2020 Fiscal Year Research-status Report
ドラッグ・リポジショニングを応用した急性呼吸窮迫症候群に対する薬物療法の開発
Project/Area Number |
19K09381
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Research Institution | Okayama Prefectural University |
Principal Investigator |
高橋 徹 岡山県立大学, 保健福祉学部, 教授 (40252952)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森松 博史 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (30379797)
清水 裕子 岡山大学, 医学部, 客員研究員 (80423284)
荻野 哲也 岡山県立大学, 保健福祉学部, 教授 (90252949)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 出血性ショック / 蘇生後急性肺傷害 / 炎症 / ドラッグ‐リポジショニング / Dexmedetomidine / 抗炎症作用 / オートファジー |
Outline of Annual Research Achievements |
【背景】ARDSに対しては肺保護換気などの保存的療法は存在するが、過剰な炎症反応そのものを抑制する薬物療法は未だ確立されていない。一方、エボラ出血熱の治療薬として開発された「レムデシビル」の新型コロナウイルスの治療薬への応用が試みられているように、既存薬より新薬効を見つけて実用化をめざす「ドラッグ‐リポジショニング」という研究手法が見直されている。Dexmedetomidine (DEX)は中枢性α2受容体刺激作用を介する鎮静薬であるが、近年、DEXは抗炎症効果も有することが報告された。そこで、本研究では、ラット出血性ショック蘇生(HSR)後ARDSモデルを用いてDEXの蘇生後投与が肺傷害に及ぼす影響とオートファジーの関与を検討した。 【方法】出血性ショックは、雄性SDラットの大腿静脈より脱血し平均血圧30mmHgにて60分間維持した。その後返血開始と同時にvehicleあるいはDEX 5μg/kg/hを尾静脈より投与し、ショック前の血圧を60分保ち出血性ショック蘇生モデルを作成した。 【結果】HSR/vehicle群とHSR/DEX群において、脱血量や手技中の血圧に差はなかった。肺wet/dry ratioはHSR/vehicle群に比べてHSR/DEX群で有意に低かった。 Lung injury scoreを用いた肺組織評価でもDEX投与は蘇生後肺傷害を有意に軽減した。また、浸潤好中球数、TNF-αとiNOS mRNAの肺での発現量はvehicle群に比べてDEX群で有意に低かった。さらにオートファジーの指標であるLC3II/LC3IとP62 levelの変化が認められた。 【結論】DEXの蘇生後投与が抗炎症効果を介して出血性ショック蘇生後肺傷害を軽減し、その保護効果にオートファジーが関与することが示唆された。DEXはARDSの抗炎症薬として応用できる可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
鎮静薬:Dexmedetomidine(DEX)の蘇生後投与がラット出血性ショック蘇生後肺傷害を抗炎症作用を介して改善したという結果は、既存薬の本来とは異なる新たな薬効を見出す(ドラッグ‐リポジショニング)という当初の目的は達することができたと考えている。しかし、DEXの抗炎症効果におけるオートファジーの関与を明確に示すことができていないことから、やや研究計画が遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
DEXの抗炎症効果におけるオートファジーの関与を明らかにするために、まず、出血性ショックモデルにおけるオートファゴゾームマーカー蛋白LCⅡ、および、細胞内不要物とオートファゴゾームをつなぐ「アダプタータンパク質」: p62の発現の変化をWestern blot法で明確に捉えることにより、ARDSにおけるオートファジーの流れを評価する。次に、DEX投与が出血性ショック蘇生ラット肺のLCIIとp62発現に及ぼす効果について検討する。さらに、オートファジー阻害剤クロロキンを投与することにより、DEXの改善効果が失われるか否かを検討し、その関与を確定させる。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況・今後の研究の推進方策の記載箇所でも述べたように、当初、令和2年度はDexmedetomidine(DEX)の抗炎症作用におけるオートファジーの関与を検討する予定であった。しかし、共同研究を行っている岡山大学病院が新型コロナウイルス患者受け入れを行っていたため、研究活動が阻害され研究計画が停滞した。その結果、次年度使用額が生じた。本年度は、オートファジー関連試薬・Western blot試薬を購入し、DEXの抗炎症作用におけるオートファジーの役割をさらに探求したい。
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