2019 Fiscal Year Research-status Report
開発途上国の救急医療システム構築モデルの提案―地域保健医療枠組みの活用
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19K09403
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Research Institution | Kanagawa University of Human Services |
Principal Investigator |
中原 慎二 神奈川県立保健福祉大学, ヘルスイノベーション研究科, 教授 (40265658)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
市川 政雄 筑波大学, 医学医療系, 教授 (20343098)
坂本 哲也 帝京大学, 医学部, 教授 (40365979)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 救急医療 / 地域保健医療システム / 開発途上国 / タイ / ベトナム |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度はタイのコンケン県、ベトナムのタンホア州で、地域保健医療資源の救急医療システムへの活用状況を調査した。コンケンでは、地域保健医療資源を積極的に活用して効率的に救急医療システムを構築している。まず、プライマリヘルスケア(PHC)の枠組みとして整備されたVillage Health Volunteer (VHV)をファーストレスポンダーとしてトレーニングすることで、重症患者が発生した際にボランティアが迅速に対応できるようになっている。次に、先進国のように高規格の救急隊(医師やパラメディックが乗車)を十分な数配備するだけの資源がないため、村役場やNGOが組織するボランティアレベルの救急隊を多数配備し、また私立病院の救急隊にも協力を得て、救急搬送システムを運営している。救急要請電話は、コンケン病院に設けられた指令センターにつながり、すべての救急隊は指令センターからの指示で出動する。 一方、ベトナムでは地域保健医療資源の活用、住民参加は十分行われていなかった。タンホア州では州立病院内に指令センターが設けられているが、民営化されており単なる配車センターとなっていた。指令センターの指示で出動する救急車は州立病院内に配備されているだけであり、遠方までカバーすることができない。郡病院やプライマリケアレベルの施設が救急医療にかかわることもない。コミュニティにおけるボランティアの役割は母子保健や感染症予防に限定されている。 タイにおけるVHVの救急医療における役割についての報告がResuscitation (2020;148:1-2)に掲載された。ベトナムの救急医療システムの経年変化について論文を作成して投稿中である。また、タイのボランティアトレーニングの効果、政策変化が救急医療システムに与えた効果について論文作成中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に予定していた現地調査はタイ、ベトナム、スリランカで実施できた。このうち、スリランカでは、地域保健医療の資源を救急医療へ活用することはほとんど行われず、先進国に倣った救急搬送システム導入が進みつつあったため、調査対象からははずすこととした。一方、タイでは地域保健医療システムを効率的に救急医療システム構築に活用しているところから、本研究の調査地としては最適と判断し、救急医療システム全体を評価する目的で、これまでに申請者らが開発した評価指標を用いてデータ収集を始めた。ベトナムではまだ十分な病院前救護システムが構築されていないことから、現地の共同研究者らとともに、タイモデルのベトナムへの導入を目標に、タイのシステムを記述・評価することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナウイルス感染拡大の影響で、現地調査実施は非常に制限を受けるため、対象地域はタイ、ベトナムに限定して研究を継続する。感染が収束してくれば、現地調査に赴くことも検討するが、現時点では現地でのデータ収集は共同研究者に全面的に依存する状況である。オンライン会議、メールを活用してコミュニケーションをとりつつ調査を遂行することは可能である。タイの救急医療システムを記述し、ベトナムのシステムと比較することにより、地域保健医療資源を活用した救急医療システムのモデル構築を行っていく。タイでは外傷登録など、既存のデータを用いて、救急医療へのアクセス評価が可能であり、データ分析のために倫理審査を受ける準備を進めているところである。
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Causes of Carryover |
現地調査の際に、なるべく安い航空券を探すことで旅費を倹約し、多少余剰が生じた。2020年度の助成金と合わせて、翻訳、英文校正、打合せ及び調査の旅費として使用する予定である。予定よりも早く論文作成に取り掛かっている部分もあるので、余剰分は英文校正費用に充てたい。コロナウイルス感染拡大の影響で、旅費の使用が一部2021年度に繰り越さざるを得ない可能性はある。
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