2019 Fiscal Year Research-status Report
聴神経腫瘍のゲノム解析による腫瘍発生および増大メカニズムの解明
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19K09910
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
藤田 岳 神戸大学, 医学部附属病院, 講師 (90533711)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 聴神経腫瘍 |
Outline of Annual Research Achievements |
聴神経腫瘍 は、主に前庭神経のシュワン細胞から発生する神経鞘腫である。ほとんどは良性腫瘍であるが、難聴やめまい症状を引き起こし、増大すると小脳や脳幹を圧迫して死に至ることもある。しかし、「聴神経腫瘍がなぜ、前庭神経に発生し、またどのようなメカニズムで増大するのか」 未だ詳細は不明である。聴神経腫瘍の発生には腫瘍抑制タンパクである、MerlinをコードするNF2 遺伝子の異常が関与していると報告されている (Welling DB et al., Hum Genet. 1996) が、NF2 遺伝子のノックアウトマウスが前庭神経鞘腫を発生することはなく、腫瘍の増大速度とNF2 遺伝子異常が相関するわけでもない。さらには、これらの腫瘍遺伝子解析は欧米からの報告がほとんどであり、本邦での遺伝的バックグラウンドの違いも不明である。また聴神経腫瘍の95%以上に難聴を認める。その原因は前庭神経に発生した腫瘍による、蝸牛神経の圧迫や内耳の血流障害に起因すると考えられていた。しかし腫瘍の大きさと聴力は相関せず (Roosli C et al, Otol Neurotol, 2012)、また腫瘍よりも末梢側にあるはずの蝸牛内の神経細胞にも変性がみられるなど、腫瘍による圧迫だけでは説明のつかない事象が観察されている。つまり、② 「VSがなぜ、聴力障害を引き起こすのか」も、メカニズムがよくわかっていない。 これらの疑問点を解決するために、まず聴神経腫瘍の遺伝子変異および、タンパクなどの発現について網羅的に調べることとした。当院脳外科で行った、聴神経腫瘍の腫瘍組織サンプルをもちいて遺伝子の解析および遺伝子発現を制御するマイクロRNA,ゲノム情報の最終産物である代謝物について解析を行う。遺伝子については、パネル検査で行い、マイクロRNAはマイクロアレイで行う。また代謝物の解析は質量分析の手法を用いて行う。現在、倫理委員会の承認は得られており、解析するサンプルをリクルート中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
聴神経腫瘍の発生・増殖に関わる因子および、新たな治療薬探索まで視野にいれて、研究解析を行うための臨床サンプルをリクルートしている。対象は聴神経腫瘍と診断され、当院で手術治療を受けられた患者とした。既に保存されている腫瘍組織および、新たに同意を得て手術で摘出される腫瘍組織の一部を用い、① 既存の遺伝子パネル(Comprehensive cancer panel:癌関連遺伝子409種など)を用いて、網羅的、包括的にゲノム解析を行う② マイクロRNA(miRNA)についても、チップを用いて網羅的に解析を行う ③ 腫瘍組織の生理活性物質について、質量分析の手法を用いて定量的に解析する ④ フローサイトメーターを用いて、腫瘍組織内の細胞プロファイルを確認する ⑤ 病理組織標本を用いて上記①-②で得られた発生・増殖に関与する候補遺伝子やmiRNAに関与する蛋白や遺伝子を、免疫染色や in situ hybridization の手法を持ちいて検証する。ことを予定している。すでに神戸大学大学院医学研究科の倫理委員会承認は得られているが、現在COVID-19感染症の蔓延により、医学部全体として実験がストップしているため研究進捗状況はやや遅れている。
その間の代替案として、MRIにおける内耳蝸牛内のシグナルを観察することで聴神経腫瘍による内耳蝸牛への影響を調べる研究を現在検討中である。いずれにせよ、聴神経腫瘍の病態を探る研究を遂行していく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は予定通り、既に保存されている腫瘍組織および、新たに同意を得て手術で摘出される腫瘍組織の一部を用い、① 既存の遺伝子パネル(Comprehensive cancer panel:癌関連遺伝子409種など)を用いて、網羅的、包括的にゲノム解析を行う② マイクロRNA(miRNA)についても、チップを用いて網羅的に解析を行う ③ 腫瘍組織の生理活性物質について、質量分析の手法を用いて定量的に解析する ④ フローサイトメーターを用いて、腫瘍組織内の細胞プロファイルを確認する ⑤ 病理組織標本を用いて上記①-②で得られた発生・増殖に関与する候補遺伝子やmiRNAに関与する蛋白や遺伝子を、免疫染色や in situ hybridization の手法を持ちいて検証することを予定であるが、COVID-19の影響により手術症例も減少しており、また実験そのものがしばらく遂行できない可能性がある。
上記研究が停止している期間、現在までの進捗状況でも述べているとおり、実験室を用いない研究として、「聴神経腫瘍が内耳蝸牛に与える影響」を調べる目的でMRI画像を解析する研究も平行して行う予定である。こちらについては、これまで聴神経腫瘍の診断で当院にてフォローを行っている患者の、MRI画像(特にBFE撮像条件)を用いて内耳蝸牛内のシグナル強度を調べることにより、腫瘍が蝸牛に及ぼす影響を調べていく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたが、金額は大きくなく概ね予定どおりに使用していると考える。翌年度も研究計画に沿って、使用していく予定である。
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