2020 Fiscal Year Research-status Report
慢性好中球性気道炎症のエンドタイプ解明に向けた基盤研究
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19K08621
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
増子 裕典 筑波大学, 医学医療系, 講師 (50758943)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 好中球性気道炎症 / 原発性線毛機能不全症 / 遺伝的リスクスコア / 喘息フェノタイプ |
Outline of Annual Research Achievements |
喘息は遺伝的要因と環境的要因が相互に影響して病態を形成する多因子疾患であり、均一な病態からなる単一の疾患ではなく多様な分子病態から構成される症候群と考えられている。好酸球性気道炎症を主とした患者群がいる一方で、好中球性気道炎症が病態の中心を占める喘息フェノタイプも存在する。本研究は、慢性の好中球性気道炎症を呈し、ときに非好酸球性喘息やCOPDとの鑑別が困難な臨床症状を呈する遺伝性疾患に着目することで、喘息やCOPDの分子病態の多様性を理解し、特に好中球性炎症をドライブする新たなエンドタイプの発見を試みることが目的である。慢性の好中球性気道炎症を特徴とする原発性線毛機能不全症(PCD)に着目し、発症と関連することが既に知られている遺伝子に対してこれらの遺伝子群と喘息の発症や病態の多様性について探索を行った。 既報の論文からPCD関連遺伝子を選定した(Paediatr Respir Rev. 2016 Mar;18:18-24)。さらにClinVarデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/clinvar/)を用いてアミノ酸変異を生じさせる遺伝子多型を抽出した。29個のSNPについて当研究室のGWASデータから遺伝子型を抽出し、不足分のSNPについてはimputationの手法を用いて遺伝子型を推定した。imputation精度の低かったものやSNP間で強い連鎖不平衡にあったものを除外して、最終的に計12SNP(計5遺伝子)について、筑波コホート1(健常者565名、喘息537名)と筑波コホート2(健常者965名、喘息242名)を対象に、喘息との関連解析を行った。続いてこれら12個のSNPを用いてGenetic Risk Score(GRS)を算出した。喘息患者の発症年齢、対標準1秒量(pFEV1)、算出したGRSを用いたクラスター解析を施行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
12個のアミノ酸変異を伴うPCD関連遺伝子についてHuman610-Quad DNA Analysis BeadChipとInfinium Asian Screening Assayの遺伝子タイピングデータより遺伝子型を抽出/推定し喘息との関連解析を行った結果、いずれのSNPも喘息との有意な関連は認めなかった。さらにこれら12個のSNPを用いてGenetic Risk Score(GRS)を算出したところ、このGRSと喘息全体との関連も見られなかった。喘息やCOPDのように単一遺伝子の影響は小さいものの複数の遺伝子が相互に作用しながら疾患発症や病態に関与している疾患では、複数遺伝因子の影響をリスクスコアとして一つの数値として表現することで、より正確に遺伝要因の疾患に与える影響を検討することが可能となる。そこで患者の発症年齢、pFEV1、GRSを用いてクラスター解析(Two-Step法)を行った結果、4つのクラスターが同定された。 最もGRS値の高いクラスターAと最もGRS値の低いクラスターDは、いずれも中高年発症であり比較的呼吸機能が保たれているという点で類似していた。Replicationコホートとして用いた3つ目の集団(北海道コホート)でも、同様にGRSの高い群と低い群を含む4群にクラスター化された。クラスターAとクラスターD間で最も影響に差がある遺伝子はいずれもDNAH5遺伝子に存在するSNPであることが明らかとなった。さらにこれらのSNPはいずれも肺でのDNAH5の発現に影響を与えるeQTLであった。 これらの結果から、典型的な臨床像をもたらすほどの線毛機能低下を伴わないが、わずかな機能異常をもたらすような遺伝子多型が、他の遺伝因子や環境因子との相互作用によって喘息フェノタイプ(特に非好酸球性喘息フェノタイプ)や難治性病態に影響を与えている可能性が示唆される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の結果、PCD関連遺伝子によるGRSを算出しクラスター解析を行うことで初めて見えてくる喘息フェノタイプの存在が明らかになった。GRS高値群と低値群の2群で最も影響を与えているのはDNAH5の機能的遺伝子多型(eQTL)であったことから、なんらかの線毛機能異常が一部の喘息フェノタイプに影響を与えている可能性が示唆された。これは従来のケースコントロールスタディのデザインからは到達しえない研究手法と考えられる。EmiraliogluらはDNAH5遺伝子多型がPCD患者のうち最も高頻度で認められると報告しており、PCD患者全体の15-24%で保有するとしている(Emiralioglu N,Pediatr Pulmonol. 2020 Feb;55(2):383-393.)。Knowlesらは、PCD関連遺伝子のひとつであるRSPH1遺伝子多型は、典型的なPCDと比較して痰の症状の発現が遅く、FEV1が保たれるという報告をしている(Knowles MR,Am J Respir Crit Care Med. 2014 Mar 15;189(6):707-17.)。一般にDNAH5は線毛のなかのアウターダイニン腕に関与すると言われている。しかし、現時点で、本研究の結果がどのような機序によって起こるのかの考察がまだ不十分である。DNAH5の機能をより明確化させて論文報告を目指すことが今後の方策となる。
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