ掛け合わせ、内皮細胞、平滑筋細胞およびヘルパーT細胞特異的なgp130欠損マウスを作製し、HPHモデルのPAHフェノタイプの比較を行った。その結果、ヘルパーT細胞特異的なgp130欠損マウスにおいて有意なPAH病態抑制効果が確認された。 以上のことから、IL-6はヘルパーT細胞に作用することでPAHの病態形成に関与することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者が所属する国立循環器病センターは、2019年7月に移転したため、動物実験の開始が遅れてしまったが、HPHマウスや重症肺高血圧症モデルであるSuHxラットの作成が継続的にできるような設備が増築された結果、病態モデルのフェノタイプ解析や遺伝子発現の定量のための組織の回収などは問題なく進めることができた。その結果、IL-6シグナルが肺血管の重症病変形成に重要である可能性を見出し、さらにその作用点は免疫細胞である可能性を示した。 また、当センターで開始している、肺高血圧症における炎症性サイトカイン解析の臨床研究(研究開発番号:M30-060-3)では、現在までに、34名の肺高血圧症患者検体、および30名の健常者検体を収集した。今後は更なるサンプルの集積を進め、課題終了までに100例の集積を目指し、PAHサブタイプ別のIL-6シグナル活性化プロファイルを血清サイトカイン解析により明らかにする。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は重症肺高血圧ラットモデルにおけるIL-6シグナルが機能する時期と細胞の解明およびIL-6阻害が心機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。SuHx重症肺高血圧モデルラットにおいて肺高血圧病態形成および右心不全病態形成の時間経過を明らかにするため、野生型ラットおよびIL-6KOラットの右心室にテレメトリー型カテーテルを留置して、肺高血圧モデル作成後の右心室圧の経時変化の比較・検討を行い、IL-6欠損がSuHxモデルのどのフェーズで圧形成に差を生じるのかを明らかにする。その結果を受けて、IL-6阻害が下流の免疫細胞動態に及ぼす影響を、右心室圧上昇に差が生じる時期で、肺、脾臓、末梢血および骨髄の血球細胞を回収し、遺伝子発現解析およびFACSによる解析から明らかにする。 また、IL-6阻害が心臓に及ぼす影響を明らかにするため、SuHxモデルにおける右心機能の経時変化を7T-MRIで経時的に計測することにより右心不全発症のタイミングを明らかにする。また、右心室にのみ負荷を与える肺動脈結紮(PAB)モデルを野生型およびIL-6KOラットに適用し、右心機能の経時変化を7T-MRIで経時的に計測する。 また、肺高血圧症患者に対して、疾患特異的な炎症性サイトカインシグナルの活性化を明らかにするべく、 単施設・前向き・観察研究にて既存情報と研究用に採取する血液試料を用いて検討する。国立循環器病研究センターに来院した肺高血圧患者自身から文書による同意が得られて採取した患者血清を対象とし、これまで集積したPAH患者血清サンプルおよび健常者におけるIL-6濃度測定をELISAおよび網羅的サイトカイン解析により明らかにする。
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Causes of Carryover |
PAH患者血清サンプルにおける炎症性サイトカイン測定キットを購入する予定であったが、2019年度はサンプルの集積のみを行ったため、次年度で購入することとした。 また、ラットの右心室圧を連続測定するためのテレメトリー装置は電池残量のあるもので予備検討を行うことができたため、電池の再生は次年度の実験開始前に行うこととした。
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Research Products
(2 results)