2020 Fiscal Year Research-status Report
急性感音難聴の病態と治療における内耳免疫メカニズム-内耳遺伝子転写網の解析-
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19K09845
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
前田 幸英 岡山大学, 大学病院, 講師 (00423327)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
假谷 伸 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (10274226)
菅谷 明子 岡山大学, 大学病院, 助教 (20600224)
高原 潤子 岡山大学, 医学部, 技術専門職員 (80448224)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 蝸牛 / 急性音響性障害 / 次世代シークエンサー / RNA-seq / DNAマイクロアレイ / インターフェロン誘導遺伝子 / デキサメタゾン |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度には、急性音響性障害により感音難聴を呈したマウスの蝸牛で、どの様な機能的カテゴリーの炎症・免疫関連遺伝子群が変動しているか検討した。これまでには、免疫機能に関係するサイトカインが多く変動することなどが判明していたが、その後の検討で、難聴発症12時間後に、インターフェロンによって誘導される10の遺伝子群(interferon inducible genes)が増加することが判った。具体的にはGbp2 (RNA-seqでは3.87倍に増加、DNAマイクロアレイでは2.91倍に増加)、Gbp3(2.25および3.86倍)、Gbp6(2.65および3.92倍)、Cxcl1(3.66および2.72倍)、Ifit1(2.81および6.57倍)、Ifit3(3.28および9.84倍)、Mx1(2.70および6.76倍)、Mx2(3.05および6.61倍)、 Cd274(2.63および2.23倍)、 Irgm(2.13および2.84倍)の発現量が増加していた。難聴発症3時間後の時点ではこれらの遺伝子の発現にはコントロール群と比べて変動は認めなかった。デキサメタゾン全身投与したところでは、投与12、24、48時間後にこれらの遺伝子群の発現には生食投与群から変動をみとめなかった。以上より内耳免疫に関係する遺伝子群の発現は、急性感音難聴の内耳病態で、経時的に変化すると示唆された。また岡山大学耳鼻咽喉科の研究グループでは、2018年から2020年にかけ、米国アイオワ大学のMolecular Otolaryngology and Renal Research Laboratoriesへ博士研究員を派遣し、急性音響性障害マウスの感覚細胞の遺伝子発現を研究した。これは当研究の延長上にある研究である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の交付申請書に記した当研究の概要は以下の通りであった。1)急性感音難聴発症マウスの蝸牛で、次世代シークエンサー、DNAマイクロアレイ、リアルタイムRT-PCRといった技術により、内耳免疫に照準を絞った遺伝子発現解析を行う。2)この際、新規遺伝子転写産物である、長鎖非コードRNAの発現に対象を広げる。3)Fkbp5のノックアウトマウスの蝸牛で遺伝子発現解析を行う。本年度の研究実績の概要に記した様に1)については、次世代シークエンサーやDNAマイクロアレイによる実験で、難聴発症時の蝸牛組織でインターフェロン誘導遺伝子群が変動することを明らかにした。現在までにリアルタイムRT-PCRによる実験も開始しており、内耳免疫に関係するどの様な遺伝子群が変動しているか検討している。たとえば内耳免疫を誘導するメカニズムとして、インフラマソームに関係する遺伝子群の発現もリアルタイムRT-PCRで検討中である。2)の長鎖非コードRNAについては、現在までに蝸牛での発現の解析に必要な生データを取得済みである。現在までに取得した次世代シークエンサー(RNA-seq)およびDNAマイクロアレイの生データからの解析が可能である。3)についてはこれまでに、Fkbp5ノックアウトマウスの急性音響性障害のデータを取得した。Fkbp5ノックアウトマウスの急性音響性障害の程度は、野生型マウスと同等だったため、野生型マウスの難聴の病態にFkbp5が関わっているかどうか、次世代シークエンサーとDNAマイクロアレイのデータに基づき、その発現量を検討した。以上の様に、研究開始当初の交付申請書にそった内容のデータがすでに得られ、現在も順調に進んでいるので、“おおむね順調に進展している”と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度までに、急性音響性障害マウスの蝸牛における遺伝子発現の生データの取得はできている。具体的には難聴発症時の遺伝子発現について、次世代シークエンサー、DNAマイクロアレイ、リアルタイムRT-PCRのデータを取得した。したがって、2021年度にはデータ解析が中心となる。難聴発症時の蝸牛で発現量が変動する遺伝子のリストを次世代シークエンサー(RNA-seq)、DNAマイクロアレイの実験結果に基づき作成する。これらの機能をweb上の遺伝子機能データベースであるDavid Bioinformatics Resources(https://david.ncifcrf.gov/)で検討する。これまでと同様に、炎症・免疫機能を持つ遺伝子群に注目するほか、今後は炎症・免疫機能以外の機能に関係する遺伝子群についても、難聴発症時にどの様に発現量が変動しているか解析する。これにより当研究に続く、急性感音難聴の病態解明にむけた次の研究計画への着眼点とする。また現在、難聴発症時に変動し、炎症・免疫機能に関係する遺伝子の発現をリアルタイムRT-PCRでも検討中なので、これらのデータをまとめる。追加実験としては、以上の検討で注目した個々の遺伝子についてリアルタイムRT-PCRで蝸牛での発現量を確認するほか、免疫染色法でマウス蝸牛内での発現部位を検討する。これにより、各遺伝子の聴覚機能とのかかわりを考察する。また、これまでに得られた次世代シークエンサー(RNA-seq)、DNAマイクロアレイの実験結果から、蝸牛組織での長鎖非コードRNAの発現について解析する。数千種類におよぶと考えられる長鎖非コードRNAの発現データの全体像を検討し、難聴発症時に発現が変動していると考えられる長鎖非コードRNAを探索する。これらの分子と炎症・免疫機能との関連が報告されているかどうかの文献検索などを行う。
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Causes of Carryover |
2020年度の予算は、主に次世代シークエンサー(RNA-seq)、DNAマイクロアレイ、リアルタイムRT-PCRの実験に使用する予定であった。上記の実験については、2020年度までに問題なく生データの取得を終え、特に反復確認の為の実験も必要なかったので、次年度使用が生じた。2021年度以降には主にデータ解析を行うので、その為に必要なパーソナルコンピューターや受託データ解析費用に経費を用いる。また状況に応じて当研究の成果を論文とするのに必要な、英文論文校正費用や、論文出版費に経費を用いる。追加実験としては当研究の解析で注目した難聴関連遺伝子について、リアルタイムRT-PCRによる発現確認実験や免疫染色の実験を考慮し、それらに必要な試薬類などに経費を用いる。また、2021年度には日本耳科学会や日本聴覚医学会への参加を計画する。
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