2019 Fiscal Year Research-status Report
急性感音難聴の病態と治療における内耳免疫メカニズム-内耳遺伝子転写網の解析-
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19K09845
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
前田 幸英 岡山大学, 大学病院, 講師 (00423327)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
假谷 伸 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (10274226)
菅谷 明子 岡山大学, 大学病院, 助教 (20600224)
高原 潤子 岡山大学, 医学部, 技術専門職員 (80448224)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 蝸牛 / 急性音響性障害 / 聴性脳幹反応 / 次世代シークエンサー / RNA-seq / DNAマイクロアレイ / Fkbp5 |
Outline of Annual Research Achievements |
Fkbp5は細胞内でグルココルチコイドシグナリングを制御する免疫関連遺伝子である。2019年度にはFkbp5ノックアウトマウスの聴力を検討した。6-8週齢のFkbp5ノックアウトマウス(C57BL/6バックグラウンド)を、120 dBオクターブバンドノイズに2時間暴露して、急性感音難聴を惹起した。われわれの実験室では6週齢C57BL/6野生型マウスがこの刺激により、騒音暴露直後(24時間以内)および永続的(2週間後)な感音難聴を呈することを確認済みである。騒音暴露2週間後のFkbp5ノックアウトマウスの聴力は57.1±16.5dB SPL (n= 7匹)で、同じく2週間後の野生型マウスの聴力と統計学的に違いはみとめなかった(p>0.05, Mann-Whitney U-test)。次に次世代シークエンサー(RNA-seq)およびDNAマイクロアレイのデータにより、急性感音難聴を発症した野生型マウスの蝸牛でのFkbp5の発現量を検討した。騒音暴露3時間後には、難聴を発症した蝸牛では、発症していない蝸牛にくらべて、Fkbp5の発現量は2倍以上へ増加していた(RNA-seq:2.10倍、DNAマイクロアレイ:2.49倍)。難聴発症後12時間では、コントロール群とくらべてその様な増加はみとめなかった。デキサメタゾンを全身投与したところでは、難聴発症とデキサメタゾン投与後12、24、48時間の時点で生食投与群とくらべて変動はみとめなかった。われわれの先行研究では、デキサメタゾンをマウスの鼓室内に投与すると、蝸牛でのFkbp5発現量が有意に増加する。今回の解析で、Fkbp5ノックアウトマウスの急性感音難聴の程度には野生型マウスと違いを認めなかったが、難聴発症3時間の時点で蝸牛でのFkbp5発現増加をみとめる点からは、Fkbp5が急性感音難聴の内耳病態に何らかの形で関与すると推察される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究の交付申請書に記した、当研究の目的は“急性感音難聴発症モデルマウスやFkbp5ノックアウトマウスを用いて、難聴発症時の蝸牛において、内耳免疫等に関わる遺伝子転写産物の変動を解析すること”であった。 2019年度には、この目的にそってFkbp5ノックアウトマウスの聴力を検討し、次世代シークエンサー(RNA-seq)やDNAマイクロアレイのデータに基づき、難聴発症とデキサメタゾン全身投与の際のFkbp5の発現量の変動を解析した。 その結果、Fkbp5ノックアウトマウスに急性感音難聴を発症させた際、その難聴の程度は野生型マウスと同等であるとわかった。また、野生型マウスに急性感音難聴を発症させた際、発症早期の3時間後には蝸牛でのFkbp5発現量が増加することがわかった。発症後12時間後にはFkbp5の発現量は難聴を発症していないコントロールとくらべ変動していなかった。したがってFkbp5が急性感音難聴の病態と治療のメカニズムに重要であるという直接的データはえられなかったが、発症3時間後の発現量増加から、難聴発症のメカニズムになんらかの形でかかわると示唆された。2019年度にはFkbp5ノックアウトマウスの実験や、急性感音難聴モデルマウスでの次世代シークエンサー(RNA-seq)、DNAマイクロアレイの実験を実行して、上記の事実が明らかになった。また我々は“研究実績の概要”に記した内容以外にも、リアルタイムRT-PCR等の実験を行い、難聴発症3時間および12時間後に蝸牛組織で変動し、内耳免疫等に関わる遺伝子転写産物のデータを所持している。現在これまでに報告した以外の免疫関連遺伝子の解析もおこなっており、有意なデータがえられる見通しである。したがって“おおむね順調に進展している”と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度以降には引き続き、急性音響性障害によって難聴を呈したマウスの蝸牛組織において、次世代シークエンサー(RNA-seq)、DNAマイクロアレイ、リアルタイムRT-PCRによって遺伝子発現解析を行う。当初の研究計画にそって、炎症・免疫機能に関係する遺伝子群の発現変動を検討する。具体的には次世代シークエンサー(RNA-seq)とDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子解析で、難聴発症時の蝸牛で発現量が変動する遺伝子群リストを作成する。これらの遺伝子の機能をWeb上の遺伝子機能解析データベースである、David Bioinformatics Resources (https://david.ncifcrf.gov/)で解析し、炎症・免疫機能をもつ、どの様な遺伝子群が変動しているか検索する。この様にして同定された、炎症・免疫関連遺伝子の発現をさらにリアルタイムRT-PCRで検討する。また、長鎖非コードRNAの発現について、DNAマイクロアレイと次世代シークエンサーにより検出されたものについても検討する。マウスの蝸牛組織から、千種類以上の長鎖非コードRNAの発現データが得られると考えられるが、これらの実験で長鎖非コードRNAのどの様な発現データがえられるか、その再現性などを評価する。また、難聴発症時に蝸牛組織で発現量が変動する長鎖非コードRNAのリストを作成する。長鎖非コードRNAについては、その機能などにつきデータベース化されていないものが多いと考えられるが、文献を検索するなどして、炎症・免疫機能に関係すると報告されている長鎖非コードRNAが含まれていないか検討する。さらに上記の遺伝子発現解析により難聴発症時に蝸牛局所で変動するとしめされた遺伝子については、免疫染色法によりマウス蝸牛組織での局在部位をあきらかにして、聴覚機能との関連を検討することも考慮する。
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Causes of Carryover |
2019年度の予算は年度内に前倒し請求した分も含めて、主に難聴発症マウスの作成と次世代シークエンサー、DNAマイクロアレイ、リアルタイムRT-PCRの実験に必要な経費として見積もったものである。“研究実績の概要”や“現在までの進捗状況”にしるした様に、これらの実験は基本的にすべて問題なくおこなわれ、反復検証する実験等も必要なかった。そのため次年度使用が生じた。次年度使用とした予算を含め、2020年度以降の予算はこれまでと同様の、次世代シークエンサー、DNAマイクロアレイ、リアルタイムRT-PCRの実験に使用する。また、必要に応じて免疫染色の実験に必要な試薬類に使用する。また現在までの研究進捗状況から、研究期間内に英文原著論文を執筆する予定なので、英文論文校正費や論文出版費に経費を使用する。
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Research Products
(2 results)