2019 Fiscal Year Research-status Report
安定同位体標識アミノ酸を用いた質量分析計による薬剤耐性菌検出法の確立
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19K08927
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Research Institution | Kameda University of Health Sciences |
Principal Investigator |
渡 智久 亀田医療大学, 総合研究所, 客員研究員 (50824736)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | MALDI-TOF MS / SILAC / 薬剤耐性菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年提唱されている安定同位体標識法を前処理に利用するSILAC法は、抗菌薬原末の使用による煩雑な操作や薬剤耐性の判定が目視であることに課題がみられ、臨床現場での実用化に至っていない。本研究では、①SILAC法に薬剤ディスクを使用して簡便化を図ること、②SILAC法で処理した臨床由来の薬剤耐性株のマススペクトルをリファレンスライブラリーに登録することの2つによって、薬剤耐性菌の検出の自動判定を可能にすることを目的としている。 本年度は、ピーク変化の探求研究に加え、2020年度に実施予定のリファレンスライブラリーの判定能の評価と改善も実施した。①Normal(通常のアミノ酸含有培地)、②Heavy(安定同位体含有培地)、③Heavy(安定同位体含有培地)+薬剤ディスクの3種類の培養液を作成し、標準菌株のメチシリン感性株Staphylococcus aureus ATCC 29213(MSSA)とメチシリン耐性株S. aureus ATCC BAA-44(MRSA)のマススペクトルパターンを取得した。③において、MSSA株とMRSA株のマススペクトルパターンを比較すると、目視にて判定可能なマススペクトルパターンの相違を確認することができた。そこで、自動判定を実施するため、MSSA株とMRSA株を複数回測定し、それらのマススペクトルデータをリファレンスライブラリーに登録した。その結果、MSSA株とMRSA株を正しく識別することができた。しかし、臨床分離株の測定では、MSSA株を高率に識別できるが、MRSA株の判定能が低確率であった。そのため、臨床分離株を使用して、菌液接種のタイミング、培養時間、抗菌薬濃度などのプロトコールの見直しを実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、MRSA以外にESBL産生菌やカルバペネマーゼ産生菌のプロトコールの開発も終了し、2020年度の評価と改善に備える予定であった。しかし、MRSAにおいて臨床分離株のMRSAの自動判定が想定よりも低確率であったため、臨床分離株にも適応するプロトコールの開発が優先課題となった。そのため、研究計画ではESBL産生菌とカルバペネマーゼ産生菌のプロトコール開発と検証も、MRSAと同時に進めていく予定であったが、これらの耐性菌については着手できていないためにやや遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、引き続き、MRSAの臨床分離株の多様性にも適応できるプロトコールの開発と評価を行い、90%以上の判定能を目指していく。MRSAはMSSAよりも培養液中の抗菌薬の影響が少ないために代謝が阻害されない。そのため、MRSAは培養液中の安定同位体標識アミノ酸の取り込みが容易であり、その結果、MALDI-TOF MSの測定でピークシフトが顕著に現れる。一方、MSSAは抗菌薬の影響を受けるために安定同位体標識アミノ酸の取り込みがほとんど起こらないと推定していた。しかし、マススペクトルパターンを確認するとMSSAでも安定同位体標識アミノ酸の取り込みが一定量は発生しており、それがMRSAの判定を困難にしていると考えた。今後は、抗菌薬と接触させるタイミングと接触時間を変化させることによって、MSSAの安定同位体標識アミノ酸の取り込みが最小となる条件を探索する予定である。評価は、臨床分離株を使用し、CliniProToolsの統計学評価を用いる。MRSAの判別能を向上させた後に、MRSA検出用のプロトコールを基本として、基質拡張型βラクタマーゼ産生菌、およびカルバペネマーゼ産生菌のプロトコールを作成し、リファレンスライブラリーの判定能の評価へと進めていき、2021年度の研究予定に繋げていく。また、耐性菌の表現型と遺伝子型の確認は、随時、実施していく予定である。
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Causes of Carryover |
2019年10月1日に所属施設が変更となり、研究を継続するための実験器具、遠心機、パソコン、パソコン周辺機器の購入費用が発生した。しかし、サーマルサイクラーの購入額630千円、MALDIBiotyperの施設利用料100千円を削減することができた。結果的に113千円が次年度使用額として生じてしまった。 次年度使用額は、20種類のアミノ酸試薬、安定同位体標識リシン、薬剤ディスクなどの購入にあてる予定である。
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