2020 Fiscal Year Research-status Report
Analyses of tumorigenesis and identifications of novel diagnostic marker and therapeutic target in hereditary and rare kidney cancers
Project/Area Number |
19K09717
|
Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
矢尾 正祐 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (00260787)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中井川 昇 横浜市立大学, 医学部, 准教授 (00237207)
古屋 充子 横浜市立大学, 医学部, 准教授 (10361445)
蓮見 壽史 横浜市立大学, 医学部, 助教 (40749876)
近藤 慶一 横浜市立大学, 附属病院, 准教授 (80363836)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 腎癌 / 遺伝性 / 稀少発症 / 診断マーカー / 治療標的 |
Outline of Annual Research Achievements |
腎癌はネフロンを構成する近位あるいは遠位尿細管細胞より発生する悪性腫瘍と考えられ、淡明細胞型、乳頭状、嫌色素型等が比較的頻度が高い代表的な組織型として知られている。特に腎癌全体の約75%を占める淡明細胞型では、2010年以降多数検体の次世代シークエンス(NGS)解析やオミックス解析が一気に進められ、VHL遺伝子以外に、クロマチン再構成遺伝子群がドライバー遺伝子であり、それらの複数個の変異の蓄積により発症し得ることが示された。一方遺伝性の背景を持つ腎癌や稀少発症の腎癌は両者を合わせて現在10種類以上が病理組織学的に分類されているが、いずれもその病態および分子発症機構は不明な部分が多い。本研究の目的は、遺伝性発症が疑われる腎癌患者ならびに散発例の稀少発症腎癌患者を対象に、想定される疾患責任遺伝子の生殖細胞系列変異の同定を含む確定診断を行うとともに、患者に発症した腎癌検体を用いてNGS解析やさらに網羅的発現解析、メタボローム解析等により、ドライバー変異、ゲノム・エピゲノム異常を明らかにする。得られた情報を基に尿細管細胞の腫瘍化や、組織型亜型やがん多様性をもたらす分子機構を理解し、これらの複数種の腎癌を的確に判別しうる新規の診断マーカーや治療標的となりうる新たな分子を探索する。これまでに遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群(hereditary leiomyomatosis and renal cell cancer、HLRCC)について本邦例を集積し、その臨床病理学的特徴を明らかにするとともに、遺伝学的検査を含めて自験例での新規の確定診断を行った。またバート・ホッグ・デュベ(Birt-Hogg-Dube、BHD)症候群についても診断および診療を継続して実施し、40以上の腎癌検体の収集を行った。さらに集積した遺伝性腎癌検体に対して、マルチオミックス解析に着手した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非常に稀な遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群(HLRCC)関連腎癌の本邦例10例を集積し、臨床病理学的特徴を明らかにしてこれを報告した。その中で特に興味深い点は、免疫組織化学で、B7ファミリーのPD-L1(B7-H1)は11/12で陽性、CD80(B7-1)は12/12で陰性、B7-H3は11/12で陽性であった。さらに免疫チェックポイント阻害剤(ICI)治療が5例で行われ2例は良好な反応を示しており、B7ファミリーの免疫染色所見を反映するような結果であった。これらの知見よりHLRCC関連腎癌では、ICI治療が有効な可能性が示唆された。 引き続き、HLRCC関連RCC(HLRCC-RCC)2症例を新たに自験例として経験した。このうちの1例は腎単発の原発巣に対して根治切除が行われたが術後1カ月で再発病変が出現し、病理学的診断はFH欠損RCCであり、遺伝子検査により、FHのヘテロ接合性生殖細胞変異(c.641_642delTA)が同定され、診断が確定した。そこで先行する研究結果に基づいて、一次治療としてICI治療であるニボルマブ+イピリムマブ併用療法を実施した所、7か月後に完全奏功を得ることができた。本例も論文報告を行った。 またこれまでに集積できたVHL病、BHD症候群、HLRCCを含む遺伝性腎癌家系の腎腫瘍手術検体について、全ゲノム/エキソン解析、RNAシーケンス解析、シングルセルRNAシーケンス解析を含むマルチオミックス解析を実施し、原因遺伝子がどのように発癌およびその表現型の違いをもたらすのかを明らかにする目的に、現在得られたデータの様々な角度からの詳細な検討を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
1) 遺伝性腎癌、稀少発症腎癌に引き続き焦点を当て、病態より想定される疾患責任遺伝子の生殖細胞系列あるいは体細胞性の変異の同定により確定診断を行うとともに、稀少腎癌検体の収集も合わせて進める。 2) 遺伝性腎癌の中で頻度の高いバート・ホッグ・デュベ(Birt-Hogg-Dube、BHD)症候群に発症した腎癌(BHD関連腎癌)についてはこれまでに40以上の検体収集を行うことができた。これらのうち18検体について、高精度なゲノム解析、RNAシーケンス解析を行っており、現在データ解析中である。特にBHD関連腎癌ではミトコンドリア代謝の亢進が認められることが明らかになってきており、全ゲノム解析によるミトコンドリア遺伝子異常についても詳細に解析を進めている。またBHD関連腎癌と散発性腎癌との比較を行うことで、FLCNの変異が癌化に与える影響についての理解を目指す。 3) 遺伝性腎癌や転座型腎癌に焦点を絞り、その責任遺伝子であるVHL, FLCN, FH遺伝子等、また腎癌のドライバー遺伝子であることが明らかなクロマチン再構成遺伝子群についてもそれぞれコンディショナルノックアウトマウスを作成し、これらを交配させ腎腫瘍発症に関わるこれらの遺伝子群の機能や相互作用について解析を進める。 4) 遺伝性腎癌であるHLRCC、BHD症候群、VHL病等に発症した腎癌検体について、シングルセルRNAシークエンス解析を9例で実施した。今後症例を増やし、癌微小環境の1細胞レベルでの詳細な解析から、遺伝性腎癌の原因遺伝子の変異がどのようにその表現型を来たすのかについて解明を目指す。また腫瘍細胞クラスターのみを抽出した発現解析により、腫瘍細胞特異的なマーカー遺伝子を検出し、新規治療ターゲットの探索を行っていく。同様に腫瘍浸潤リンパ球クラスターのみの発現解析などから、有用な治療や診断マーカーの探索も行っていく予定である。
|
Causes of Carryover |
昨年度からの新型コロナの国内ならびに世界的蔓延により、ほとんど全ての学会、研究会等が、中止や延期、あるいはweb開催等に急遽変更されたため、当初計画していた参加費や旅費などが執行されず次年度使用額が発生した。この分は次年度に繰り越しし、またコロナ感染の状況は本年度もほぼ同様と考えられる為、それを考慮した使用計画の微修正を行う予定である。
|