2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K10260
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
奥原 滋 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 非常勤講師 (10451973)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森田 圭一 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (10396971)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 舌 / 喉頭蓋 |
Outline of Annual Research Achievements |
舌発生のうち、舌筋の腱に関する部分は、前科研費より継続した研究でもあることからすでに成果として発表できた(Development誌および業績欄)。その内容は概ね、神経堤由来細胞から分化する腱が内舌筋の正しい配列に必要で、Sonic hedgehogシグナリングがそれを司るとするものである。 舌における更なる研究は、中胚葉由来細胞の貢献である。これは筋芽細胞として舌原基に遊走してくるが、特に内舌筋と外舌筋ではその時期が異なるため、分化過程やその時期が異なると想定される。この点について、内舌筋と外舌筋ではmyosin重鎖の構成要素が異なることを検出したので、これに位置や走向の情報を考え合せることで、内・外舌筋が筋板から遊走し、舌原基内に到達し、筋細胞に分化するまでの過程を、組織学的に観察している。 一方、喉頭蓋についての研究も行っている。喉頭蓋軟骨は、その軟骨内のみならず、周囲組織との間も弾性線維で結合されていることを組織学的観察から新規に発見した。また、文献検索も行っている。鳥類や爬虫類においては喉頭蓋自体が存在せず、気管上端は呼吸圧で開く時以外は基本的に閉じているようであること、陸生哺乳類は概ね軟骨を主体とする喉頭蓋を持ち、気管上端は常に開放しており、嚥下の際、咽頭筋によって気管上部軟骨群全体が後方に回転することで喉頭蓋も後方に回転して気管上端を塞ぐこと、海生哺乳類は喉頭蓋がなく、気道は消化管から独立しており、気道を支える軟骨の一つとして喉頭蓋軟骨と名付けられた軟骨が存在していることが判明した。これは、消化管と交差する気道の喉頭・咽頭が、空間や機能を混在、使い分け、独立と進化させていると理解できる点で、これまでの呼吸器の進化を支持する新規情報と解釈である。 現状では、前段内・外舌筋を主体とする研究と、後段喉頭蓋についての研究とは、独立した報告とする見込みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
組織学的観察に必要な材料を準備している。即ち、発生段階の観察に主として用いられるin situ hybridization法の実行に必要なplasmidを作成している。作成済みplasmidの一部に激しい自然崩壊が起こったが、何とか回復しつつある。観察対象となるマウスは、主に野生型においては各発生段階のものがほぼ揃った。 舌の内舌筋・外舌筋の発生動態観察においては、速筋と遅筋を区別する免疫組織化学染色用抗体を用いた観察から、発生期の内舌筋には速筋がほぼ検出されないことを見出した。このことは、内・外舌筋を今後記述してゆく上で有用な情報となる。即ち、各々を構成するmyosin重鎖の種類が異なることは、発生や機能に違いがあることを示しているからである。 喉頭蓋に関する研究は、文献検索によって、動物種によって喉頭蓋の有無が異なる点を見出した。喉頭蓋は嚥下に役割のある器官であることから、嚥下方法、特に嚥下時の舌を含む咽頭・喉頭の動きとの相関に検討を拡大してゆきたい。 所属する東京医科歯科大学においては、大学の方針として、コロナウイルス感染拡大および日本政府の緊急事態宣言に対し、出勤停止、新規実験の停止、マウスや細胞の維持のみの出勤を許可する旨4月14日より施行されている。このため、文献等の情報検索のみを行っている。この方針が緩和される時期次第では遅れを取り戻し難い可能性がある。 具体的には、マウスサンプルを採取するための交配が新規実験に相当するため実行できない、これまでに採取したサンプルについてそれを保存する以外の処理をすることができない、マウスの系統維持よりも多くの個体を持つことが許されないといった問題が生じている(所属大学の方針に従わない者はこの限りではない)。組織学的観察を主体とする研究課題なので、サンプル採取とその処理を進められないことは致命的である。
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Strategy for Future Research Activity |
舌の内・外舌筋の動向については、前述速筋・遅筋成分を持つか否かによる内・外舌筋の区別が、胎齢あるいは生後何日まで存在するのか確認する。即ち、出生までには舌は嚥下運動を行い始めるので筋として成熟する必要があり、一方、マウスの舌は発声には用いられないので、嚥下以外の運動性を確保する必要がない点を考慮して、発生段階・走向・機能を評価する。 in situ hybiridazation法により、野生型マウスの咽頭・喉頭の発生段階と各遺伝子発現を経時的に観察する。特に発生段階を象徴する遺伝子とその発現の経時変化から、遺伝子組み換えマウスにおける観察を行う発生段階を絞り込み、実際に観察を行う。 咽頭・喉頭の発生段階は、まず最も巨視的に形態変化、即ち軟口蓋、舌、喉頭蓋、甲状軟骨などの概形の出現、次に1段階微視的に内包される軟骨などの組織の発生過程、最後に各組織を象徴する遺伝子発現の時期・量の違いを観察することで評価する。顕著な変化が起こる胎齢を、遺伝子組み換えマウスで観察する発生段階とすることで、限られたサンプル数を有効に用いる。 喉頭蓋の機能や動態の理解は、様々な動物の嚥下方法を記述した文献から、新生児・乳児期型と成人型のどちらに近いかを含めて情報収集し分類を試みながら行う。実証実験は困難なので、文献で可能な限りに留める。特に、哺乳類内でも陸生哺乳類と異なり海生哺乳類では気道と消化管が「ねじれ」の位置にあり交差する場所がないが、依然として喉頭蓋軟骨(と名付けられた軟骨)は残存していること、一方、哺乳類より下等な動物であるトリや爬虫類では喉頭蓋がないことから、原始消化管から気管が派生器官として発生するメカニズムとの関連についても調べてゆきたい。これについては、現在、発生期における消化管上皮と気管上皮のマーカー遺伝子Islet-1とNkx2-1の検出方法を検討中である。
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Causes of Carryover |
使用計画に大きな変更はない。次年度使用額と翌年度分として請求した助成金とを合わせた使用計画は当初の研究計画調書通りである。 具体的には、マウスを用いた研究については、実験動物購入費、in situ hybridization用の試薬、免疫組織化学染色用の抗体・試薬・スライドグラスやカバーグラスなどの消耗品等に使用する。特にin situ hybridizationについては、標的遺伝子毎に、そのprobeを作成するためにtemplateとして必要なplasmidを作成する必要があるが、過去の報告に倣いつつも現代の遺伝子配列情報に基づいて研究者自身が設計・作成せねばならず、候補を複数用意して結果に妥当性と信憑性を持たせるので、その費用・検証に必要な時間と労力のコストがかかるものと見込む。また、免疫組織化学染色用の抗体の一部は、正しい染色が得られるための条件検討が、組織の固定方法や包埋方法、抗原の賦活化処理の有無と種類、抗体の濃度など多岐に渡るので、これらの条件の組み合わせを当たると労力・時間・費用のコストを見込む。 ヒトを対象として研究については、ヒトゲノム抽出キット、PCR用消耗品、シークエンスサービス費用等に使用する。病院業務が復旧してから再開されるが現時点で見通しは立っていない。
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Research Products
(3 results)