2019 Fiscal Year Research-status Report
Roles of angiocrine system in the process of engraftment after hematopoietic stem cell transplantation
Project/Area Number |
19K08858
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 聡 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (60226834)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
服部 浩一 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任先任准教授 (10360116)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 血管内皮細胞 / 造血幹細胞増幅 / アンジオクライン因子 / 造血幹細胞生着 / 造血幹細胞移植 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、生体内外の実験系で、造血幹細胞移植における血管内皮細胞のアンジオクライン発現、産生状況、そしてアンジオクラインシグナルを通じた、他系統細胞との相互作用を精査し、造血幹細胞移植前後の骨髄組織特異的血管内皮によるアンジオクライン因子発現・産生、アンジオクラインシステムによる造血幹細胞の生着制御機構の解明を主な目的としている。今年度までの研究で、研究代表者らは、内皮由来のアンジオクライン因子である組織型プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)、CXCL12が、造血幹細胞の細胞周期、動態を制御していること、またtPAの受容体の一つであるlow density lipoprotein related protein-1(LRP-1)が、骨髄中の造血幹細胞分画の細胞群に発現していること、またtPA/LRP-1のシグナル伝達が、LRP-1陽性細胞株の増殖を促進することを明らかにした。これらの実験結果は、骨髄の臓器特異的血管内皮が、アンジオクライン分子の産生を介し、造血幹細胞動態を制御しているとの仮説と合致するものである。 一方代表者らは、アンジオクライン因子epidermal growth factor like-domain 7(Egfl7)が、胸腺及び骨髄血管内皮から分泌され、Tリンパ球系細胞の分化、増殖を制御していること、そして接着分子、インテグリンβ3を受容体とした、転写因子Kruppel-like factor2の活性化を通じて、造血系細胞、またその腫瘍細胞株の増殖にも関与していることを見出した。一部の腫瘍細胞には、オートクラインのEgfl7/インテグリンβ3シグナルによる細胞増殖機構が存在することも判明した。以上の研究成果は、いずれもアンジオクラインシステムによる造血幹細胞移植後の生着制御機構の解明とこれを基礎とした、治療法の開発基盤形成に寄与するものと考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況として、研究代表者らは、今年度中、本研究計画全体の基礎となる造血幹細胞動態に関与する、組織型プラスミノーゲンアクチベータやepidermal growth factor like-domain 7をはじめとする数種のアンジオクライン因子が骨髄、胸腺と言った造血器官の血管内皮から産生されていることを確認し、またこれらの受容体、low density lipoprotein related protein-1やインテグリンβ3等が、造血幹細胞を含む造血系細胞に発現しており、これらの受容体の下流に存在するシグナル伝達経路、転写因子Kruppel-like factor2やチロシンキナーゼErk-1/Erk-2、マトリックスメタロプロテアーゼ群の活性化までを明らかにすることが出来た。またこれらのアンジオクライン因子と各種サイトカイン、造血因子とのクロストーク、血管内皮をはじめとする各種系統細胞間の相互作用等によって構成される、臓器特異的血管内皮によって築かれる生体恒常性の維持機構である、アンジオクラインシステムの存在を確認し、造血幹細胞移植後の生着、そして分化過程に関与する造血幹細胞、造血系細胞動態の制御機構の一端を解明し、学会、そして論文での報告を行うことが出来たことは、研究計画全体において大きな収穫であったと言える。また、代表者らは、今年度までに、既に生着をトレース出来る造血幹細胞移植モデルと解析環境を確立しており、加えて倫理委員会の監督下に造血幹細胞、臍帯血移植前後の患者検体の集積を始めている。 本研究の今年度までの進捗状況としては、おおよそ当初の計画通りに進んでいるものと捉えている。また、今年度までに得られた動物モデルでの実験結果は、いずれも当初の仮説に概ね沿った内容であり、来年度以降の研究計画の遂行上に、明確な修正点は特に見当たらないものと判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度までの研究を通じて確立した造血幹細胞移植、臍帯血移植モデルを利用し、フローサイトメーターで造血幹細胞分画をソーティングしたgreen fluorescent protein(GFP)遺伝子改変マウスから、同系野生型に移植を行う。加えて、GFPマウス骨髄細胞中の血管内皮系細胞表面マーカー陽性の細胞及び骨髄以外の組織由来の血管内皮系細胞の共移植群、対照群も作製する。その後、経時的に各群マウスの末梢血、造血器細胞数及び構成を解析し、臓器組織も採取する。血漿あるいは血清は凍結保存し、血中のアンジオクライン因子濃度、活性を測定する。分離した血管内皮系細胞については、包括的遺伝子発現解析を通じ、移植片生着に伴う血管内皮系細胞の性状変化を精査する。また、生理学的ストレスの存在、非存在下での造血系細胞との共培養実験を通じて、内皮の造血系細胞増殖上の有用性を確認する。さらに採取臓器組織の病理切片についてアンジオクライン因子の免疫特殊染色、in situ hybridizationを施行する。 臨床検体については、骨髄、末梢血の該当検体について細胞数、また細胞構成解析を続けると共に患者血漿、血清については、凍結保存し、アンジオクライン因子濃度、活性を測定する。また、血管内皮系細胞について、包括的遺伝子発現解析を施行し、生着過程における血管内皮系細胞の性状変化を精査する。 これらの実験を通じて、移植片中の血管内皮系細胞の陽性率、血中、組織中のアンジオクライン因子動態と生着期間との関連性を考察し、最終的にこれらの実験結果から、通常の造血幹細胞移植と比較した骨髄組織特異的血管内皮系細胞共移植の有用性について評価検討する。なお学内外で、昨年度末からのコロナウィルス感染症への対応が続いており、今年度も研究期間が制限される可能性が高い。状況に応じて生体外の実験系を優先する等、臨機応変に対処する。
|
Causes of Carryover |
3月に納品予定の物品が新型コロナウイルスの影響で輸入できなくなり、年度内の予算執行が不可能になったため、 次年度に購入することとした。
|