2020 Fiscal Year Research-status Report
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)病原性発現機構の分子ウイルス学的解剖
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19K08941
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Research Institution | Nagahama Institute of Bio-Science and Technology |
Principal Investigator |
伊藤 正恵 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 教授 (10201328)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | SSPEウイルス / 麻疹ウイルス / 持続感染 / 神経病原性 |
Outline of Annual Research Achievements |
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の病原性発現機構の全容を分子レベルで明らかにするため、麻疹ウイルスからSSPEウイルスへの変異途上にあるウイルスを捉えることを目的に、SSPEウイルスKobe-1株に見出される個々のアミノ酸変異について解析を行っている。本年度は、(1)昨年度同定したウイルス蛋白質機能を下げてSH-SY5Y神経細胞でのウイルス増殖を制限するアミノ酸変異、逆にウイルス蛋白質機能を上げて神経細胞でのウイルス増殖を促進する変異について、ハムスターにおける神経病原性への影響を感染実験で検討した。その結果、F蛋白質の融合活性を下げる変異が神経病原性を抑制し、上げる変異が神経病原性を亢進させることが明らかとなった。(2)融合活性を下げる変異を持つF蛋白質に上げる変異を追加導入していくと、その数が増えるに従い融合活性が上昇し、次第にKobe-1株のF蛋白質の融合活性へと接近した。同様に、RNA合成活性を下げる変異を持つL蛋白質に上げる変異を追加導入していくと、そのRNA合成活性が次第にKobe-1株のL蛋白質の持つ活性へと上昇した。(3)Kobe-1株の親株に近いと考えられる麻疹ウイルスIch-B株はSH-SY5Y神経細胞で増殖できないが、Kobe-1株は増殖できる。Kobe-1株をSH-SY5Y神経細胞で長期間継代すると、さらに細胞融合能が上昇した馴化ウイルスが得られた。 以上の結果は、Kobe-1株が変異を重ねるに伴い細胞融合活性を上昇させ、神経細胞での増殖性と神経病原性を増強させてきたこと、それがさらに進展することを示唆しており、SSPEウイルスが変異と共に成熟する可能性を示すものと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、SSPE Kobe-1株が持つ49のアミノ酸変異には蛋白質機能を上げる変異だけでなく下げる変異があり、ウイルス蛋白質機能を上げるアミノ酸変異が神経細胞でのウイルス増殖を促進し、逆に下げるアミノ酸変異が神経細胞でのウイルス増殖を抑制することを見出した。SSPEの進展過程において、一度上昇した神経細胞での増殖能が抑制されることは考えにくく、発症までの長い期間にまず増殖を抑制して潜伏感染し、その後の変異によりウイルス増殖を活性化して発症に至るとの想定の下、機能を下げる変異を持つF蛋白質に上げる変異を順次導入して行くと、融合活性が次第にKobe-1株のレベルに近付くことを確認した。部分的にではあるが、潜伏感染からSSPE発症へと至るF蛋白質の変異の過程を再現できたと思われる。一方、神経細胞における増殖能については検討が続行中であり、おおむね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、(1)潜伏感染からSSPE発症へと至るF蛋白質の変異の過程に神経細胞におけるウイルス増殖の変化が伴うことを確認する。さらに(2)L蛋白質についてもF蛋白質と同様に、機能を下げる変異を持つL蛋白質に上げる変異を順次導入し、潜伏感染からSSPE発症へと至る変異の過程の再現を試みる。そして(3)その過程に神経細胞におけるウイルス増殖の変化が伴うことを確認する。また、(4)Kobe-1株からさらに神経細胞に馴化したウイルスについて、変異解析を行い、神経細胞での増植と神経病原性を調べ、SSPEウイルスが次第に病原性を亢進する方向に進化するか検討する。
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