2019 Fiscal Year Research-status Report
Trefoil Factorと肝発癌の関連および肝癌新規治療法開発に関する研究
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19K09141
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
江畑 智希 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (60362258)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 淳平 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (00566987)
梛野 正人 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (20237564)
國料 俊男 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (60378023)
横山 幸浩 名古屋大学, 医学系研究科, 寄附講座教授 (80378091)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 肝細胞癌 / TFF |
Outline of Annual Research Achievements |
Trefoil factor family (TFF)は消化管粘膜の再生に寄与するとされてきたが、同時に胃癌に対する癌抑制遺伝子としての機能を兼ね備えているという指摘がある。我々はこれまでの研究で、TFFは膵臓においても癌抑制因子として作用していることを突き止めた。一方、TFFと肝発癌との関連についてはこれまでに報告がないが、組織におけるTFF発現状況を鑑みれば、膵癌とは異なった機序により肝発癌に関与している可能性が高い。本研究の目的は、肝発癌におけるTFFの癌抑制遺伝子としての役割と機序を検討して明らかにすることであり、さらには肝細胞癌およびその他の悪性腫瘍に対する新たな治療戦略を開拓することである。TFFは低分子量の分泌型タンパクであるため、recombinant proteinを利用して将来的な肝細胞癌治療戦略に大きく寄与する可能性がある。 これまでの研究で、TFF1は肝細胞癌の発生を抑制する作用を有していることが明らかとなった。すなわち、肝細胞癌培養細胞株に対してTFF1発現を導入すると、癌細胞の細胞死(アポトーシス)が増え、増殖が抑制されることが確認された。また肝細胞癌発癌モデルであるKC(Alb-Cre/LSL-KRAS)マウスにおいてTFF1遺伝子をノックアウトすると、肝細胞癌の発生が促進されることが確認された。さらにヒト肝細胞癌のDNAにおいては、エピジェネティックにTFF1の発現が抑制されていることが明らかとなった。つまり肝細胞癌が発生する際には癌抑制遺伝子であるTFF1の発現が抑制されることが示唆される。これらのTFF1による癌抑制作用はrecombinantタンパクによっても同様に導入されることが確認され、今後の肝細胞癌治療戦略において有用であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TFFには3つのサブタイプが存在する(TFF1,TFF2およびTFF3)。これらはそれぞれに異なる作用機序を有しており、固有の癌抑制効果を持つことが示唆されているが、肝発癌における癌抑制作用はこれまでに報告がなく、詳細は明らかでない。我々の研究により、TFF1には肝細胞癌の発生を抑制する事が明らかとなった。これは、肝細胞癌進展に寄与するとされるWnt/beta-catenin経路を抑制することで引き起こされる現象であることも判明し、学会発表/論文としての発表も終えており、研究課題の進歩状況は順調であると考える。 しかしながら肝発癌に関係する他の因子についても現在検討中であり、さらなる研究成果の発展が期待される。例えばTFF1による癌抑制作用を実際の肝細胞癌治療に応用できる可能性が高く、現在その方法および効果の予測に関する検討が進行中である。また他のTFFサブタイプ(TFF2)による肝癌抑制作用についての検討は現在進行中であり、マウスを用いた研究結果が待たれるところでもある。さらに、原発性肝癌には肝細胞癌と胆管細胞癌の2種類が広く認識されているが、胆管細胞癌に対するTFFの作用は未確認であり今後の検討課題となる。以上より、研究はおおむね順調に推移しているがまだ多くの課題が残されていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在in vivoの研究としてTFF1と同様にKCマウスの肝細胞癌発癌におけるTFF2のノックアウトによる効果を検討中である。一部のKC/TFF2KOでは特殊な組織型の悪性腫瘍の発生が確認されており、TFF2による特異的な癌抑制作用が示唆されている。しかしながらこれらのマウスの肝臓に腫瘍が発生するまでには生後約1年という長期間を要するため、いかに目的遺伝子を持ったマウスを効率的な入手方法、マウスを長期間維持するための飼育方法、さらには新たな発癌因子の追加による短期発癌モデルの開発など、様々な要素についてさらなる検討が必要である。 in vitroの研究として、TFF2発現プラスミドと胆管癌培養細胞株を用いた検討が進行中である。すでにTFF2による腫瘍抑制効果の一端が明らかとなってはいるものの、その詳細の解明には依然として検討課題が多い。また強制発現モデルと同時にrecombinant proteinを用いた細胞外からの腫瘍抑制効果についてもさらなる検討が必要である。 これらTFF1およびTFF2の腫瘍抑制効果の詳細が明らかになり次第、次のステップである癌治療への応用方法の検討を予定している。上記のようにKCマウスモデルは発癌に時間がかかるため、治療効果の確認に最適なモデルとは言い難い。よって、マウスに特殊な食事(CDE diet等)を与えることで脂肪肝、肝硬変、および肝細胞癌の導入を図る。このマウスモデルが確立すれば個体にTFFを投与してその発癌抑制効果、腫瘍縮小効果、抗癌剤治療効果などを検討することで、TFFによる肝癌治療応用への扉を開く研究とする予定である。
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