2019 Fiscal Year Research-status Report
生体金属輸送体を介した新規ベージュ化決定機構の解明
Project/Area Number |
19K08971
|
Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
福中 彩子 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (60586402)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 脂肪分解 / 脂肪細胞 / 呼吸商 / フェリチン / 肥満 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、亜鉛トランスポーターZIP13を介した亜鉛シグナル(ZIP13-亜鉛シグナル)の脂肪細胞における役割を明らかにすることにより、肥満や糖尿病の理解に貢献することを目標とした。 全身でZip13を欠損したマウスで観察されたベージュ化亢進の表現系がどの細胞依存的に起きているかを調べるために、本年度は、成熟脂肪細胞特異的にCreを発現するAdiponectin-CreマウスとZip13floxマウスを交配し、成熟脂肪細胞特異的なZip13欠損マウス(Adipo-Zip13-KOマウス)を用いて、その表現系を観察したところ、ベージュ化の表現系は観察できなかったが、呼吸商の低下と高脂肪食誘導性の肥満に抵抗性を示すことが判明した。次に、Adipo-Zip13-KOマウスの呼吸商低下原因を調べたところ、Adipo-Zip13-KOマウスの脂肪組織で脂肪分解酵素の発現が増加することを見出した。さらにこの時、ZIP13結合分子Fth1(フェリチン)の発現増加を観察した。一方、成熟脂肪細胞特異的Fth1欠損マウス(Adipo-Fth1-KOマウス)では呼吸商の上昇が観察されたことから、ZIP13はFth1を介してこれらの制御を行なっている可能性が高いと推察された。 本研究は当初ベージュ化に注目して研究を進めたが、予想外の発見として、成熟した脂肪細胞でZIP13がFth1を介してlipolysis制御を行い、肥満病態を制御するという新規の機構を見出した。今後、(1) ZIP13によるFth1の制御機構を明らかにすると共に、(2)Fth1によるlipolysis制御機構を明らかにする。本研究の解明によりZIP13をどのように欠損すれば、エーラス・ダンロス症候群を発症せず肥満糖尿病のみを防げるのかが明らかにできると期待できる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全身でZip13を欠損したマウスで観察されたベージュ化亢進の表現系がどの細胞依存的に起きているかを調べるために、成熟脂肪細胞特異的にZip13を欠損したマウス(Adipo-Zip13-KOマウス)を作製し解析を行った。Adipo-Zip13-KOマウスは呼吸商が低下し、高脂肪食負荷時の肥満に抵抗性を示すが、酸素消費量や直腸温に変化がなく、また遺伝子発現や組織染色像でもベージュ化亢進を示す所見は観察できなかった。これらの結果から、全身のZip13欠損マウスで観察されたベージュ化亢進の表現系は、Adiponectinが発現するよりもより早い段階からZip13を欠損させることにより観察できるではないかと考えられた。現在、前駆脂肪細胞でZip13を欠損させることができるように、Prx1-CreマウスもしくはPDGFRα-CreERTマウスとZip13floxマウスとの掛け合わせを行っているところである。 次にAdipo-Zip13-KOマウスでなぜ呼吸商が低下するか調べた。Adipo-Zip13-KOマウスの脂肪組織で脂肪分解酵素の発現が増加することから、脂肪細胞でlipolysisが亢進し、筋肉や肝臓での脂肪酸の取り込みが増加し、それにより呼吸商が低下している可能性が示唆された。さらにAdipo-Zip13-KOマウスの脂肪組織でlipolysis亢進した原因を調べるために、ZIP13結合分子の発現変動を調べた。その結果、ZIP13結合分子Fth1タンパク質(フェリチン)の顕著な発現増加が観察された。一方、成熟脂肪細胞特異的Fth1欠損マウス(Adipo-Fth1-KOマウス)では呼吸商の上昇が観察されたことから、ZIP13はFth1を介してlipolysisの制御を行なっている可能性が考えられた。
|
Strategy for Future Research Activity |
以前から血清鉄や血清フェリチンの有無でlipolysisが変化することは報告されており(Rumbrger JM, Diabetes 2004)、肥満病態と鉄代謝が深く関連するとの臨床的報告は多数存在するが(Garbielsen JS, JCI 2012) 、その分子実態は不明な点が多い。 本研究は当初ZIP13によるベージュ化に注目して研究を進めたが、予想外の発見としてAdipo-Zip13-KOマウスの脂肪組織でFth1の発現が増加するために、lipolysisが亢進し、それにより呼吸商の低下、脂肪組織重量の低下を示すことを見出した。今後当初の実験計画に加えて、ZIP13-Fth1によるlipolysis制御機構を明らかにするために、以下の項目を実施する。 (1) ZIP13によるFth1の制御機構の解明 (2) Fth1によるlipolysis制御機構の解明。 全身のZip13欠損マウスでは結合組織(骨・歯・皮膚)の脆弱性を示し、結合組織形成においてはZIP13が必須の役割を果たすことから、ZIP13による肥満糖尿病治療法確立において、脂肪細胞特異的にZIP13の機能を阻害することが重要であると考えられる。今回の我々の解析から成熟脂肪細胞特異的にZip13を欠損させると、高脂肪食誘導性の肥満に抵抗性を示すものの、種々のベージュ化を示す表現系には変化が見られなかった。この原因として、ZIP13は、ベージュ化においては、成熟脂肪細胞ではなく前駆脂肪細胞での役割が重要ではないかとの可能性が考えられるため、前駆脂肪細胞から発現するPrx1-CreやPDGFRα-CreERTを用いてZip13floxマウスと交配し、ベージュ化に関わる表現系を調べる。これらの解明によりZIP13をどのように欠損すれば、エーラス・ダンロス症候群を発症せず肥満糖尿病のみを防げるのかが明らかにできる。
|
Causes of Carryover |
端数が合わなかったため、次年度の繰越とした。
|