2020 Fiscal Year Research-status Report
創薬のための統合オミックス解析による難治性ネフローゼの病因・病態探索
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19K08686
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
楊 國昌 杏林大学, 医学部, 教授 (70255389)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
清水 章 日本医科大学, 大学院医学研究科, 大学院教授 (00256942)
田中 絵里子 杏林大学, 医学部, 助教 (80439827)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ネフローゼ / 創薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
糸球体ポドサイトに発現する細胞膜貫通蛋白Crb2の細胞外ドメインを介するout-side in signalingを障害の端緒とする、新規のネフローゼマウスモデルを樹立した。マウスにリコンビナントCrb2を導入し、産生された抗Crb2抗体をCrb2自身に結合させた結果、ポドサイト障害によるネフローゼを惹起させたことを臨床病理学的に証明した。この障害のパスウェイの最下流は、ポドサイトのアクチン偏倚であり、これにより、大量の血漿蛋白が尿中に漏出したことが証明された。蛋白尿発症後の32週までの臨床病理像の総括は、以下である。軽度蛋白尿群は血尿を伴うことはなく、最終組織像は全て微小変化型であった。中等度以上の蛋白尿群は必ず血尿を併発し、最終組織像は全て巣状糸球体硬化型であった。以上のことから、本モデルでは、ヒトの特発性ネフローゼの2病型である微小変化型と巣状糸球体硬化型をそれぞれ作出でき、その鑑別のバイオマーカーは、蛋白尿の程度と血尿の併発の有無であることが示された。さらに、単離糸球体を材料としたプロテオーム解析において、コントロールマウスに比してネフローゼマウスで有意に高発現した分子の半数は、ミトコンドリア関連分子であった。この結果から、従来のネフローゼマウスモデルであるadriamycin腎症では同様の所見はみられなかったこと、ミトコンドリア遺伝子異常では巣状糸球体硬化型の病理像を示すことから、ヒトの糸球体硬化症の病態の主座は、ミトコンドリア障害であることを示唆した。一方、メタボローム解析については、測定自体の技術的課題が解決されず、信頼できる結果は得られなかった。Crb2-signalingがヒトの特発性ネフローゼの病態に関与する仮説をもとに、Crb2細胞外ドメインに結合する生理的液性分子を探索した。その結果、後述するようにケモカイン(X)が同定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画は、Crb2細胞外ドメインに結合する生理的液性分子を探索することであった。当初、該当分子の探索は、Crb2発現マウスポドサイト細胞株に、ヒトネフローゼ患者血清を反応させた後、Crb2を介した免疫沈降産物を質量解析で同定することを立案した。しかし、予備実験で、本手法では血清中の非特異的蛋白分子の混入が極めて多く、比較解析に適さないことが判明した。従来から、特発性ネフローゼにおける病因は、リンパ球から分泌される液性分子が推定されている。そこで、マウスCrb2の結合物のスクリーニングとして、胸腺ライブラリーを対象とした酵母ツーハイブリッド法を行った。その結果、有意なコロニー数としてCCケモカイン(X)が同定された。このケモカインをクローニング後、発現ベクターを構築し、Crb2発現HEK-293細胞にCrb2と共発現させた結果、Crb2とこのCCケモカイン(X)の蛋白結合が証明された。シアル酸転移酵素欠損細胞にCrb2を発現させた実験の結果を含め、このCrb2へのケモカインの結合は、Crb2上のシアル酸を介することが判明した。CCケモカイン(X)のリコンビナント蛋白は、マウス導入実験に必須であることから、CCケモカイン(X)-His-tagコンストラクトを作成し、HEK-293細胞を宿主とした細胞株を樹立した。本細胞株の培養上清にこのケモカインが分泌されることは証明された。しかし、この上清を用いてHis-tagカラムで精製を試みたが、収量は少なく、今後の大量使用には応用できないことが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
1.リコンビナントのCCケモカイン(X)を大量に作成する系を樹立すること、2. CCケモカイン(X)がネフローゼの惹起液性因子であることを、マウスを用いて実証する。すでに作成しているマウスCCケモカイン(X)のコンストラクトを用いて、pBAD Expression Systemを用いた大腸菌において大量合成し、精製する。これをC3H/NeNマウスに腹腔内あるいは静注投与し、尿を経時的に観察する。ネフローゼ発症時の腎を摘出し、病理学的解析を行う。樹立済みのCrb2発現HEK-293細胞株とCrb2発現株に、リコンビナントCCケモカイン(X)を量および時間依存性に添加し、アクチン関連signaling系の活性化について解析する。現在解析中のパスウェイは、Crb2の下流の一つとされているezrin活性化である。これに加え、すでに我々の先行研究で得ているcofilin活性化系をまじえて、本モデルでのアクチン偏倚のパスウェイを探索する。
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