2019 Fiscal Year Research-status Report
イメージング質量分析を用いた癌微小環境一細胞脂質プロファイルの解明
Project/Area Number |
19K09185
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
早坂 孝宏 北海道大学, 医学研究院, 特任助教 (90415927)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神山 俊哉 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (80322816)
横尾 英樹 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (70399947)
深井 原 北海道大学, 医学研究院, 特任講師 (60374344)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 肝細胞癌 / 癌微小環境 / 質量分析 / イメージング / 脂質 / 代謝物 / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
当教室が保管する肝細胞癌患者由来組織のうち非B非C型肝細胞癌に注目し、8名の患者から摘出された組織の癌部と非癌部を分取した。Bligh and Dyer法により組織から抽出した脂質を高速液体クロマトグラフィー質量分析計(LC/MS)へ供し、ノンターゲット・リピドーム解析を実施した。なお大腸癌肝転移患者から摘出された非転移部を正常部とした。結果として155個の脂質が同定され、PCAよる群間解析は非癌部と正常部の脂質プロファイルがほぼ同じ箇所に集中し、非癌部の方が若干ばらける傾向を示した。一方で癌部の脂質プロファイルは非癌部や正常部の脂質プロファイルから大きく離れて分布し、さらには患者間で異なる分布を示していた。ボルケーノプロットによる分子解析は、非癌部に対して15個の脂質が増加し、3個の脂質が減少することを示した。増加した脂質は飽和脂肪酸もしくは一価不飽和脂肪酸を有すること、減少した脂質はドコサヘキサエン酸(DHA)を有するホスファチジルグリセロール(PG)であることが示された。有意に増減した脂質の特徴として結合する脂肪酸に違いがみられたため脂肪酸について解析したところ、癌部のDHAが有意に減少していることが示された。さらに上記組織から凍結切片を薄切し、イメージング質量分析を実施した。LC/MSと同様の癌部と非癌部における増減傾向が示された。本研究において明らかになった、癌部における飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸を有する脂質の増加は、他の癌でも多く報告されている結果である。一方でDHA含有PGの癌部における減少は報告されていない。PGがミトコンドリアで合成されること、DHAがミトコンドリアに取り込まれアポトーシスを誘導することが報告されており、本研究におけるDHA含有PGの減少は癌細胞のミトコンドリア代謝異常とそれに伴う肝細胞癌進展を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成31年・令和元年度は肝細胞癌特異的に増減する分子を明らかにすることを課題としていた。LC/MSにより18分子の特異的な増減を明らかにし、それらの分布をイメージング質量分析により明らかにした。以上の研究実績から「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終的な目標は、非B非C型肝細胞癌の癌微小環境内の細胞マッピングによる可視化と癌悪性度に相関する変動を示す脂質を探索することである。この目標を実現するために1細胞レベルでの分子イメージングを担保するリファレンスデータの取得が必須となる。すでに癌および非癌部において特異的に増減する脂質を明らかにしたが、癌微小環境が癌腫瘍中に存在することを考えると、癌細胞以外にも癌微小環境を構成する細胞についても明らかにする必要がある。そのため癌微小環境の主要な構成細胞であるCAF(cancer associated fibroblast)を初代培養し、非癌部の線維芽細胞と脂質プロファイルを比較する。以上のリファレンスデータをイメージング質量分析による高解像度解析で取得したデータへ適用することによって、癌微小環境を可視化する。また最終年度にはLC/MSを用いた定量解析を実施し、癌微小環境での脂質代謝における各分子の勾配を明らかにすることにより癌進展に対する代謝異常の影響を明らかにする。
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Causes of Carryover |
年度末および年度初めに起こりうる不測の事態に備えるため若干の研究費を残しており、結果的に執行することが無かったため次年度へ持ち越すこととなった。また旭川医科大学への分担金について今年度は執行が無かったが、本研究に必要となる物品を他のプロジェクトと共用することで購入を見送ったためである。
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