2020 Fiscal Year Research-status Report
The effects of anesthetics on anticancer chemotherapeutic agents induced-immune cell apoptosis and analysis of its immunosuppressed mechanism.
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19K09378
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
黒澤 伸 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (60272043)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 胸腺細胞 / 脾細胞 / アポトーシス / 抗がん剤 / 全身麻酔薬 / プロポフォール / ミトコンドリア膜電位 / 術後予後 |
Outline of Annual Research Achievements |
[目的]悪性腫瘍の治療の3本柱は手術療法、化学療法、放射線療法であるが、それぞれが単独で施行されることは少なく、集学的治療として組み合わせて行われる。特に手術療法ではそれに先行してがん化学療法が施行されていることが多い。しかし、依然として手術療法は悪性腫瘍治療の本幹であり、手術療法の治療成績は悪性腫瘍疾患の治療予後を左右する。これらの治療はそれぞれ独立して計画されるため、特に麻酔科学領域では手術療法という狭い範囲でのみ、麻酔診療と術後予後の関係がとらえられ、一連の治療の流れの中にある麻酔の影響を検討、解析することはなかった。本研究では化学療法の影響下にある免疫細胞に与える全身麻酔薬の影響を解析することで、悪性腫瘍の治療計画上、化学療法後に手術を施行される場合の適切な麻酔法を検討する。[結果] 抗がん剤であるトポイソメラーゼII阻害剤のエトポシドを用い、マウス胸腺細胞及び脾臓細胞の死細胞誘導至適濃度の決定と至適培養時間を決定するための実験を行い、至適培養条件を検討した。胸腺細胞にエトポシド10-6モル濃度(以下、M)、10-5M、10-4Mを添加し、CO2インキュベーター内で2時間培養後にエトポシドを除去し、さらに4時間培養したところ、エトポシドの容量に依存してアポトーシスが誘導された。また、脾細胞にエトポシド10-6M、10-5M、10-4Mを添加し、4時間培養後にエトポシドを除去し、さらに24時間培養したところ、エトポシドの容量に依存してアポトーシスが誘導された。ミトコンドリア膜電位もエトポシドの容量に依存して低下した。これらエトポシドの培養濃度および培養時間を用いて、胸腺細胞または脾細胞をエトポシドで刺激後にそれぞれエトポシドを除去してからプロポフォール・0μM、25μM、50μMを添加、培養したところ、プロポフォールはエトポシドのアポトーシス誘導効果をさらに増強した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は全身麻酔薬が抗がん剤影響下における免疫能にあたえる効果を解析するにあたり、全身麻酔薬プロポフォールのマウス免疫細胞にあたえる影響を、その死細胞(アポトーシス)誘導およびミトコンドリア膜電位変化に着眼して観察した。プロポフォール25μMを臨床使用相当濃度とし、プロポフォール50μMを臨床使用超濃度として採用し、それぞれの濃度で胸腺細胞および脾臓細胞を4時間または8時間培養ところ、胸腺細胞においては弱いながらも用量依存性かつ時間依存性に死細胞が増加したが、ミトコンドリア膜電位の低下は観察されなかった。また、胸腺細胞よりも末梢系リンパ組織である脾臓細胞では死細胞の増加およびミトコンドリア膜電位の低下ともに確認されなかった。以上の結果から、プロポフォールはT細胞の教育の場である胸腺においては弱いながら胸腺細胞に細胞死を誘導するものの、より成熟したリンパ組織である脾臓細胞においては細胞死を誘導するような毒性は示さないと考えられた。今年度は抗がん剤エトポシドの影響下にある免疫細胞におけるプロポフォールの効果を解析するために、まず免疫細胞にアポトーシスを誘導するエトポシドの至適濃度および至適培養時間を検討した。胸腺細胞ではエトポシド10-6M、10-5Mにて2時間培養後にエトポシドを培養液から除き、さらに4時間培養することでアポトーシス誘導を確認した。脾細胞では同様にエトポシド10-6M、10-5Mにて4時間培養後にエトポシドを培養液から除き、さらに4時間培養することでアポトーシス誘導を確認した。また、この培養実験系で免疫細胞のミトコンドリア膜電位低下も観察できることを確認した。このエトポシドを用いた培養実験系の確立に成功したこと、また、この実験系の確立により、抗がん剤エトポシドの影響下にある免疫細胞におけるプロポフォールの効果解析を行ったことで本年度の予定を達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度の実験により、マウス胸腺細胞及び脾臓細胞のアポトーシス誘導のためのエトポシド至適濃度の決定と至適培養時間を決定し、本研究における至適培養条件を確立した。胸腺細胞ではエトポシド10-6M、10-5Mにて2時間培養後にエトポシドを培養液から除き、さらに4時間培養することでアポトーシス誘導を確認した。脾細胞では同様にエトポシド10-6M、10-5Mにて4時間培養後にエトポシドを培養液から除き、さらに24時間培養することでアポトーシス誘導を確認した。これらの免疫細胞培養の実験条件はエトポシドを胸腺細胞または脾細胞に一定時間暴露した後で培養液からエトポシドを除き、その後に全身麻酔薬のプロポフォールを作用させるものである。臨床では手術療法に先立って化学療法が施行されることが多く、化学療法終了後、10日から1か月ほどで全身麻酔下に手術が行われる。したがって、この細胞培養の実験条件は、臨床における悪性腫瘍の治療経過を模したものであると考えている。また、抗がん剤の影響を受けた免疫細胞における麻酔薬の効果を観察するために同様の培養条件を使用した研究は麻酔科学領域では申請者の知る限りは本研究が初めてである。令和3年度においては、この免疫細胞の培養条件を使用して、抗がん剤エトポシドの影響を受けた免疫細胞に、揮発性吸入麻酔薬のセボフルランがどのような影響を与えるかを、プロポフォール同様に、アポトーシス誘導とミトコンドリア膜電位の変化に着目して解析する予定である。具体的には、エトポシド10-6M、10-5MにてBalb/cマウス(6-8週齢、メス)の胸腺細胞または脾細胞をそれぞれ2時間、4時間培養後にエトポシドを除き、その後胸腺細胞を4時間培養時に、または脾細胞を24時間培養時に、セボフルランを1MACまたは2MAC濃度で6時間、免疫細胞に暴露し、その効果を観察する予定である。
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Causes of Carryover |
おもに基金は高額実験機器のフローサイトメトリー単年度契約リース料に当てているが、そのため旅費等の使用に基金を使用しなかったこと、および細胞死(アポトーシス)定量のための色素等が当初購入予定であったものよりも安価であったために次年度使用額が生じた。 令和3年度に行う実験では、引き続きフローサイトメトリー単年度契約リース料に当てるほか、フローサイトメトリー機器のメインテナンス部品の購入およびアポトーシス細胞関連試薬、細胞表面マーカー染色抗体を複数購入予定であるため、差額による次年度使用額を適切に使用する計画である。
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Research Products
(8 results)