2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K10260
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
奥原 滋 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 非常勤講師 (10451973)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森田 圭一 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (10396971)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 喉頭 / 喉頭蓋 / 甲状軟骨 / Sonic hedgehog |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、Shhシグナリングが低下し、かつ、喉頭の骨・軟骨の形成異常を呈するモデルマウスとしてShh・MFCS4複合欠失マウスを用いて、喉頭の骨・軟骨の発生過程について組織学的・分子生物学的解明を目指している。 Shh・MFCS4複合欠失マウスの喉頭の骨・軟骨の形成異常について組織学的に観察した結果、胎齢11日頃現れる細胞の凝集としての各骨・軟骨原器が低形成であることが明らかになった。 一方、研究代表者所属分野では別の喉頭の骨・軟骨異常モデルマウスであるFoxc1 ch/chマウスを、使途なくここ5年飼育し続けていたが、2年越しの交渉の末よくやく分野長より使用を許可された。同マウスは、Foxc1転写因子をコードする配列の異常により機能しないFoxc1が転写される自然発症型遺伝子変異マウスである。近年、Foxc1は、Shhシグナリングの主要転写因子Gli2の転写を増幅する作用がある旨報告されていることから、本計画当初から使用しているShh欠失マウスとの比較や、Foxc1 ch変異とShh欠失変異の重複がもたらす変化の観察が有効であると期している。分与された個体は野生型を交えて老体オスばかり数匹だったので半年以上を要したが現在実験用途に向けてコロニーの回復を遂げたところである。 また、喉頭の骨・軟骨の中でも特に喉頭蓋に異常を呈する遺伝子変異は複数あり、それらの遺伝子の発現動態を観察すべく、in situ hybridizationのprobe設計と作成、試用をほぼ全て済ませた。これらの遺伝子について、まずは野生型マウスでの発現動態を現在検討しているところである。その結果得られた知見に基づき、観察時期や方法を絞ってShh欠失マウスやFoxc1 ch/chマウスで発現動態を検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
喉頭の骨・軟骨の形成異常モデルマウスとしてFoxc1 chマウスを導入したが、誰も使っていないコロニーの使用許可を分野長から得るのに2年以上かかったのみならず、8か月齢のオスが交配もしないまま4か月も放置されたままだった状態で渡されたため、コロニーの回復に半年を費やしてしまった。この点については、コロニーが回復した点はもとより、当時コロニー維持に携わっていた大学院生が卒業し、現在は別の者が担当しているため、問題は解決している。 組織学的観察においては、マウス喉頭の骨・軟骨の発生過程について詳細に記載された論文がこれまで一切ないことから、時空間的に網羅的な観察が必要であった。これをほぼ達成している点は、大きな進捗である。具体的には、最も最初に観察される細胞の凝集である原器は、多くの骨・軟骨において胎齢11日に観察された。しかし、軟骨あるいは軟骨内骨化の前段階としての軟骨への分化は、その典型的遺伝子マーカーであるSox9の発現開始時期からみると、器官によって胎齢11日から13日と大きくばらついていた。また、これまで軟骨の発生過程で発現があるとされていた遺伝子のいくつかについて、四肢の長管骨における報告とは異なる動態を示す遺伝子もあったことから、新規性を伴った進捗があったと言える。 既に、遺伝子変異が喉頭の骨・軟骨の発生異常を呈すると報告されている遺伝子について、観察の道具である、in situ hybridizationのprobeを設計・作成・試用済である。中には、その発現動態が喉頭の骨・軟骨の発生に影響するとは直ちに理解し難い遺伝子もあり、これらについては、今後更なる研究を行うか否かを含めて判断を保留している。まずは、遺伝子発現が骨・軟骨の発生に関与すると容易に判断できる遺伝子についてのデータを確固たるものにして後、改めて判断したい。
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Strategy for Future Research Activity |
1. まず、喉頭の骨・軟骨の発生過程の時空間的な観察を整理する。2. 次に、これを軸として、各遺伝子の発現動態を重ねることで、形態学と分子生物学を併せ持った情報の統合が得られる。3. この統合に、更に、変異が低形成をもたらす原因遺伝子の発現動態を重ねる。4. その結果、各遺伝子について、骨・軟骨発生過程のどのような段階に作用があるのか、その可能性を示すことができる。5. また、原因遺伝子の発現動態が、ShhシグナリングとFoxc1転写因子の影響下にあるか否かを観察し整理することで、咽頭の骨・軟骨発生においてShhシグナリングとFoxc1転写因子が、単独に、また協調して作用する場面を特定できる。 上記のような手順で研究を計画・遂行し、現在2を終えた段階にあると自己評価している。また、3の準備が終わり順次実行段階を行っているところである。これをもって作業段階はほぼ終えることができる。最後に4,5を考察しつつ論文としてまとめる計画である。 これらの情報を整理し発表することで、喉頭の発生・形態・機能の理解を深め、その病態の理解や解決の一助となることを目指す。研究成果は、学術論文の形で発表する予定である。 一方、所属機関変更届にもあるように、他機関に異動になった。これにより、本研究の継続に、特にマウスの移動や実験環境整備に時間および金銭的コストを生じている。この原因は前所属分野長が正当な理由を説明できないにも拘わらず科研費継続中の代表者の身分を継続しなかったことにある。これにより、今後は著しい遅延が見込まれる。特に、マウスの移動には権利関係をクリアにするなどの手続きの他、実際には微生物学的条件をクリアにするいわゆるクリーニング操作を外注し、最小限の個体数で移動することになるので、コロニーの再拡大には数か月と相当の金額を要するために遅延を予見する。
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Causes of Carryover |
本研究における最大のコストのひとつはマウスの購入および維持・繁殖費用であるが、遺伝子改変マウスの維持・繁殖において必然的に生じる、目的の遺伝子型を持たないマウスを流用して実験することで多少コストを削減できた。これは動物実験における基本方針にも合致する。また、使用するモデルマウスの1つについては、研究代表者の手に渡る以前の状態が、繁殖に適切とは到底言い難いほど老齢であったことから、コロニーがなかなか拡大できず、その結果費用がかからなかった。 また、昨今の世界的情勢から物流が滞り、あるいは政府要請に基づき大学及び個人レベルでの活動が制限されたこともあって、実験量が低下していることも一因である。特に、組織学的観察を行う環境は閉鎖的な空間である場合があることから、誰もが多少の影響を受けた程度には影響を受けて作業が滞った。その結果、消費した材料も少なめになっている。 かかる情勢にも拘わらず、便乗値上げなどせず、常に迅速納品と安価を心掛けて実験材料を販売してくれる業者の努力も少なからず貢献している。今年度は所属が変わるため業者も変わる可能性があるが、可能な限り現状を維持することでこれまで通りの利便性を確保したい。 結果生じた次年度使用額は、そのまま本研究の継続に用いる他、今後の研究の推進方策欄にもあるように理不尽な処分で異動になったので、新たな研究環境構築のコストに充てざるを得なくなった。
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