2020 Fiscal Year Research-status Report
補系経路活性化分子は、新たな中隔形成因子の一つとなりうるのか。
Project/Area Number |
19K09233
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Research Institution | Asahikawa Medical College |
Principal Investigator |
森 健一郎 旭川医科大学, 医学部, 助教 (70610236)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 3MC症候群 / 自然免疫 / 発生 / CL-K1 |
Outline of Annual Research Achievements |
3MC症候群は、人種、性別に関係なく発病する常染色体劣勢遺伝子疾患である。病態の特徴として心臓中隔欠損、二分脊椎症、成長不全、発達障害、口蓋裂、口唇裂などが挙げられ、非常に多岐にわたる発生異常が認められる。3MC症候群の原因として、自然免疫の補体活性化に関与する、CL-K1、CL-L1、MASP-1/3の遺伝子変異が報告された。自然免疫とは、細菌・ウイルスなどの異物感染に対する生体防御反応の一次防衛ラインであり、母体内で進行する個体発生とは全く異なる生体反応である。 CL-K1遺伝子欠損マウス(CL-K1KOマウス)を作成し、病態の表現型を解析したところ、CL-K1KOマウスはヒト3MC症候群と類似した表現型を示したため、マウスをモデル動物として、3MC症候群の病態発生機序の解明を行なってる。 これまでの検討で、これらの遺伝子が着床後の胎生初期から発現していること、また、胎生後期になるにつれて発現量が亢進していることを明らかにした。この結果の重要な点は、これらの分子が胎生期には自然免疫以外の何らかの役割を持つことを強く示唆したことである。すなわち、細菌・ウイルスなどの排除に関与する分子が、羊膜内で成長する胎仔という、細菌学的に非常に清潔な領域で、異物排除以外の重要な機能、すなわち個体の発生に関与することを示唆している。また、発生後期の発現亢進は、出産後に暴露される様々な異物に対する生体防御反応の準備であり、発生の前期と後期で異なる機能を有していることが示唆された。 3MC症候群の病態やCL-K1KOマウスを利用した表現型解析の結果から、CL-K1、CL-L1、MASP-1/3は、心臓形成時期における、心臓中隔形成に深く関与していることが明らかになっていることから、現在、CL-K1、CL-L1、MASP-1/3を介した未同定の心臓中隔形成シグナル伝達経路の同定を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、スプライシングバリアントが存在する、CL-K1、CL-L1、MASP-1、MASP-3のリコンビナントタンパク質の大量精製と、それらを用いた培養細胞系での添加実験、その後の各種遺伝子発現の変化を同定する予定であった。 MASPはすでに多くのデータから血中に分泌され、セリンプロテアーゼとして機能するタンパク質が同定されている。CL-K1、CL-L1は血中に分泌されるタンパク量が最も多いものをクローニングするため、様々なデータベースやweb上の仮想マイクロアレイ解析ソフトを用いて検討した。その後、マウス組織からtotal RNAを精製し、目的とするcDNAをクローニングした。 これらクローニングしたものを発現ベクターに挿入後、動物細胞高発現系Expi293 Expression システムでリコンビナントタンパクの発現を行った。その結果、想定したタンパクの収量に至らなかったため、目的遺伝子の5'側にシグナルシークエンスを新たに挿入した大量発現系の構築を行っている。同時に、現在利用している高発現系は、培養腎臓細胞を用いて行っているため、発現量が少ない可能性が示唆されている。そこで培養卵巣細胞、培養肝臓細胞を用いて高発現系の構築も試みている。 また、想定収量には至らなかったリコンビナントタンパク質に関しては、糖鎖カラムと脱塩カラムを用いた精製方法の確立に利用し、今後の添加実験に利用する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、生体内で自然免疫分子として機能し、異物排除に関与するコレクチンCL-K1、CL-L1とセリンプロテアーゼMASP-1、MASP-3の個体発生における新たな機能を解明することである。特に、胎生期での心臓中隔形成におけるこれらの分子の新規の機能解析を目的としている。 これらのタンパク質は、全て分泌型のタンパク質であり、生体では血液中に存在する。このことから、これらは胎生期において発現後、心臓中隔形成時期に原始心臓細胞表面のCL-K1、CL-L1のリガンドとして未同定の受容体に結合することで、心臓中隔形成の開始、もしくは心臓中隔形成進行を促進する分子として機能していると想定している。 そこで、今後の研究推進の方策として、現在作成中のリコンビナントタンパク質を、心臓線維芽細胞への添加し、継時的に細胞からtotal RNAを精製、cDNAを合成する。その後、発生期において心臓中隔形成に必須であると考えられる転写因子、TBX-5、TBX-1、TVX-20、GATA4、GATA6、NKX2.5、CITED2、IRX4、FOXP1の発現量の変化をリアルタイムPCRで検討する。発現量が変化した転写因子を発見後、上流のシグナル伝達経路からCL-K1、CL-L1分子の受容体の候補となり得るタンパク質の検索を行い、候補遺伝子のクローニングを行う。その後、候補タンパク質をリコンビナントタンパク質として培養細胞系で発現させ、同時にリコンビナントCL-K1、CL-L1との相互作用をpull-downアッセイで明らかにすることで、補体活性化因子を介した新たな心臓中隔形成経路の解明を行う。 同時に、in vitroで明らかにした新たなシグナル伝達経路の同定を生体内で行うため、胎生期CL-K1KOマウスと野生型マウスの心臓を用いて、上記転写因子の発現量の比較をリアルタイムPCRで検討する。
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Causes of Carryover |
購入予定のリアルタイムPCR試薬、リアルタイムPCRプローブ、生化学、分子生物学実験用試薬に関して、既存の試薬が残っており、それらを中心に消費したため新規の購入額が減少し、予定より少ない予算執行となった。 また、研究においては、ある程度本来の予定に従い進行しているが、目的タンパク質発現系の再構築のためスモールスケールでの予備検討が多かったため、予定より少ない消耗品購入となった。さらに、コロナ禍における学会出席の中止が、前年度から続いているため、当初予定していた旅費、学会参加費も未使用のため、申請予算より少ない予算執行となった。 本年度は、培養細胞系での検討の拡大に伴う一般試薬、生化学、分子生物学実験用試薬、病理組織実験試薬等の消耗品の購入、および動物実験関連飼育費、動物購入費などに計上した予算の使用を計画している。
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