2020 Fiscal Year Research-status Report
肺MAC症の増加要因と抗菌薬に対する治療抵抗性の解明
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19K08966
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
打矢 恵一 名城大学, 薬学部, 教授 (70168714)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | Mycobacterium avium / 薬剤感受性 / VNTR型別解析 / ISMav6 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の本研究課題の研究成果について、当該年度の研究実施計画に基づいて、分子疫学解析法(VNTR;variable numbers of tandem repeats)によるMycobacterium aviumの薬剤感受性の予測の検討を行った。我々は以前の研究において、VNTR型別解析はM. aviumの病原性の予測において、その有用性を証明している。治療に難渋するM. avium症において、薬剤感受性の予測ができれば抗菌薬による治療をより迅速かつ正確に行うことができる。そこで、M. aviumの抗菌薬に対する薬剤感受性の異なる臨床由来株を用いて、VNTR型別解析によるM. aviumの薬剤感受性の予測の検討を行った結果、以下の研究成果が得られた。 1.使用菌株は、肺M. avium症と診断された後、薬物治療を行う前に分離されたM. avium 46株、そして播種型M. avium症患者由来30株を使用した。これらの菌株を用いてVNTR型別解析を行った結果、3つのクラスターが形成された。各クラスターに属する菌株の薬剤感受性の比較を行った結果、播種型M. avium症患者由来株が多く存在するクラスターⅠは、他のクラスターに比べて薬剤感受性が有意に高く、またクラスターⅢにおいては最も高いMIC値を示した。以上の結果から、薬剤感受性とVNTRとの間に関連性が見られた。 2.我々は以前の研究において、M. aviumのゲノム上に新規挿入配列であるISMav6の存在を報告した。そこで、ISMav6の存在と薬剤感受性との関連性について調べた結果、ISMav6は最も高いMIC値を示したクラスターⅢに属する菌株に多く存在し、一方最も低いMIC値を示したクラスターⅠには存在しなかった。以上の結果から、ISMav6の存在と薬剤感受性との間に関連性が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の本研究課題の目的は、治療に難渋するM. avium症の予防および治療の観点から、分子疫学解析法の一つであるVNTR型別解析によるM. aviumの薬剤感受性の予測の検討を行うことであり、薬剤感受性の予測ができれば抗菌薬による治療をより迅速かつ正確に行うことができる。当該年度の研究実施計画に基づいて行った研究の進捗状況から、下記の理由により現在までの達成度については概ね達成できたと考える。 2020年度の研究実施計画に基づいて、上記で述べたM. avium 76株を使用し、VNTR解析を行うことにより薬剤感受性の予測の検討を行った。その結果、VNTR解析により3つのクラスターが形成され、クラスターⅠに属する菌株は他のクラスターに比べて薬剤感受性が有意に高く、一方クラスターⅢにおいては最も高いMIC値を示した。以上の結果から、各クラスター間で薬剤感受性に違いが見られ、VNTR解析により薬剤感受性の予測の可能性が示された。 さらに、薬剤感受性の予測の指標となるマーカーについて検討を行った。我々が以前に同定した新規挿入配列であるISMav6 は、M. aviumの亜種であるトリ型のM. avium subsp. aviumとsilvaticumが保有している亜種同定のマーカーであるIS901と60塩基が異なっており、日本のM. avium株において多く見られる。そこで、ISMav6の存在と薬剤感受性との関連性について調べた結果、ISMav6は最も高いMIC値を示したクラスターⅢに属する菌株に多く存在し、最も低いMIC値を示したクラスターⅠには存在しなかった。以上の結果から、ISMav6の存在と薬剤感受性に関連性が見られ、ISMav6は薬剤感受性のマーカーになる可能性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策については、当該年度の研究実施計画に基づいて、pMAH135プラスミドの薬剤抵抗性や耐性への関与について検討を行う。我々は以前の研究において、重症化した肺M. avium症患者由来株において、薬剤耐性や病原性に関わる遺伝子をコードした新規の伝達性プラスミド(pMAH135)を発見した。そこで、以下のようにpMAH135の存在とM. aviumの抗菌薬に対する抵抗性や耐性との関連性を詳しく調べる。 1.pMAH135の保有状況について:本研究課題の研究実施計画に基づいて行ったM. avium症患者由来株のゲノム解析の結果、pMAH135の保有が推定される菌株について、その存在を調べる。培養した菌体をアガロースゲルに包埋後、パルスフィールドゲル電気泳動を行う。その後、pMAH135にコードされている薬剤耐性遺伝子に対する特異的プローブを作製し、サザンブロッティングにより存在の確認を行う。 2.薬剤抵抗性や耐性への関与の検討:pMAH135の保有株と非保有株について、両者の MIC値を統計解析で比較することにより、pMAH135の薬剤抵抗性や耐性への関与を調べる。 3.pMAH135上に存在する薬剤耐性遺伝子の解析:プラスミドベクターを用いて、pMAH135上に存在する薬剤耐性遺伝子のクローニングを行う。それを大腸菌等に形質転換することにより、各種薬剤に対する感受性を調べ具体的な対象薬剤の同定を行う。
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Causes of Carryover |
本研究課題の研究実施計画において、抗菌薬に対して低感受性株である肺M. avium症由来46株と高感受性株である播種型M. avium症患者由来40株を用いて、次世代シーケンサーによるゲノム解析を行い、得られた遺伝情報の比較、検討を行う予定であった。しかし、これまで播種型M. avium症患者由来40株中10株については菌株の入手が出来なかったことから未解析であったため、その解析を2020年度に予定していた。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、自宅待機や研究協力機関である国立病院機構東名古屋病院に菌株を取りに行くことが出来なかったことから、予定していたゲノム解析が出来なかった。 2021年度に使用する予算においては、当該年度の研究実施計画を遂行するための費用に加えて、2020年度において実施することが出来なかった播種型M. avium症患者由来10株のゲノム解析を行うための費用として使用する予定である。
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Research Products
(8 results)