2019 Fiscal Year Research-status Report
腎虚血再灌流障害後に食塩感受性高血圧が発症する機序の解明
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19K08704
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
土井 盛博 広島大学, 病院(医), 助教 (80626127)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
正木 崇生 広島大学, 病院(医), 教授 (30397913)
中島 歩 広島大学, 医系科学研究科(医), 共同研究講座教授 (40448262)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 食塩感受性高血圧 / 急性腎障害 / 虚血再灌流 / 食塩 / アルドステロン / ミネラルコルチコイドレセプター |
Outline of Annual Research Achievements |
1999年度は、主に動物実験を行い下記のような結果を得た。 1)ラットに急性腎障害のモデル動物である虚血再灌流障害(IRIラット)を誘導し、1周間後にミネラルコルチコイドレセプター(MR)の発現が亢進していることを確認した。2)IRIラットに食塩を負荷したところ、高血圧を発症し、腎の線維化や炎症細胞浸潤も増悪していた。3)IRIラットにアルドステロンを投与したところ、食塩負荷した場合と同様、血圧の上昇、腎線維化や炎症細胞浸潤を認めた。通常では、高血圧の発症に、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の亢進と食塩負荷の両者の刺激が必要であるが、IRIラットでは、これらどちらかの刺激で高血圧が発症することが明らかになった。次に、IRIラットの血圧上昇に、MRが関与しているかどうかについて選択的MRブロッカー(エサキセレノン)を用いた検討を行い、以下のような結果をえた。4)食塩を負荷したIRIラットに、エサキセレノンを投与すると、血圧の上昇、腎線維化、炎症細胞浸潤が抑制された。5)アルドステロンを投与したIRIラットに、エキサセレノンを投与すると、血圧の上昇、腎線維化、炎症細胞浸潤が抑制された。 以上の結果から、IRI後の食塩感受性高血圧の発症に、MRが強く関与することが示された。さらに、MRを介したナトリウムの再吸収に、ナトリウム-クロライド共輸送体(NCC)と上皮ナトリウムチャネル(ENaC)が関与することが知られている。4)と5)のモデルにおいて、NCCとENaCの発現を検討したところ、ENaCの発現は変化しなかったが、NCCの活性は制御されており、MRを介したNCCの発現が重要であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
急性腎障害モデルである虚血再灌流障害ラット(IRIラット)に、食塩負荷、あるいは、アルドステロンの投与を行うと高血圧が発症することを確認できた。このため、新規の食塩感受性高血圧モデルの作製に成功したといえる。IRIラットで、食塩感受性が亢進する機序として、当初は、上皮ナトリウムチャネル(ENaC)の関与がメインであることが想定された。しかし、実際には、ENaCの発現はIRIラットにおいて上昇していなかったが、ミネラルコルチコイドレセプター(MR)の発現上昇を認め、研究ターゲットをMRに変更した。虚血再灌流後の食塩感受性高血圧にMRが強く関与することを証明するため、IRIラットに、MRの選択的阻害薬であるエサキセレノンを投与する実験を行った。この結果、IRIラットに食塩負荷を行うモデルと、アルドステロン投与を行う両方のモデルで血圧の上昇や、腎線維化、炎症細胞浸潤が有意に抑制された。さらに、この機序として、MRを介するENaCというよりも、ナトリウム-クロライド共輸送体(NCC)が関与することが示めされた。上記のように、現時点で、虚血再灌流後の食塩感受性高血圧のモデル動物の作製や、その機序といてMRの関与を同定できた点で現在の進捗状況は、概ね計画通りであると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、虚血再灌流障害ラット(IRIラット)に、食塩負荷をするモデルとアルドステロンを投与するモデルにおいて、ミネラルコルチコイドレセプター(MR)からNCCに至る経路(WNK1、WNK4などの発現)について確認する。さらに、上皮ナトリウムチャネル(ENaC)よりも、慢性期にはナトリウム-クロライド共輸送体(NCC)の重要性を示すため、上記モデルにNCCの阻害薬を用いた検討を行う。これと並行し、腎臓の細胞を用いて、どの刺激でMRが上昇するかを同定する。この後、MRを発現亢進させる刺激において、PCRアレイを施行し、MRの発現を制御するヒストンメチル化のスクリーニングを行う。その後、ヒストン修飾についても検討し、ヒストンメチル化酵素阻害薬を用いてMRの発現にヒストン修飾が真に関与するかどうかを検討する。この後、同定されたヒストンメチル化酵素阻害薬を、上記動物モデルに投与して、腎組織のMRの発現、ヒストン修飾に加え、血圧、腎線維化、炎症細胞浸潤に対する効果を検討する。最後に、腎生検組織を用いて、MRの発現と血圧、腎線維化、炎症細胞浸潤との相関を検討し、細胞実験、動物実験の成果が、実際の臨床患者から得られた所見と一致するかを検討する。
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