2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of anti- atherosclerotic drugs using deep learning- based image analysis
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19K08549
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
楠本 大 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (70571727)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人工知能 / 深層学習 / 血管老化 / 細胞老化 / 薬剤スクリーニング / 畳み込みニューラルネットワーク / 血管老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
AIは近年急激な進歩を遂げており、特に画像解析の進歩は著しく、人間でも判別困難な画像ですら正しく認識・判定することが可能となった。AIは医学・生物学分野への広い応用も期待されている。従来、様々な病気の治療薬を開発する過程で、有効な薬剤を探索するスクリーニングを行うためには、細胞内の病的状態を反映するような分子マーカーを用いて、病的細胞に薬剤を投与し細胞の状態が改善しているかを判別する必要があった。しかし有効なマーカーが存在しない場合もあり、また有効なマーカーがある場合でも判別に要する手間や費用といったコストが大きく、大規模かつスムーズな薬剤探索への障壁となっていた。病的細胞は、健康細胞と形が異なることが知られているが、顕微鏡写真のみを見て判断することは、熟練した研究者にも困難であり、これまでは細胞の形態の違いを薬剤開発の指標にすることはできなかった。本研究では、AIによる画像解析で健康細胞の形と病的細胞(老化細胞)の形を学習させ、高い精度で二者を判別することで、顕微鏡写真の細胞形態を指標に化合物スクリーニングを行うことを可能とし、分子マーカーを必要としない新規の化合物スクリーニングシステムを開発することを目標とする。特に加齢関連疾患の中でも全ての臓器の老化に関与している血管老化に着目し、培養血管内皮細胞を用いて老化細胞の作成を行った。健康細胞と老化細胞の顕微鏡写真を撮影し、畳み込みニューラルネットワークを用いて学習を行い、健康細胞と老化細胞を正答率95%程度の高精度で判別可能な画像認識システムを開発した。さらに、細胞の老化判定を行う畳み込みニューラルネットワークを用い、入力した細胞画像の老化の確率を出力することで細胞がどの程度老化しているかということを定量的にスコア化するシステムの開発に成功した。実際に化合物スクリーニングを実行し、血管老化を抑制する候補薬の同定を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、まず培養血管内皮細胞に酸化ストレス、カンプトテシン、複製ストレスを用いて細胞老化を誘導し位相差顕微鏡画像の撮影を行った。顕微鏡撮影のみから「健康細胞」と「老化細胞」を分類するために、畳み込みニューラルネットワークを用いて学習を行い、各種パラメーター調整により最終的に正答率95%程度の高精度で判別可能なシステム構築を行った。ただし同システムは老化細胞の分類を行うのみで、そのままでは定量的に細胞老化を評価することができない。我々は、老化細胞の細胞画像を畳み込みニューラルネットワークに入力し、老化確率を出力することで細胞老化の程度と非常によく相関するを定量的「老化スコア」を算出可能であるということを発見し、顕微鏡画像の細胞形態から定量的老化スコアを算出するシステム「Deep-SeSMo」の開発に成功した。本システムを用いることで、老化状態を反映する分子マーカーを用いることなく、撮影した顕微鏡画像から細胞がどの程度老化しているかをわずか0.1ミリ秒で判定可能となった。実際に細胞老化抑制作用を有する化合物(メトホルミンなど)による抗老化の効果も正しく判定できることが確認された。本システムを用いて実際に化合物ライブラリーを用いてスクリーニングを行い、4つの化合物を新規の血管老化抑制の薬剤候補として抽出した。これらの化合物は、実際に培養血管内皮細胞の細胞老化を抑制することがSA-ベータガラクトシダーゼ染色や、P21-P53、P16タンパクのウェスタンブロッティングにより確認された。さらにRNAシーケンスによる網羅的解析では、老化細胞から惹起される炎症反応が抑制されることが判明し、細胞老化により引き起こされる炎症表現系(SASP)も抑制できる可能性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
心血管疾患は日本においては癌に次ぐ代表的な死因となっており、年間150万人以上もの方が亡くなっている。心血管疾患の発症には様々な因子が関与しているが、近年細胞レベルでの老化が臓器レベルでの老化につながり、心血管疾患発症に大きく関わっていることが報告されている。特に血管内皮細胞の老化により、心不全、動脈硬化など、様々な心血管疾患発症につながることが知られている。そこで、本研究で同定された4つの抗老化候補化合物について今後さらに研究を進めることにより、血管老化を抑制する新規治療薬開発につなげたいと考えている。心不全動物モデルや、動脈硬化動物モデルに本研究で同定された新規化合物の投与を行うことで、実際に疾患発症を抑制する効果があるかどうか、検討を進めていく。また血管老化をどのように抑制できるのか、分子生物学的な詳細な機序を検討するために、培養血管内皮細胞を用いてRNAシーケンス、プロテインアレイなどの網羅的解析を行う。また本研究で構築したDeep-SeSMoを用いて、さらに大規模な化合物スクリーニングを実施する。すでに他分野にて安全性が確認されている既存の化合物ライブラリーを用いたドラッグリポジショニン、また今まで知られていなかった新規の生理活性物資を用いたスクリーニングなどを展開していきたい。本研究は、疾患の化合物スクリーニングに対する手法としてAIによる画像解析が有用であることを実証したものであり、細胞形態の変化を特徴とする様々な疾患に対して本システムを応用した創薬スクリーニングが今後開発可能であることを示されており、今後多方面にわたる治療薬開発が活性化させることが期待される。
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Causes of Carryover |
本研究では、今まで深層学習での解析をメインで行っていたため、使用経費に関しては抑えて使用することが可能であった。次年度では、本研究で同定された新規化合物の効果検証をより強力に行っていくことから、分子生物学的実験における諸経費に使用する予定である。 具体的には、動物管理費、遺伝子改変動物購入費など動物実験の維持管理に必要な資金、化合物の効果を研究するための化合物購入費、動物レベルでの化合物効果検証を行うための抗体、細胞培養のための培地、各種実験のための試薬・機器、網羅的解析のための外注費、などに使用する予定である。また学会参加などを通じた成果発表を行うために、学会参加費なども必要となる。
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