2020 Fiscal Year Research-status Report
HMGA2によるがん特異的クロマチン・転写因子ネットワーク機構の解明
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19K08842
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
横溝 貴子 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 特定事業研究員 (40636867)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白 潔 熊本大学, 国際先端医学研究機構, リサーチ・スペシャリスト (60775336)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Hmga2 / MDS / 造血幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
Hmga2は休止期のない胎児造血幹細胞で強発現しており、胎児幹細胞の高い自己複製機能に必須の因子であるが、正常幹細胞における標的領域・遺伝子を含めたクロマチン制御機構は明らかではなく、さらに、MDS/MPN幹細胞におけるHMGA2によるクロマチン制御・がん遺伝子群の発現ネットワークの仕組みは不明であった。こうした研究状況にて、本研究では、HMGA2によるがん特異的クロマチン・転写因子ネットワークの確立によるがん幹細胞の発生と病態進展の分子メカニズムを解明する。これまでに、Hmga2がMDS/MPN病態進展に果たす役割を明らかにするために、Tet2欠損幹細胞にHmga2を発現誘導したHmga2発現Tet2欠損マウスの解析を進めてきた。このマウスでは分化障害と血球異形成を伴うMDSを発症し、Hmga2発現Tet2欠損造血幹前駆細胞において、強力ながん遺伝子Mycの標的遺伝子群が有意に発現亢進していることを遺伝子発現解析により明らかとした。また、Hmga2のChIPシーケンスにより、Tet2存在/非存在下ではHmga2の結合領域が大きく変化しており、Tet2欠損下では自己複製能の亢進及び骨髄球形細胞への分化が阻害されるようにリモデリングが起こっていることが示唆された。次に、正常造血幹細胞におけるHmga2KI細胞の機能を解析したところ、競合的骨髄移植実験において野生型と比較し3回の連続移植においても高い自己複製能を維持することを認めた他、5-FU投与によるストレス状況下でもより高い自己複製能を維持することを示した。Hmga2は成体の造血幹細胞において、外的ストレスや遺伝子変異による内的ストレスという様々な局面で新たな転写制御ネットワークを確立し、造血の維持と再生、そして病態発症へと寄与することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者らは、これまでにHmga2をMDS/MPN病態進展の責任遺伝子として見出したが、がん幹細胞の発生過程における機能は明らかではなかった。しかし、本研究のTet2欠損幹細胞にHmga2を発現誘導したMDSモデルマウスを用いた解析により、Hmga2発現Tet2欠損幹細胞において、強力ながん遺伝子Mycの標的遺伝子群の有意な発現亢進を認めた他、Hmga2の結合領域がTet2の存在/非存在下において異なるようリモデリングされていることを明らかにした。また、Hmga2は正常造血幹細胞においてもストレス状況下でより高い自己複製能を維持できるよう、転写ネットワークを変化させていることが示唆された。このように、Hmga2を介した転写制御ネットワークの確立様式を解明することは、造血幹細胞がいかにして幹細胞機能を消失していくのか、また、白血病幹細胞へと形質転換するのかを明らかにできるものと期待され、意義深いものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はHmga2による正常造血幹細胞の制御機構の解明を目指し、幹細胞特異的にHmga2発現誘導ができるHmga2 KI;eR1-Creマウス、及びHmga2 cKOマウスの解析を行う。Hmga2 KI;eR1-Creマウスでは、全ての細胞系統において、コントロールに比較して有意なキメリズムの増加をきたしており、造血幹細胞の自己複製能の亢進が証明されている。ただし、このマウスでは長期観察においても造血器腫瘍の発症を認めず、また、Hmga2 KIマウスの造血幹細胞の遺伝子発現解析結果でも、Hmga1やIgf2bp2などの既知のHmga2標的遺伝子の発現変化の他には、コントロールに比べて大きな変化を認めなかった。これはHmga2 cKOマウスの解析でも同様であり、Hmga2は成体の造血幹細胞においてはその機能が制限されている可能性が示唆された。ただし、競合的連続移植や抗がん剤5-FUの投与などのストレス下においてはHmga2 KIマウスの造血幹細胞の有意な自己複製能の亢進が認められ、ストレス存在下で果たすHmga2の重要性が示唆された。今後はストレス存在下/非存在下でのHmga2のChIPシーケンス及びATAC シーケンスを行い、Hmga2の制御領域の変化を同定するとともに、CRISPR/Cas9ゲノム編集によりHmga2結合領域を欠損させた幹細胞機能の検証を行い、ストレス応答時のクロマチン領域特異的なHMGA2による造血幹細胞の機能制御機構を詳細に解明する。最後に、上述の研究で同定した幹細胞特異的なHmga2結合領域によるがん幹細胞機能およびMDS/MPN発症を検証する。ゲノム編集によって結合領域を削除するほかに、Hmga2と協調するエピゲノム制御因子に対する低分子化合物にて機能を阻害することで、MDS/MPN発症をレシピエントマウスへの連続移植実験によって評価する。
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