2019 Fiscal Year Research-status Report
赤血球による細菌防御機構の解明ー新生児赤血球のプロテオミクス解析
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19K09350
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
亀井 政孝 三重大学, 医学部附属病院, 教授 (60443503)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 敗血症 / 胎児赤血球 / プロテオミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
敗血症の死亡率は高度先進医療施設においてもここ10年あまり20~30%で推移したまま改善が見られておらず、院内死亡の実に1/3に関連するとも言われている。本研究は、敗血症の新たな治療戦略開発を目指し、胎児の赤血球機能に着目したプロジェクトである。赤血球は酸素運搬分子としてしか考えられていなかったが、2018年に赤血球上の膜タンパクを介して免疫反応を制御していることが示唆された(Hotz, Am J Respir and Crit Care Med, 2018)。敗血症の致死率は成人では高い(20-30%)のに対し、新生児では低い(10-15%)ことが知られている(Vincent, Crit care Med 2002; Yaguchi, J Thromb Haemost 2004)。これらの知見を統合し、申請者は免疫機能の発達していない新生児の敗血症耐性メカニズムについて、胎児赤血球に鍵となる分子機構が備わっていると仮説を立て、本研究を遂行している。本研究では新生児と成人の比較検討だけでなく、早産児にも注目している。早産の原因のほとんどは感染とされており、早産児は満期産児に比べ、胎児免疫機構が損なわれている可能性があり、早産児と満期産児の比較検討によっても胎児免疫の鍵分子が見出される可能性がある。本研究では出生直後に全例で行われるガスリー検査の血液サンプルを戦略的・効率的に使用することによって、「赤血球プロテオミクス解析による胎児赤血球特異的タンパク候補抽出→in vitro解析による胎児赤血球免疫関連分子同定→in vivo敗血症モデルを用いた赤血球標的敗血症治療戦略確立」という理想的な研究計画の下、推進していき、これまで全く注目されてこなかった赤血球の機能制御による敗血症制御戦略を開発していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
赤血球はその膜表面に有するいくつかのタンパクを通じた生理作用を持ち、その多くが免疫反応に関わるものであることが判明していることから、敗血症関連赤血球タンパクの標的として赤血球膜タンパクを対象とし、赤血球による免疫制御機構を膜タンパクの生理機能として解明し、分子標的治療のレベルまで持っていくことを目指している。これを実現するための技術革新として、赤血球膜タンパクの選択的抽出とそのプロテオミクス解析を行っている。本研究では比較プロテオミクスの手法として二段階スクリーニングの手法を取る。まず、新生児と成人のプロテオミクス解析から新生児特異的に発現上昇しているタンパクを一次候補として選定し、二次スクリーニングとして早産児で発現低下しているタンパクでフィルターをかけることによって、胎児赤血球免疫関連分子を効率的に同定できると考えている。 現在まではプロテオミクス解析に供する赤血球タンパク検体の取得プロトコール確立のため、成人赤血球を用いた検討を行っている。このステップにおいて、複数の問題が見出されている。まず、ガスリー採血で得られる血液検体が微量であることを想定し、微量の血液検体を一度希釈し、そこから密度勾配遠心によって赤血球濃厚液を得ていく必要があるが、その希釈倍率の最適化、希釈した後の濃縮方法の最適化を複合的に行う必要があり、多くの実験回数を要している。また、赤血球濃厚液を得た後にはヘムの除去も必要となってくることが考えられるため、ヘムの選択的除去方法についての文献的検索、ヘムのみが選択的に除去できているのかどうかを検定する方法の探索を行う必要が出てきている。
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Strategy for Future Research Activity |
in vitroレベルで、プロテオミクス解析に供することのできるクオリティを持つ赤血球タンパク濃縮液の獲得プロトコールを行い、まずは赤血球タンパクのプロファイリングを行うことのできる実験系を確立する。プロテオミクス解析に対しては、当研究室で血漿タンパクに対して樹立された、2次元電気泳動とタンパク質量分析を組み合わせた手法を応用する。特に、赤血球中のヘムの除去前後のタンパク濃縮液のクオリティーチェックには2次元電気泳動を用いる。ヘムの選択的除去方法については幅広いレンジでの実験条件の検討を試みる必要があると考えている。 本研究で行うプロテオミクスの目標は「定量的プロテオミクス」であるため、胎児赤血球と成人赤血球の定量的比較のための実験条件の最適化も必要となってくる。これにはまず、蛍光標識タグ法を検討し、その標識化の効率についての最適化を検討していく。また、昨今の定量的プロテオミクスについて、標識タグに依存しない方法も出現ているため、非標識化定量的プロテオミクスの方法についても検討していく。 赤血球タンパクの選択的抽出、プロテオミクス解析のための試料調製、2次元電気泳動からの質量分析といった一連のプロトコールが樹立された後、胎児赤血球を用いた研究のための倫理審査の承認を受け、胎児赤血球での研究を進めていく方針としている。
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Causes of Carryover |
(理由)赤血球タンパクの抽出条件検討(密度勾配遠心法の最適化、赤血球タンパク希釈液濃縮方法最適化)、プロテオミクス実験条件検討(二次元電気泳動、タンパク質量分析)に際し、頻回の実験を要しているが、それらを遂行していくための試薬・消耗品の必要数量が当初の予定よりも少なく済んだため。 (使用計画)次年度に行う二次元電気泳動、タンパク質量分析等に使用する。
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