2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K09360
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
大嶽 浩司 昭和大学, 医学部, 普通研究生 (50338696)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今井 桃花 昭和大学, 医学部, 助教 (30838743)
稲村 ルイ 昭和大学, 医学部, 助教 (70465144) [Withdrawn]
原 詠子 昭和大学, 医学部, 助教 (70643857)
植田 紗代 昭和大学, 医学部, 助教 (70751551)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 術後認知機能障害: POCD / 術後せん妄: POD / 術後認知機能障害 / 軽度認知機能障害: MCI / Frailty / 術前認知機能評価 / 高齢者への手術 |
Outline of Annual Research Achievements |
世界的に高齢者の手術件数は増加傾向にあり、術後せん妄や術後認知機能障害の発生率、術後死亡率や生活の質の低下との関連が指摘されている(Steinmetz J, et al. Anesthesiology 2009;110:548-55.)。術前の潜在的な認知機能低下を要因と捉え、術前診察における認知機能評価を推奨する報告がある(Mahanna-Gabrielli et al. BJA 2019; 123:464-78.)。本邦では、65歳以上の患者が全手術の約6割、75歳以上が3分の1にのぼるため、術後認知機能障害の発生防止は重要な課題である。 本研究では、手術が予定された高齢者にMontreal Cognitive Assessment 日本語版(MoCA-J)を用いて認知機能評価を、術前、術後1週間、3ヶ月にそれぞれ実施し、術前に軽度認知機能障害Mild Cognitive Impairment(MCI)を呈する患者とそうでない患者における術後せん妄および術後認知機能低下の発生率の違いについて評価する。 MOCA-Jの実施には時間がかかる上、熟練が必要であり、多忙な臨床業務の中で全高齢患者に対して認知機能評価を行うことは労力的に難しい。そこで、本研究においては、患者が自ら行えるCognitive Assessment for iPad 2(CADi2)認知機能評価アプリ(島根大学第三内科が開発)による認知機能評価を実施し、周術期認知機能スクリーニング検査としての適切性を評価する。 本研究の副次評価項目として、患者因子(年齢、術前合併症、教育年数、内服薬、Frailty、生活歴)、手術因子(術式、手術時間)、麻酔因子(麻酔方法、麻酔薬、麻酔時間、術中バイタルサイン、術中脳波、rSO2)、術後因子(術後疼痛、合併症の有無)の術後神経認知異常への影響を評価する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
178名の患者から同意を得て、本研究を実施した。このうち、術前に認知機能評価(MoCA-J)が実施できた患者は136人であった。この中で25点以下の軽度認知機能障害(Mild Cognitive Impairment MCI)もしくは認知症の疑いがある症例は79名(58.1%)であった。本邦における高齢者のMCI発生率は25%程度と推定されていることと比較すると、手術を受ける高齢者における潜在的なMCI患者の割合は推定より高い可能性があることが示唆される。術後1週間(1週間より前に退院する場合は退院前日)でのMoCA-J評価を行えた症例は105例であり、このうちMCIと診断できた症例は66名(62.9%)と術前よりも発生率が上昇していた。術前と術後で認知機能評価が実施できた症例のうち57例(55.3%)で1週間後のMoCA-Jの点数が術前と比べて低下していた一方、19例(18.4%)で術前より点数が上昇していた。当初の予定してた術後3か月でのMoCA-J評価が実施できた症例は27例と、追跡に難渋した。術後の転医や外来への患者不来などが原因であった。 CADi2での術前認知機能評価は176例で施行され、うち42例(23.9%)が認知症疑いとされる7点以下(10点満点中)で、MoCA-Jとの評価に多少の乖離があった。副次評価項目の患者因子として年齢、術前合併症、教育年数、内服薬、Frailtyを含む生活歴を、麻酔因子、手術因子として術式、手術時間、再手術の有無を、麻酔因子として麻酔方法、麻酔薬、麻酔時間、術中バイタルサイン、術中脳波、Patient State Index:PSI、Suppression Rate: SR、SEF95、rSO2を、術後因子として術後疼痛、合併症の有無を電子診療録および電子麻酔記録から収集した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の進捗に関して、新型コロナウイルス感染症による影響があった、2020年3月ごろより感染拡大を防ぐため、患者との接触を必要以上には行わないことが求められた。本研究で行う術前、術後の認知機能評価は現在必ずしもルーチンで必要とされていない上、実施には患者と長い時間の対面が必要である、iPadを複数の患者で共有するなどの要素があり、当初の予定通りの患者リクルートができなかった。しかしながら、すでに200名弱という十分な数の患者からデータが取得できているため、今後はすでに収集されたデータの解析および、分析に入る。 また、本研究開始後に本施設において、高齢の入院患者に対するせん妄アセスメントを看護師が通常業務として施行することになったため、本研究で得られた術前や術後の認知機能評価および副次評価項目の影響に関して担当部署との情報共有を推進し、直接の研究成果とはならないものの、実際の臨床での患者予後の改善に役立てていきたいと考えている。
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