2020 Fiscal Year Research-status Report
マイクロRNAを介した胎児胎盤母体間コミュニケーションメカニズムの解明
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19K09821
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
宮坂 尚幸 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (70313252)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 胎児胎盤系 / Nrk / マイクロRNA / 陣痛発来 |
Outline of Annual Research Achievements |
<分娩開始時期決定に関する胎児胎盤母体間情報伝達の動物実験モデルによる検討> Nrk(Nik-related kinase)は、マウス胚体外組織から単離されたX染色体上の遺伝子である。2011年、DendaらはNrk欠損マウスは胎盤が肥大し、高頻度で分娩遅延が起こることを発表した。そこで申請者らは胎仔/胎盤から母体へ向け発出される分娩誘発シグナルが、Nrkと深く関連しているという仮説を立てた。昨年度、我々はNrkノックアウトマウスと正常コントロールマウスの胎盤における発現遺伝子解析を行った。同時に母体へのメッセンジャーとして機能している可能性が高い胎盤由来マイクロRNAの差異の比較検討を進めた。結果、Nrkの影響を受ける分娩誘発シグナルの候補となる数種類の遺伝子を発見した。また電子顕微鏡から、Nrkノックアウトマウスの胎盤中の粗面小胞体では物質の分泌不全が起こっている所見を得た。我々は発現遺伝子比較で得た候補が分泌不全になることで分娩遅延を誘発すると考えている。現在我々は、候補物質の妊娠後期の血中濃度をNrkノックアウトマウスと正常コントロールマウス間で比較することで、分娩遅延の原因物質の特定を進めている。 <分娩開始時期決定に関する胎児胎盤母体間情報伝達のヒト臨床検体による検討> ヒトにおいても分娩予定日を超過した過期妊娠は母児の予後が悪いことが知られている。マウスで見られた現象が、ヒトにおいても起きているか否かを、Nrk遺伝子のmRNA、蛋白レベルで確認し、分娩誘発シグナルを検索することを目的としている。我々はこれまでに正常ヒト胎盤のHE染色・免疫染色・in situ hybridizationを行い、Nrkが絨毛合胞体細胞層に発現していることを証明した。今後は早産、正期産、過期産となった患者の胎盤でNrkの発現を比較検討する予定としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
<分娩開始時期決定に関する胎児胎盤母体間情報伝達の動物実験モデルによる検討> これまで我々はNrkノックアウトマウスの作成手順を確立し、、このマウスの表現型である分娩遅延の発生を確認している。さらに、ワイルドタイプマウスおよびNrk ノックアウトマウスの胎盤を採取し、HE染色・免疫染色・in situ hybridizationを行うことで、Nrkの局在を確認することができた。昨年度は、Nrkノックアウトマウスと正常コントロールマウスにおける胎盤の遺伝子発現を比較するためにRNAシークエンスによる比較検討を行った。これにより分娩遅延の原因となる候補物質を数種類に特定した。また電子顕微鏡によりNrkノックアウトマウスと正常コントロールマウスの胎盤を比較し、Nrkノックアウトマウスに特徴的な所見を得た。 <分娩開始時期決定に関する胎児胎盤母体間情報伝達のヒト臨床検体による検討> 我々は予定帝王切開で得られたヒト胎盤にHE染色・免疫染色・in situ hybridizationを行い、ヒトの胎盤の栄養膜合胞体細胞層にNrkが局在していることを明らかにした。ヒト胎盤におけるNrk評価方法を確立できたため、今後は臨床的に異なる背景の胎盤(陣痛発来後の胎盤、自然陣痛が発来せずに分娩誘発を行った胎盤、分娩時週数の異なる胎盤など)におけるNrk発現の差異を比較検討できる状態となった。
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Strategy for Future Research Activity |
<分娩開始時期決定に関する胎児胎盤母体間情報伝達の動物実験モデルによる検討> 今後はRNAシークエンスにより得た数種類の分娩遅延原因物質の候補の特定を行う。妊娠後期マウスの候補物質の血中濃度をElisa法により測定する。Nrkノックアウトマウスと正常コントロールマウスの血中濃度を時空間的に比較し、差異のある物質を発見する。特定された物質を投与・阻害することで、正常コントロールマウスで分娩遅延を再現する。Nrkノックアウトマウスで分娩遅延を予防できることを確認する予定としている。 <分娩開始時期決定に関する胎児胎盤母体間情報伝達のヒト臨床検体による検討> 臨床的に異なる背景の胎盤(陣痛発来後の胎盤、自然陣痛が発来せずに分娩誘発を行った胎盤、分娩時週数の異なる胎盤など)において、Nrk発現の差異を免疫染色、in situ hybridization、定量的PCRなどにより確認する。また上記マウスモデルで推定された物質がヒトにも存在することを確認する。ヒトにおいてもマウスと同様の働きがあると推定される場合には、ヒト血液・尿・唾液などの比較的侵襲が少なく採取できる臨床検体中の濃度をELISA法やqPCRを用いて測定する。同物質の量と陣痛発来の相関関係を明らかにすることで、陣痛発来の時期の推定の一助とする。また早産や過期産などの病的症例においても濃度変化を把握することで、病態解釈に役立てる。最終的には、早産が予測される症例に対して同物質を投与することで早産を予防または治療する薬剤としての活用も期待される。
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Causes of Carryover |
今年度は必要な試料の収集に時間を要したため、実際に測定を実施するところまでは至らなかった。次年度は収集した検体を用いて、実際に計測を行う予定である。 <動物実験モデルによる検討>昨年度はNrkノックアウトマウスと正常コントロールマウスにおける胎盤の遺伝子発現を比較するためにRNAシークエンスを施行した。今年度は候補物質の妊娠時期による発現量の測定のためにELISA法やqPCRを行うため必要な試薬を購入予定である。また特定された物質を投与する、または阻害薬を投与することにより、実際に分娩時期をコントロールする予定である。そのために必要な阻害薬、生成物質も購入予定ある。 <ヒト臨床検体による検討>ヒト検体のサンプリングを多数施行予定のため、それに伴う中性緩衝ホルマリン・PFAなどの固定液、免疫染色・in situ hybridizationに必要な試薬の購入を追加する予定である。Nrkの発現量の変化を測定するためにqPCR用の試薬も必要である。また、マウスモデル実験により推定された胎児胎盤母体間情報伝達物質をヒトにおいても検出するため、免疫染色のための抗体、in situ hybridization・qPCRのためのプローブ作成費用が必要となる。
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