2020 Fiscal Year Research-status Report
S100A10による頭頚部癌悪性化と新規治療・診断への応用
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19K09861
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Research Institution | Miyagi Prefectural Hospital Organization Miyagi Cancer Center |
Principal Investigator |
小鎌 直子 地方独立行政法人宮城県立病院機構宮城県立がんセンター(研究所), がん先進治療開発研究部, 主任研究員 (30390892)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | S100A10 |
Outline of Annual Research Achievements |
頭頚部癌は特徴的なドライバー遺伝子がない。このため、上皮間葉転換(EMT)などが解析されてきたが、予想された進展は乏しく、新たな突破口が期待されている。癌幹細胞(CSC)は、頭頚部癌の治療標的として注目されている。申請者はCSCのプロテオミクス解析を行い、S100A10が特異的に発現していることを突き止めた。予備的解析から、S100A10が頭頚部癌CSCの悪性形質に貢献している可能性が浮上した。本研究の目的は、S100A10による頭頸部癌の悪性化を解明し、治療・診断標的としての妥当性を検証することである。特に、S100A10 による①CSCの維持、②浸潤と転移、③予後との相関、④診断マーカーおよび治療標的としての可能性、からなる4つのサブテーマを展開する。頭頚部癌におけるS100A10機能の分子基盤を同定することで、CSCの謎を解き明かし、診断へのブレークスルーを狙う。最終的な目標は、これらの学術的成果を応用してS100A10を標的とする新たな治療に向けた基盤技術を開発することとする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒト頭頚部癌PDX細胞株(HPCM2)について、S100A10のノックダウン細胞およびS100A10のノックアウト細胞を樹立したところ、親細胞やコントロール細胞と比較して、in vitroにおける細胞増殖とヌードマウスを使ったin vivoにおける異種移植腫瘍増殖が抑制されていた。特にS100A10ノックアウト細胞は、細胞増殖能の低下が著しく、マウスに移植した腫瘍に至っては、はほとんど成長できないことが分かった。 その後、in vitroの実験で、対照細胞に比べ、S100A10ノックダウン細胞およびS100A10ノックアウト細胞の創傷治癒能、細胞遊走能、細胞浸潤能が有意に低下していることが明らかとなった。 また、S100A10ノックアウト細胞のがん幹細胞性について、親細胞との比較を行った。その結果、in vitroにおいてS100A10ノックアウト細胞は、スフィア形成能や、がん幹細胞マーカー(CD271、CD44)レベル、薬剤耐性遺伝子(ABCG2、ABCC2)の発現が低下していることが分かった。しかし、がん幹細胞マーカー遺伝子(Sox2、Oct3/4、Kif4、Nanog)や、薬剤耐性遺伝子(ABCB5)の発現については、親細胞との差はみられなかった。一方、in vivoにおける超免疫不全マウス(NOG)を使った造腫瘍能の比較では、マウスに移植されたS100A10ノックアウト細胞は、腫瘍を全く形成できないことが明らかとなった。 ここまでの解析により、S100A10が頭頸部癌の悪性化と深く関わっていることが、さらに明らかとなり、今後は悪性化に関与するS100A10のメカニズムの解明や、臨床検体を用いたS100A10の発現と予後の解析など、以降に計画している研究が順調に進められると考えられるから。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下のような研究を推進していく。 ①今回in vitroの実験で、対照細胞に比べ、S100A10ノックダウン細胞およびS100A10ノックアウト細胞の創傷治癒能、細胞遊走能、細胞浸潤能が有意に低下していることが明らかとなった。従って、浸潤・遊走に関するS100A10の役割を明らかにすることで、治療標的としての妥当性を高める。 ②臨床検体を用いたS100A10発現と予後の解析を行い、S100A10発現レベルと予後の関係性を検証する。予備的な免疫組織染色では、S100A10は多症例でがん組織に強く発現していた。浸潤や転移症例では、特に浸潤最前部(invasive front)においてのS100A10の発現が高いことから、悪性度と関係がある可能性が大きい。そこで、頭頚部がん手術検体において免疫組織染色と遺伝子発現レベルの両面から調査を行い、S100A10と悪性度や予後など病態との相関関係を明らかにする。
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Causes of Carryover |
次年度に使用する額が、計画した額より増えることが予想されるから。
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Research Products
(1 results)