2019 Fiscal Year Research-status Report
Maximization of therapeutic benefits in DBS for Parkinson disease
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19K09466
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
深谷 親 日本大学, 医学部, 准教授 (50287637)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 一太 日本大学, 医学部, 准教授 (20366579)
釋 文雄 日本大学, 医学部, 助教 (90647976)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 脳深部刺激療法 / 治療利益 / 神経可塑性 / 振戦 / パーキンソン病 / 根治 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、脳深部刺激療法(DBS)が患者にもたらす包括的な治療利益について様々な視点から検討を加えている。より大きな利益を得られる症例とはいかなる症例なのか、いかなる周術期管理がより大きな治療利益に繋がるのかといった点を明らかにしたい。本年度の研究では、以下の2点について重点的に研究を行った。①極めて大きな治療利益が得られたと考えられた症例、つまり疾病をほぼ根治しえたと考えられた症例を抽出し観察研究を行った。②パーキンソン病(PD)のDBS後に筋緊張の低下がみられ、これがADLを阻害し治療利益を低下させていることがある。この原因と対策について検討した。①では、とくに根治したか否かの評価が比較的容易な振戦を有する症例について検討した。今回はPD以外の症例も含めて検討した。DBSを行い経過follow up中に刺激をオフにしても術前に存在していた振戦の出現がみられなかった症例はこれまでに8例存在した。これらの症例の年齢、原因、罹病期間、刺激ターゲットなどを比較し共通の因子について調べその特徴を明らかにすることを試みた。しかし、結果として症例間ですべての因子にかなりの差異があり、一定の共通点は見出すことはできなかった。ただし、基礎疾患では脊髄小脳変性症にてこうした現象が観察されることが多い傾向にあった。こうした症例の存在は、一定期間の継続的DBSにて可塑性が誘導されることが示されており、非常に重要な意味をもつと考えられた。②の検討により、筋緊張低下により姿勢保持障害が起こりADLを低下させる症例が少なからず存在することがわかった。原因として過剰刺激あるいは過剰治療よることが多いと考えられ、対策としては刺激強度を落としてみることが有効な場合が多いこともわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は2つの視点から研究を進めた。①DBSにてほぼ根治しえたと考えられた症例の検討。②DBS後筋緊張低下によりADLが低下した症例の検討。①にて検討された症例は8例であった。内訳は、男性6例、女性2例で、手術時の年齢は18歳~77歳で平均45.1歳であった。振戦の原因は、本態性振戦が2例、脊髄小脳変性症が2例、脳血管障害が2例、頭部外傷が1例、dystonic tremorが1例であった。脳血管障害は1例が脳幹出血で、もう1例が視床出血であった。頭部外傷は交通事故によるびまん性軸索損傷であった。振戦の発症からDBS開始までの期間は11ヶ月~27年で平均12年6ヵ月であった。刺激部位は、dystonic tremorの1例のみが淡蒼球内節(GPi)で、他の症例は視床Vim-Vo核であった。脳血管障害後の一例のみでVim-Vo刺激に加えPSA(Posterior Subthalamic Area)の同時刺激を行っていた。このうち一例では、オフ後半年して突如激しい振戦が再燃し再び刺激を開始している。なお脊髄小脳変性症の症例が比率としては多かった。これらの症例では長期の刺激により何らかの可塑性が生じたと考えられた。②の研究では、筋緊張の低下は過剰な刺激やインターリーブ刺激を行った際の刺激重複分の作用によって生じることが考えられた。しかしすべての症例に対して起こるわけではなくいまだ詳細は不明であるため、今後さらに症例を増やし検討を重ねていく必要がある。現在までのところ主たる目的の達成には遠いものの、ほぼ予定通りの研究の進行状況である。主たる目的である幸福度の評価については、アンケート質問表を作成し健常者を含めた数人から返答をもらっている。今後DBSを受けたPD症例、薬物療法のみのPD症例、健常者などの幸福度の違いを検討したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度行った研究については各々文献的考察を加え必要に応じて追加の研究を加えていく。①の研究については、関連する報告を検索したが渉猟しえた範囲では、DBSを一定期間継続した後に不随意運動が消失したという経験をまとめたものは見当たらなかった。我々が経験したこれらの症例はDBSを長期間継続することにより、中枢神経に恒久的な変化を誘導し得ることを示唆していると考える。DBSによる可塑性誘導に関する研究は、まだ多くはないがいくつかの示唆に富むものがある。磁気刺激と抹消神経刺激を組み合わせたPaired associative stimulation(PAS)を用いた研究では、STN-DBSにより運動皮質にLTP-like plasticityを誘導することが示されている。また動物実験では視床のDBSにて皮質と海馬にstructural plasticityが誘導されることが示されている。DBSによる可塑性誘導は今後注目すべき領域と考えられ、我々も研究を続ける。②についても症例を蓄積していく。本研究の課題はいかにしたらDBSを用いて患者達の幸福度を最大化できるかというところにある。ADLに多大な影響を与える症状に対していかなる対策を施すかということについて研究を行う。今後はさらに発展させそうした現象を受容する認知的側面を背景とした病気と向き合う姿勢についても検討していきたい。来年度以降の研究では、治療困難な症状や不治の症状にどのような対策を講じるかということだけでなく、そうした状況を受容し打ち勝つレジリエンスをもつ症例をそうでない症例の差異を検出したい。疾病の治療ではなく、より適切な疾病との共存を模索することが本研究の主題である。
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Causes of Carryover |
本研究では、我々のもつデータベースからまずretrospectiveに術前と術後5年目までの運動機能およびADLの変化を解析する。根治したと考えられるほど治療効果が良好であった症例については本年度集中的に検討した。これに合わせ今後は、術前と術後5年目までの情動および認知機能の変化も解析し、互いに関連している要因を抽出する予定であったが、本年度は根治症例8例の検討が主であったため、想定していたよりも質問紙による病状評価表の消費が少なかった。またDienerの人生満足度尺度(SWLS: Satisfaction with Life Scale)を用いた術前後の幸福度変化についても今後検討を行い、データが蓄積された時点で運動症状、情動・認知機能との関係を解析する予定であったが、新規症例が予定よりも増えず、尺度評価用紙の作成費用も想定していたよりも安価であった。新規症例が増えなかった理由としては、2020年2月頃からのコロナ感染拡大に伴い予定手術の延期・中止が相次いだことが大きな要因である。学会活動もこれに伴いやや消極的となり想定していた旅費交通費などの経費も安価となった。繰越金は、主に人生満足度尺度SWLS質問紙表作成および解析ソフトや解析用PC購入のために投資する予定である
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Research Products
(20 results)